iDeCoにだけ「口座管理手数料」がかかる不思議
銀行口座を開設していても、原則として費用はかかりません。一部の銀行については、休眠状態にある口座について手数料を徴収する例がありました。ただし、2021年から新規口座開設時に通帳発行費を顧客負担してもらう銀行もあります(インターネット通帳にすれば無料)。
証券口座も基本的には口座開設、口座維持にはお金がかかりません。むしろ証券会社は多くの人の口座開設を歓迎しており、顧客への付随サービス(口座開設者が利用できる投資情報の検索・収集など)を考えれば、逆に年数千円くらいの費用を払ってもいいくらいの充実したサービスぶりです。もちろん、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で口座管理手数料の名目でお金を取られることはありません。
公的な制度でも基本的には手数料の概念はありません。国民年金基金や小規模企業共済に積み立てたからといって、月数百円を徴収することはありませんでした。
その点で特殊なのがiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)です。国の制度でありながら、資産の移換時の手数料やランニングコストを求められます。
まずiDeCoに新規加入時から、2,829円(税込み)の事務手数料が国民年金基金連合会から徴収されます(掛け金から控除する)。
そして、毎月の掛け金を拠出している場合、「国民年金基金連合会:月105円」「信託銀行:月66円」「運営管理機関:金融機関により異なる額」が掛け金から控除されます。
楽天証券他、運営管理機関手数料を無料としている金融機関が多いものの、最低でも月171円は必ずかかるので、年では2,052円が引かれることになります(国民年金基金連合会の月105円は掛け金を納付した月のみかかるので、年1回納付のような年単位化の制度を利用している場合、負担の低減が可能)。
つまり、年27.6万円の掛け金を拠出しても、27万3,948円しか実際には投資に回らないことになります(初年度は2,829円がさらにかかるため、実質27万1,119円)。
このことから「iDeCoは最初から運用がマイナス」と感じる人は多く、私が講演などで話しているときも、受講者の反応として強い印象があります。
果たして、この理解は正しいのでしょうか。誤解だとすればどうして誤解が生じるのでしょうか。
掛け金を拠出するならば、基本的に手数料以上の「得」がある
NISAや通常の証券口座、預貯金といった資産形成と大きく異なる点が、iDeCoや企業型DC(確定拠出年金)のマッチング拠出には一つあります。それは「所得控除」のメリットです。掛け金については全額が課税所得の対象から外れますから、税金の計算をすれば、その分の節税効果が生まれることを抜きにするわけにはいきません。
年収や家族構成によりますが、一般的な会社員なら20%相当の節税効果は期待できます。先述のように年27.6万円の拠出をした場合なら、年5.52万円の税軽減効果となります。住民税は翌年の課税額を減らすことで調整され、所得税は毎月の源泉徴収の段階で調整されるか、年末調整の還付金(あるいは確定申告)で調整されますから、まとまった形で実感しにくいものの、大きな負担減になることは確かです。
そうならば
「(拠出額)-(手数料)=(実際の投資額)」
だけを考えるのでは足りておらず、
「(拠出額:[実負担額]+[税控除分、つまり本来なら納税していた分])-(手数料)=(実際の投資額)」
というふうに、掛け金のところを考えてみる必要があります。
実は「27.6万円の掛け金のうち、実負担は22.08万円分である」と考えられ、最終的な入金額が27万3,948円になるなら、手数料が引かれる以上の価値がある仕組みということになります。むしろ「運用としてはプラス」になっているわけです(※課税所得のない専業主婦[夫]、パートやアルバイトで国民年金の第3号被保険者の場合は、この所得控除のメリットは生じません)。
税もあなたの資産形成に生じる「コスト」だ
もちろん、所得控除が認められる資産形成と比較するという発想であれば、「小規模企業共済」「国民年金基金」も同様のメリットがあり、かつ手数料なしです。
そして、この2制度と比較した場合は、iDeCoのほうが手数料のある分、不利となり、その分を運用で稼げるかどうかの比較となります(小規模企業共済や国民年金基金は個人の運用選択の余地がない)。
また、受取時課税の問題もあります。拠出期間などをベースに、退職所得控除などの非課税枠を得ますが、他に退職金・企業年金などを受けたりすると、非課税枠は共有される考え方になるので、出口で課税をされる可能性があります。ただし課税分については2分の1課税になりますし、また現役時代の給与所得への課税と比べれば、拠出時に生じたはずの税率以上にかかることはないでしょう。
税は、あなたの人生に生じる「コスト」であることは間違いありません。社会システムに参加している一員として、定められた範囲で税を納める義務を負っていますが、同時に法のゆるす範囲で納税額を少なくすることを試みることはおかしな話ではありません。
特に会社員にとっては住宅ローン減税とiDeCoくらいしか所得控除を得られる枠はなく(小規模企業共済や国民年金基金は自営業者や中小企業経営者が利用する)、このメリットを利用しない手はありません。
税メリットを理解できない人はiDeCoを始めるには早い?
「口座管理手数料がかかるからiDeCoはマイナスである」という誤解があるたびに感じるのは、「税金を踏まえた損得計算」というのはかなり難しいということです。計算が難しいというのではなく、私たちが税についてあまりなじみがないためです。
所得控除が「27.6万円拠出すれば、税金が27.6万円減る」という意味ではないことを理解するためには、「実際の所得から所得控除額を引いたものが課税所得で、そこから税金額を計算する」という基本的な仕組みをきちんと理解しておく必要があります。
また、課税所得を減らせばなんでもいいわけではありません。
個人事業主が買い物をして経費を増やしても課税所得は減りますが、それは手元に残るわけではなく消費です。iDeCoへの拠出額は将来自分に戻ってくる財産であり、資産の受け取り時期を遅らせるだけで、目の前の税負担を軽くできるからこそ、加入の意義があるわけです。
私自身も個人事業主になって、また個人会社の社長(社員はゼロですが)になってはじめて、税金のことや社会保険料のことを具体的に考えました。確定申告も一度やった人とそうでない人の間には、おそらく税理解に圧倒的な差があると思います。
トータルで資産の管理運用を考えるなら、税金の理解は避けて通れません。ちょっと学べばそう難しいことではありません。iDeCoを検討するときにはざっとでも調べてみてください。
「iDeCoは中途解約ができないことが使いにくくて、NISAのほうがいい」というのはその通りかもしれません。しかし「iDeCoは手数料がかかるから……やはりNISAかな」というのはおかしい話なのです。
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