回復が鮮明になった米国経済

 最近発表された経済指標では米国経済の回復が鮮明になっています。まず下は「ISM製造業景況感指数」です。

米国ISM製造業景況感指数

出所:ISM(全米供給管理協会)

 次は失業率です。

失業率

単位:%
出所:労働統計局

「5年先5年物期待インフレ率」は、今から5年先を起点とし、そこからさらに向こう5年間のインフレ率に関し投資家がどのようなシナリオを織り込んでいるかを示したチャートです。

5年先5年物期待インフレ率

単位:%
出所:セントルイスFRB(米連邦準備制度理事会)

 これを見ると新型コロナウイルス発現前の水準まで、投資家の長期でのインフレ期待は戻ってきたことが読み取れます。

 もし経済が元に戻るのであれば、今回の新型コロナでとりわけ打撃を受けた景気循環株の投資機会に関し、そろそろ再訪すべき時が来たように感じます。

米経済回復で注目の景気循環株

タペストリー

 タペストリー(TPR)はラグジュアリー・グッズのブランドで「コーチ」「ケイトスペード」「スチュワート・ワイツマン」を傘下に持っています。

 同社はかつて極めて高い営業キャッシュフロー比率を誇る、財務的にとてもしっかりした会社でした。

 しかし、ハンドバッグ市場の魅力に気がついたライバル企業が続々と新規参入してきたにもかかわらず、手をこまねいていたことや、経営トップの行状を巡る疑惑など、放漫経営がたたり、近年は株価が低迷しています。

 CEO(最高経営責任者)が辞任後、現在は暫定CEOの下、実質的に各ブランドの責任者が最終的な意思決定の実権を握り、現場の判断で経営の立て直しが推し進められています。折からの新型コロナ影響で、過去に例がないほど経営環境は厳しいものの、これがかえって改革の断行をしやすくしており、各事業部ともに在庫を大幅に減らす、商品点数をバッサリ減らし、売れ筋商品だけに絞り込む、値引きを止めるなどの新方針を打ち出しています。

「ケイトスペード」ではブランド・アイデンティティーを取り戻すことを目指しています。具体的には色、実用性、楽しさ、楽観主義などを体現するブランドであることを再強調していきます。それとの絡みでノベルティー商品が最近伸びています。ここ数カ月でインスタグラムのエンゲージメントが25%向上しました。

「スチュワート・ワイツマン」では同ブランドの特徴である履き心地の良さ、クオリティーの高さの面で、評判を取り戻すことを主眼に置いています。

 タペストリーの第4四半期(6月期)決算はEPS(1株当たり利益)が予想▲61セントに対し▲25セント、売上高が予想6.75億ドルに対し7.15億ドル、売上高成長率は前年同期比▲52.8%でした。売り上げトレンドは6月から7月にかけて尻上がりに改善しています。同社はデジタル戦略にとりわけ力を入れています。

デルタ・エアラインズ

 デルタ・エアラインズ(DAL)は米国の3大航空会社の一つですが、その中で最も負債が小さく、堅実に経営されている企業です。

エンタープライズ・バリュー

単位:10億ドル
出所:ヤフー・ファイナンス(2020年9月9日)

 第2四半期決算はEPSが予想▲4.24ドルに対し▲4.43ドル、売上高が予想14億ドルに対し14.7億ドル、売上高成長率は前年同期比▲88.3%でした。

 現在は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で旅客が激減しています。ワクチンが完成し、人々の暮らしが元に戻った後も、ズームを使ったビデオ会議などは定着するので出張は減ることが予想されます。つまり航空会社の旅客は、もう二度と新型コロナ前の水準まで戻らないかもしれないリスクがあります。

 それを考慮した上でも現在の株価水準は安く、見直し買いが入りやすいと思います。

ウォルト・ディズニー

 ウォルト・ディズニー(DIS)にとって重要なビジネスにテーマパーク部門があります。ディズニーランドは新型コロナウイルス感染拡大で一時閉鎖を余儀なくされ、大打撃を受けました。

 第3四半期(6月期)決算はEPSが予想▲64セントに対し8セント、売上高が予想124.8億ドルに対し118億ドル、売上高成長率は前年同期比▲41.7%でした。

 メディア・ネットワーク部門売上高は前年比▲2%の66億ドルでした。営業利益は+48%の32億ドルでした。

 ケーブル・ネットワーク部門売上高は▲10%の40億ドルでした。営業利益は+50%の25億ドルでした。ESPNが寄与しました。

 テーマパーク部門売上高は▲85%の10億ドルでした。営業利益は20億ドルの赤字でした。

 ダイレクト・ツー・コンシュマー部門売上高は+2%の40億ドルでした。営業利益は7.06億ドルの赤字でした。「ディズニー+」の加入者数は5,750万人でした。

ゼネラル・モーターズ

 ゼネラル・モーターズ(GM)はライバルのフォード(F)と並んで屈指のピックアップ・トラック・メーカーです。

 同社は先日、EV(電気自動車)トラックのニコラ(NKLA)が企画している「バジャー」というEVピックアップ・トラックの生産を担当すると発表しました。それと同時にGMはニコラの11%株式を取得し、深い業務提携関係を結びました。

 これによりニコラはGMのディーラー網で「バジャー」を販売することができるようになり、加えてGMはEV車を生産した際に与えられるカーボン・クレジットを獲得するため、今までのように他社からカーボン・クレジットを購入する必要が低下します。

 GMの第2四半期決算はEPSが予想▲1.76ドルに対し▲0.50ドル、売上高が予想169.3億ドルに対し168億ドル、売上高成長率は前年同期比▲53.4%でした。

フリーポート・マクモラン

 フリーポート・マクモラン(FCX)は世界屈指の銅の生産会社です。金も生産しています。

 銅は景気回復、とりわけ住宅建設に需要が連動していることで知られています。またEVは普通の乗用車より4~5倍の銅を消費すると言われていますのでEVの普及は長期では追い風になります。

 石油や天然ガスはシェール技術により、価格が上ればいくらでも供給が増えてしまう産業構造になっているのですが、これと対照的に新しい銅山は滅多に発見されません。その関係で需要のサイドだけを心配しておけば良いです。