はじめに

 今回のアンケート調査は2020年8月31日(月)~9月2日(水)の期間で行われました。

 8月末の日経平均は2万3,139円で取引を終えました。前月末終値(2万1,710円)からは1,429円高と上大きな上げ幅となり、月足ベースでも上昇に転じています。

 前月末の株価急落を受けて始まった8月相場は反発スタートで落ち着きを取り戻し、その後も抗コロナウイルスのワクチンや治療薬開発への期待や決算シーズンの通過、金融緩和政策継続などを背景に上昇する米国株市場にけん引される格好で、2万2,000円台から2万3,000円台乗せへと株価水準を段階的に切り上げていきました。

 とはいえ、値動き自体は「窓を空けて上昇した後に失速する」というパターンが繰り返され、日本株自体の強さに欠けたほか、いわゆる「夏枯れ」で売買が低調となる場面も多くみられました。また、月末には安倍首相の辞任報道を受けて相場の動きが慌ただしくなる局面もありました。それでも2万3,000円台を維持して月間の取引を終えられたことは比較的明るい状況といえます。

 このような中で行われた今回のアンケートは、6,400名を超える個人投資家からの回答を頂きました。DIの結果ですが、前回の「株安・円高」見通しから大きく改善するものとなりました。株価水準を切り上げた後も底堅く推移している相場状況が反映された印象です。

 次回もぜひ、本アンケートにご協力をお願いいたします。

日経平均の見通し 

楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之

「堅調な相場環境でDIが大きく改善」

 今回調査における日経平均の見通しDIは、1カ月先がプラス0.74、3カ月先はマイナス1.64となりました。前回調査の結果がマイナス35.60、マイナス25.74でしたので、それぞれDIの値を大きく改善させました。1カ月先DIがプラスに転じるのは5月調査以来、2020年に入ってからは2度目です。

 回答の内訳グラフで具体的な状況を見てみると、1カ月・3カ月ともに中立派が約半分を占めており、相場の先行きに対して目立った方向性が感じられないものの、前回調査で少数となっていた強気派が盛り返しており、目先の相場が下振れする警戒感がかなり後退している印象です。

 今回のアンケート期間(8月31日~9月2日)は、前週末の安倍首相の辞任報道を受けて株式市場がざわついた直後に実施されたのですが、国内株市場は早い段階で落ち着きを取り戻し、日経平均も2万3,000円台で推移していたことも安心感につながった模様です。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成
出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 さらに、アンケート期間終了後の9月3日の取引では、日経平均の終値が2万3,465円となり、新型コロナウイルスの感染拡大で急落する前の水準(2月21日の2万3,386円)を超えてきました。

 8月の日本株の上昇は米国株高にけん引されてきた面がありますが、その米国株市場では9月に入って急落する場面を見せています。とりわけ米NASDAQの下げは大きく、9月3日と4日の2日間で6%以上の下げとなっています。今後の相場を見ていく上で気がかりなのは、こうした米国株急落が「健全な調整」なのか、それとも「相場の変調」なのかです。

 確かに、最近までの米国株市場はNASDAQやS&P500が連日で史上最高値を更新するなど、過熱感を指摘する声も多く、そろそろ調整局面が来てもおかしくはない状況でしたし、米雇用統計といった経済指標のほか、NYダウの銘柄入れ替えが実施されたり、アップル株やテスラ株の株式分割の影響があったり、米ネット証券のロビンフッドに対してSEC(米証券取引委員会)が注文処理の開示をめぐって調査に入ったと報じられたり、米ハイテク株の急騰の影にソフトバンクグループの関与が報じられるなど、売りの口実となるきっかけに事欠かないタイミングでもありました。

 そのため、しばらくは値動きが荒くなる可能性はあるものの、今のところは「健全な調整」の範囲と考えることができます。

 ただし、9月中旬以降のスケジュールを確認すると、ティックトック(TikTok)の米国事業売却交渉期限(15日)をはじめ、FOMC(連邦公開市場委員会)(15~16日)や1回目の米大統領候補討論会(29日)など、米国では注目のイベントが相次ぎます。イベントの多さによって積極的に上値を追いづらくなるほか、下げる場面が増えるなど、調整の長期化・深押しの可能性があり、「相場の変調」となりかねない展開には注意しておきたいところです。

今月の質問 「株主優待の特典を知っていますか?」

楽天証券経済研究所 根岸 美知代

 株主優待を実施している会社は、1,484社あり、そのうち519社が「継続保有特典」を設定しています。

「継続保有特典」とは、どのようなものなのか説明します。例えばA社の場合、100株以上を1年未満保有で1,000円分のお食事券がもらえるところ、1年以上2年未満継続保有で2,000円分、2年以上継続保有で3,000円分と多くもらえます。

 このように株を長期保有することにより通常の優待内容が増えたり、さらに特典がついたりする仕組みを「継続保有特典」と言います。

【今月の質問1】 株主優待に継続保有特典があるのを知っていますか。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

【今月の質問2】 継続保有特典銘柄の株を持っていますか。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

「継続保有特典」を「知っている」は67.82%いらっしゃいましたが、「持っている」は33.65%とその半数くらいとなります。 どういう銘柄がおすすめで、その特典はどのようなものなのでしょうか。

【今月の質問3】 継続保有特典のあるおすすめ銘柄があれば、ひとつだけ銘柄名を教えてください。

 皆様からいただいた「おすすめ銘柄」TOP10です。

順位 銘柄 株主優待内容
(100株保有の場合)
継続保有
特典
2019年8月 順位
1 8591
オリックス
株主カード・カタログギフト
(3月のみ)
3年以上継続保有の場合、カタログの内容は異なる 1ー
2 9433
KDDI
「AU PAYマーケット」商品カタログギフト
3,000円相当
5年以上継続保有の場合
・100株以上1,000株未満 5,000円相当
・1,000株以上 10,000円相当
6↑
3 9831
ヤマダ電機
優待割引券
(500円)
3月:2枚
9月:4枚
(3月のみ)
100株以上を1年以上2年未満継続保有(株主名簿に連続3回以上5回未満記載)3枚、
2年以上(連続5回以上記載)の株主には4枚追加
(9月のみ) 100株以上を1年以上継続保有(株主名簿に連続3回以上記載)の株主には1枚追加
4↑
4 2914
日本たばこ産業
1年以上継続保有した株主のみに、自社および自社グループ会社商品(食品等)
2,500円相当
※100株以上を1年以上継続保有した株主のみに贈呈 5↑
5 3048
ビックカメラ
買物優待券
(1,000円)
8月:1枚
2月:2枚
(8月のみ)
1年以上2年未満継続保有(株主名簿に連続3回以上5回未満記載)の株主には1枚、2年以上継続保有(連続5回以上記載)は2枚追加
3↓
6 8267
イオン
優待カード
(オーナーズカード)3%
(2月のみ)
3年以上継続保有した株主のみに自社ギフトカードを贈呈
2↓
7 4755
楽天
「楽天キャッシュ」の付与500円相当 5年以上継続保有の場合500円増
(要会員登録)
19↑
8 3397
トリドールホ-ルディングス
割引券(100円)
30枚
200株以上を1年以上継続保有の場合
30枚を追加
41↑
9 8697
日本取引所グループ
1,000円相当のクオカード 1年以上2年未満継続保有の場合
2,000円相当、
2年以上3年未満継続保有の場合
3,000円相当、
3年以上継続保有の場合
4,000円相当
12↑
10 3387
クリエイト・レストランツ・ホールディングス
優待食事券
2,000円相当
1年以上継続保有の場合、
400株以上3,000株未満は2,000円相当、
3,000株以上6,000株未満は4,000円相当、
6,000株以上9,000株未満は6,000円相当、
9,000株以上は8,000円相当を追加
10ー

 おすすめの1位は、2年連続で「オリックス」となりました。 

 今回もたくさんのご意見をいただきました。ありがとうございます。

為替DI:「円高」警戒モード、ほぼ解除へ

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 

「9月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 8月末に楽天証券が実施した相場アンケート結果によると、回答頂いた個人投資家6,446人のうち約42%(2,713人)が、9月のドル/円は「ドル安/円高に動く」と予想していることがわかりました。

「円安に動く」は最も少ない約24%(1,545人)で、「動かない(わからない)」は約34%(2,188人)でした。

 DI(円安見通しと円高見通しの差)は▲18.12で 6カ月連続のマイナス。マイナスは円安見通しを持つ個人投資家が円高見通しを持つ個人投資家より少ないことを意味しています。ただし、マイナス幅は先月に比べて15ポイントも大きく縮小しています。円安見通しもここにきて、少しずつ増えています。

 8月28日、安倍首相は辞意を表明しました。第1次政権と合わせると8年8カ月にわたった歴代最長政権は、ついに幕を閉じることになりました。日本の政治体制は、次の総理大臣が誰になろうとも変わることはなく続いていくのでしょう。アベノミクスはどうか? アベノミクスは「安倍首相と共に去りぬ」というのが海外投資家の共通認識です。

 アベノミクス以前の日本は、ゼロ金利、ゼロインフレそしてゼロ成長の、経済的にも政治的にも何も起きず、注目されることもありませんでした。皮肉にも、そのために円は「セーフヘブン(安全資産)」と呼ばれ、逃避マネーの受け皿となって2011年には1ドル=75円まで円が買われたこともありました。

 そこに登場した安倍首相は、日本の政治リーダーとしてだけではなく、日本の経済のオピニオンリーダーとなって世界からマネーを惹きつけることに成功しました。日本はリーマンショック後の世界経済のけん引役として世界的な期待が集まり、円安も大目に見られました。国内的にも、アベノミクスがバブル崩壊後から長期間続いていたデフレを終わらせる状況をつくったことは、日本経済にとっては非常に大きかった。プライマリーバランスの赤字もある程度まで縮小させることもできました。

 次の首相はアベノミクスを継承するでしょうが、アベノミクスが発表された当時に日本経済に巻き起こった熱狂を復活させることはできません。アベノミクスは死なずとも、消え去る運命なのです。

 その結果、日本経済の勢いは失われ、財政健全化の道のりもはるか先に遠ざかることになります。円は再び「セーフヘブン」の位置に戻り、世界情勢のストレスが高まるなかで、大幅に円高が進む可能性があります。

 2011年に75円台まで円高だったドル/円は、アベノミクス時代の2015年には125円台まで円安に動きました。そのちょうど中間点の100円まで戻ってもおかしくはないと考えています。

 8月のユーロ/円の終値は126.40円。7月終値に比べて約1.70円のユーロ高/円安でした。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 8月末に楽天証券が実施した相場アンケート調査の結果によると、回答頂いた個人投資家6,446人のうち約27%(1,732人)が、9月のユーロ/円は「ユーロ安/円高に動く」と予想していることがわかりました。

 一方で「ユーロ高/円安に動く」は、先月よりわずかに増えたものの、依然として最も少ない約22%(1,391人)。「動かない(わからない)」は、約51%(3,323人)でした。

 ユーロ/円のDI(円安見通しと円高見通しの差)は▲5.29で6カ月連続のマイナス。マイナス幅は先月に比べ約6ポイント縮小しました。マイナスはユーロ高見通しを持つ個人投資家がユーロ安見通しを持つ個人投資家より少ないことを意味しています。マーケットのユーロ/円はこの6カ月間で、終値だけで比較しても8円近くユーロ高に動いています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 8月の豪ドル/円の終値は78.13円。7月の終値に比べて約2.50円の豪ドル高/円安でした。8月末に楽天証券が実施した相場アンケート調査の結果によると、回答頂いた個人投資家6,446人のうち約25%(1,621人)が、9月の豪ドル/円は「豪ドル安/円高に動く」と予想していることがわかりました。

「豪ドル高/円安に動く」は約20%(1,308人)で最も少なく、「動かない(わからない)」は約55%(2,660人)で半数を超えています。

 豪ドル/円のDI(円安見通しと円高見通しの差)は▲4.85で6カ月連続のマイナス。マイナス幅は先月から約9ポイント縮小しました。マイナスは豪ドル高見通しを持つ個人投資家が豪ドル安見通しを持つ個人投資家より少ないことを意味しています。マーケットの豪ドル/円はこの6カ月間で、終値だけで比較して12円も豪ドル高に動いています。

今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、毎月実施している質問「今後、投資してみたい国(地域)」で、「アメリカ」を選択したお客様の割合に注目します。

 当該質問は複数回答可で、選択肢は、日本、アメリカ、ユーロ圏、オセアニア、中国、ブラジル、ロシア、インド、東南アジア、中南米(ブラジル除く)、東欧、アフリカ、特になし、の13個です。

図:質問「今後、投資してみたい国(地域)」で、「アメリカ」を選択した人の割合と、NYダウの推移(月足 終値)

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 2020年8月の調査で「アメリカ」を選択した人の割合は、65.3%でした。この値は、楽天DIの調査がはじまった2008年10月以来の最高です。それまでの最高は、英国のEU離脱をめぐる国民投票が行われるおよそ半年前の、2015年11月につけた64.1%でした。

 2016年6月に行われた英国のEU離脱をめぐる国民投票の結果は、英国国民はEUを離脱することに賛成する、というもので、世界に強い不安を与えました。世界屈指の経済規模を誇り、世界経済のけん引役と言われたアメリカへの投資意欲にもマイナスの影響が及び、投票直後に行われた楽天DI調査では、「アメリカ」を選択した人の割合は28.6%まで急低下しました。

 しかし、急低下した後は、NYダウなどの米国の主要株価指数の上昇とともに、みるみる回復していきました。2017年1月に誕生したトランプ政権のもと、法人減税などが功を奏し、米国の主要株価指数はどんどんと上昇していきました。この上昇が日本の個人投資家の関心を誘ったことは、上図の2017年以降の2つの値の連動性の高さから、想像できます。

 2020年に入り新型コロナウイルスの感染拡大が起き、パンデミック化し、同ウイルスが世界中で猛威をふるう世の中になりました。株価は一時的に反落したものの、株価回復時、これまで以上に、アメリカに投資をしてみたいと思う人の割合が増え、2020年8月、ついに過去最高値を上回ったのです。

 つまりは、アメリカに投資をしてみたいと思う人の割合は、おおむね“株価次第”と言えるわけです。今後、株価が上値を伸ばせば、アメリカに投資をしてみたいと思う人の割合はさらに増加し、過去最高を更新する可能性があります。

 65.3%だった8月は、全回答者6,446人中、4,215人が「アメリカ」を選択しました。一方、同月の「日本」は36.8%(2,373人)でした。今後、投資対象の選好における“日米格差の拡大”も、注目しなければなりません。

表:今後、投資してみたい金融商品 2020年8月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域) 2020年8月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成