※本記事は2009年1月9日に公開したものです。
今月某日、筆者はあるインデックス投資の愛好家が主催するイベントのパネルディスカッションに出演することになった。主催者と打ち合わせたところ、パネルディスカッションで取り上げる質問をあらかじめ4つほど提示していただいた。今回はこれらの4つの質問に答えてみよう。
質問は以下の4つだ。
Q1:あなたにとってインデックス投資とは何か?
Q2:現在イチオシの投資法は何か?
Q3:投資の初心者は最初に何をすればよいか?
Q4:投資にあって「これだけはやってはいけない」ということは何か?
特にQ1については、時間の関係で、私は件(くだん)のイベントでは長時間話すことができないようなので、少し詳しく答えよう。
Q1:あなたにとってインデックス投資とは何か?
私にとってインデックス投資とは、株式投資にあって「ローコストな分散投資の手段」ということに尽きる。インデックス・ファンドはアクティブ・ファンドよりも、運用報酬と(投資信託の場合、信託報酬)売買手数料が安いことが多く、この点がインデックス・ファンドの最大の魅力だ。これは、投資する主体が個人であっても年金基金のような機関投資家であっても変わらない(注:筆者は、国家公務員共済組合連合会の運用委員会の委員を務めている)。
インデックス・ファンドに運用結果が勝るアクティブ・ファンドを「事前に」選ぶことができず、インデックス・ファンドの方がローコストである以上、論理的には、アクティブ・ファンドを買う理由は、非合理的な好き嫌い以外にない。
インデックス・ファンドがリテール金融機関で売られている投資信託なのか変額保険なのか、ETF(上場投資信託)なのかということについては、本質的な違いがあるとは思っていない。リテールの投資信託は小口で売買できることが便利だが、今のところETFよりも傾向として信託報酬が高いのが難点だ。
一方、ETFは、純資産と売買価格とのかい離、出来高が小さい場合の売買の流動性の乏しさや上場廃止リスクといった、ファンドによっては難点になりやすい要素を持っているが、残高・売買が十分大きくなったファンドにおいてはこうした問題が実質的にほとんどないので、これを資産形成のための投資手段として有効に使うことができる。
ETFの場合、信託報酬が安いことが圧倒的な魅力であり、現在、インデックス・ファンドに投資する場合の、第一の選択肢だろう。ただし、ETFが、個別の上場株式のように、信用買いや空売りができることについては、インデックスに関して先物やオプションがあるので興味がない。
また、リテールの投資信託も、手数料コスト(特に信託報酬)が下がれば、ETFに勝る投資対象になる可能性がある。
対象とするインデックスのポートフォリオとしての内容には優劣があると考えている。たとえば、ポートフォリオとしての日経平均は、値がさ株のウェイトが過剰に大きく、いわゆるハイテク株の比率も高いため、投資するポートフォリオとして、バランスが取れていない。このため、日本株に投資するのであれば、 TOPIX(東証株価指数)の方が「いいポートフォリオ」だと考えている。米国株のインデックス・ファンドを考える場合も、いわゆるニューヨーク・ダウよりもS&P500の方が「いいポートフォリオ」だろう。
ただし、TOPIXやS&P500のような時価総額ウエイトのインデックスが「特別にいいポートフォリオ」だとは考えてはいない。古い投資の教科書では、これらを、CAPM(資本資産市場モデル)の「マーケット・ポートフォリオ」であるかのように扱うことがあるが、CAPMのマーケット・ポートフォリオは、全てのリスク資産を時価総額ウエイトで保有するポートフォリオなので、特定の一国の上場銘柄だけのポートフォリオとは別物だ。また、CAPMは、前提条件が現実に成立していない。
従って、投資対象は、有名な株価指数以外のインデックスやアクティブな株式ポートフォリオであっても構わないと思っている。要は、ポートフォリオとして好ましい性質(十分な分散投資など)を持っていて、ローコストであればいいのだ。投資の目的によっては、TOPIXやS&P500以外の選択肢もあり得るし、カスタマイズされたベンチマークを使う運用の可能性も有望だ。
Q2:現在イチオシの投資法は何か?
第一の選択肢としては、拙著「超簡単 お金の運用術」(朝日新書)や当連載のETFを使った個人資産運用~簡便法~で書いたように、リスク資産部分を日本株4割、外国株(MSCI-KOKUSAIで代表している)6割の比率で投資するのがいいと思っている。その実現手段として、目下最もローコストなのは、ETFだろう。
リスクを取りたくない運用金額に関しては、個人向け国債(変動金利型10年満期)かMRF(マネー・リザーブ・ファンド)をお勧めする。
しかし、もう少し運用を楽しんでみたい人には、個人的に日本株については、株価が大きく下がった株(東証1部で、株価100円以下の銘柄)を数十銘柄まとめて買うのがいいと思っている。大きく下げたものの中には、倒産するものもあるかもしれないが、残った銘柄の景気が回復したときのリバウンドで、十分以上に相殺されるだろう。
Q3:投資の初心者は最初に何をすればいいか?
どのような投資家になりたいかで、やるべきことは少々異なる。スポーツや将棋・囲碁のようなゲームでも、どのレベルを目指すかによってやるべきことには、違いがある。
初心者の場合、(1)基礎的な知識をインプットすること(できるだけ良質の解説書を読んで欲しい)、(2)自分の家計がどのくらいの大きさのリスクを取ることができるか見極める作業をすること、(3)インデックス・ファンドを買ってポートフォリオを作ること、だろうか。
自分で銘柄を選び投資ウェイトを決めて株式のポートフォリオを作るような投資家(あるいは運用のプロ)を目指す人の場合は、基本的な知識のインプットを別とすると、「情報(=刺激)」と「反応」の組み合わせをたくさん見るべきだと思う。
典型的には、企業の業績予想の発表と直近までの情報とを比べてその「差」(情報上のインパクト)と株価の変化を多数見ることが重要だ。たとえば、万一、筆者が株式のファンドマネジャーを一から育成することになったら、マン・ツー・マンでこのトレーニングをするだろう。
Q4:投資にあって「これだけはやってはいけない」ということは何か?
いくつかのレベルがあるが、第一に、自分が理解し納得できない商品に投資してはいけない。他人にも説明できるくらいに自分で理解したもの以外に対して、お金(あるいはリスク)を動かしてはいけない。
第二の注意をあえていうと、「自分がアドバイスを求める専門家から運用商品を買ってはいけない」ということだ。
銀行員に運用を相談してその銀行から運用商品を買う、という形だと、この銀行員は、忠実で正直なアドバイザーとして機能し得ない。証券マンでも同様だし、金融仲介業を営むFP(ファイナンシャル・プランナー)も同様だ。
【補足】
2009年の「インデックス投資ナイト」を前に、主催者から投げかけられた事前質問に詳しく回答するつもりで書いた原稿だ。
リスク資産は「外国株6割+国内株2割」、無リスク資産として「個人向け国債変動金利型10年満期」という組み合わせは基本的に現在も変わっていないし、述べている内容は現在も違和感がない。その後、MRFが利用できなくなったり、通常の公募投信の信託報酬がETF並み、あるいはさらに下がっていること、さらにNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の拡張など、環境の変化があるが、2009年当時の考え方の延長線上で処理できたはずだ。
「もう少し運用を楽しんでみたい人には、個人的に日本株については、株価が大きく下がった株(東証1部で、株価100円以下の銘柄)を数十銘柄まとめて買うのがいいと思っている」と大胆なことを書いているが、執筆時点の2009年の1月は7,000円台の日経平均が見られた時だから、実践してくれた人がいたら、随分儲(もう)かったのではないか、などとさまざまに懐かしい。
今も昔も、「よく分散された、低回転率、低コストなポートフォリオ」があれば、これに投資すればいいという基本は変わらない。対象は必ずしも有名インデックスでなくてもいい。(2020年9月10日 山崎元)
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