日本でも平成23年3月期以降包括利益の表示がはじまる

平成23年(2012年)3月期以降の上場企業の決算書に、「包括利益」という何やら耳慣れない言葉が出てきていることにお気づきでしょうか?

また、会社四季報の最新号(2011年第3集)をよくみると、「包括利益」という欄が見つかります。

国際財務報告基準及び米国会計基準においてはすでに包括利益の表示が行われていましたが、日本の会計基準では求められていませんでした。しかし、国際的な会計基準の動きに対応するため、平成23年3月31日以後に終了する連結会計年度末に係る連結財務諸表から、日本でも包括利益の表示が行われることになりました。包括利益の表示は、「包括利益計算書」を用いて行われます。

平成23年3月期の各企業の決算短信をみると、従来「連結損益計算書」とされていたものが「連結損益計算書及び連結包括利益計算書」に変更されていることが分かります。

包括利益とはいったい何?

ところで、包括利益とはいったいどんなものなのでしょうか。包括利益会計基準では、包括利益は「ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいう」と定義されています。でも、これでは何を言っているかさっぱり分からないですね。

企業会計で一般に使われている複式簿記には、損益計算書の利益は同額の貸借対照表の純資産の増加をもたらすという原則があります。そして、増資等の資本取引の影響を除けば、貸借対照表の期首と期末の純資産の差額が損益計算書の利益の額と等しくなるという関係があります。

ところが、近年の度重なる様々な会計基準の制定・変更などにより、貸借対照表の純資産の中に、損益計算書の当期純利益とは関係のないものが混ざってしまうようになりました。

そのため貸借対照表の純資産の中身をいくつかに分類し、そのうちの「株主資本」と損益計算書とを対応させ、「損益計算書の当期純利益=貸借対照表の株主資本の期首と期末の差額」という関係を維持させました。

その一方、純資産のうち損益計算書の利益とは関係のないものは「評価・換算差額等」として分類し、その増減額は貸借対照表のみに反映させ、損益計算書には一切関係させないようにしていました。

しかし、もともとの大原則である「当期の利益=純資産の期首と期末の差額」という関係を重視しようという見方が高まるとともに、国際的な会計基準との整合性をとる必要も出てきました。

そこで、純資産の変動をもたらす取引は資本取引を除いて全て利益に関連させ、「当期の利益=期首と期末の純資産の差額」という関係が成立するようにしました。このときの利益が「包括利益」と呼ばれるものです。

「その他の包括利益」が分かれば「包括利益」も分かる

当期純利益は株主資本の期首と期末の差額と等しくなり、包括利益は純資産の期首と期末の差額と等しくなります。株主資本は純資産の一部ですから、当期純利益よりも包括利益の方がより広い範囲を表していることになります。

このことから、包括利益と当期純利益との間には、「包括利益=当期純利益+その他の包括利益」という関係が成り立ちます。

包括利益は当期純利益とその他の包括利益の合計です。当期純利益は皆さんすでにお分かりと思いますから、「その他の包括利益」が何であるかが分かれば包括利益の意味も理解できます。

その他の包括利益は、包括利益には含まれるが当期純利益の構成要素にはならないもので、具体的にはその他有価証券評価差額金(長期保有目的の有価証券の帳簿価格と時価の差額)の当期増減額や、為替換算調整勘定(為替レートの変動による海外子会社の資産価値の増減)の当期増減額です。ざっくり言えば企業が保有する資産・負債の時価の変動額です。

「評価・換算差額等」は「その他の包括利益累計額」に名称変更

実は、従来もその他の包括利益の変動は貸借対照表で表示されていました。貸借対照表の純資産の中の「評価・換算差額等」がそれです。この「評価・換算差額等」の増減額こそが「その他の包括利益」を表していたのです。

今後は、包括利益計算書によりその他の包括利益の変動を科目ごとに明らかにすることとしました。これにより貸借対照表に特段の変更はありませんが、包括利益の導入に伴い、従来の「評価・換算差額等」の名称が「その他の包括利益累計額」に変更されました。名前が変わっただけで中身は同じです。

次回は、包括利益の導入が個人投資家に与える影響について考えてみたいと思います。