毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)、アドバンテスト(6857)、レーザーテック(6920)、SCREENホールディングス(7735)、ディスコ(6146)
1.2020年6月の世界半導体出荷金額は前年比7%増
今回の特集は、半導体製造装置株です。2021年3月期1Q決算と2021年3月期、2022年3月期の各社の業績見通しを踏まえて、現在調整中の株価がいつ頃上昇に転じるかを見極めたいと思います。
まず、世界の半導体市場の現状を概観したいと思います。2020年6月の世界半導体出荷金額(単月)は、373億200万ドル(前年比7.0%増、前月比9.4%増)となりました。地域別向け先で目立つのは南北アメリカ向けで前年比30.1%増と高い伸びが続いています。アメリカのデータセンター投資が続いているためと思われます。
次に目立つのが欧州向けで、前年比9.2%減と減少ですが、4、5月の前年比20%前後の大幅減から減少率が縮小しました。最大消費地のアジア・太平洋向け(中国向けを含む)は前年比4.0%増と堅調な回復が続いています。
一方、日本は前年比3.0%減となりました。回復の気配が見えない状態が続いています。
世界半導体出荷金額の長期トレンドを3カ月移動平均で見ると(グラフ1)、回復途上だったものが新型コロナウイルス禍によって足踏み状態になっていることが分かります。半導体関連株、半導体製造装置株へ投資する際のポイントは、この足踏み状態がいつ上向きに転換するのかです。
表1 世界半導体出荷金額(単月)
グラフ1 世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)
2.TSMCの2020年8月売上高は前年比25%増。順調な伸びが続く
最先端半導体から汎用半導体までを含めた半導体デバイス市場全体では、前述したように回復途上で足踏みしている状態ですが、最先端半導体(最先端ロジック半導体)だけを見ると、順調に成長が続いています。世界最大の半導体受託製造業者である台湾のTSMCの月次売上高を見ると、7月は前年比25.0%増でした。6月の同40.8%増よりは伸び率が低下していますが、順調な伸びが続いていると言えます。
今後のポイントは、10月に予想される新型iPhoneの販売動向です。報道では、アップルは新型iPhoneについて前年並みの生産台数を見込んでいるもようです。消費者の反応によっては上乗せの期待があるため、新型iPhone向けチップセット(CPUとGPUなどの周辺半導体を組み合わせたモジュール)を生産するTSMCにとってはいいニュースです。
一方で、9月15日以降、TSMCを含む西側半導体メーカーは、米中摩擦によって中国のファーウェイ向けに出荷できなくなります。今のTSMCの売上高にはファーウェイ向けの駆け込み出荷も入っていると思われるため、9月15日以降が懸念されます。TSMCは2020年4-6月期(2Q)決算発表の場で、ファーウェイ向けがなくなってもそれを埋め合わせる顧客は十分あると指摘していますが、実際に短期で(例えば10-12月期中に)ファーウェイが抜けた分を埋め合わせることが出来るのか、あるいは、他の顧客で埋め合わせるのに3~6カ月程度かかるものなのかは、今後の注目点です。
この問題は半導体デバイス市場のみならず、半導体製造装置の売れ行きにも影響を与えると思われます。もっとも、TSMCは4-6月期決算発表時に2020年12月期通期の設備投資計画を上方修正しているため、ファーウェイが欠けた分を埋め合わせる算段はすでに付いていると考えることもできます。
TSMC以外の大手半導体メーカーの売上高を見ると、インテル、AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイシス)、エヌビディアともに好調な伸びが続いています。インテルは7ナノラインの完成が遅れるため、高水準の投資を継続すると思われます。AMDは高性能パソコン向け、高性能サーバー向けの7ナノCPU(TSMCに生産委託している)が好調であり、5ナノ進出がいつになるかが今後の焦点になります。エヌビディアはゲーム向けに続きデータセンター向けGPUが好調です(生産は主にTSMC)。
グラフ2 TSMCの月次売上高:前年比
表2 インテル、AMD、エヌビディアの四半期売上高
3.メモリ市況は停滞中。DRAMスポット価格は下げ過ぎか
メモリ市況を見ると、NAND型フラッシュメモリ、DRAMともに停滞しています。
NANDの大口価格(グラフ3)は7月に入りやや軟化したあと横ばいとなっています。需要は、5Gスマホ向けは本格的にはなっていないようですが、データセンター向け、パソコン向け、ゲーム機向け(PS5向け)が順調に伸びていると思われます。ただし、設備投資も増えているため、需給が釣り合っている状況と思われます。
DRAMの大口価格も7月に入って下落しましたが、下げ止まらず、小幅ながら緩やかに下がり続けています(グラフ4)。5Gスマホ向けが足元では期待外れだったこと、テレワークの増加に伴うパソコン需要に一服感が出ていることなどによります。
また、DRAMスポット価格は今年3月をピークとして下がり続けています(グラフ5)。5Gスマホの需要が期待に届かなかったことを早期に織り込んだとも言えます。ただし、今後のDRAMの実需を考えると、10月に予想される新型iPhoneが5Gスマホ市場を刺激することが予想されること、データセンター投資の継続、11月頃に予想されるソニーのプレイステーション5(PS5)がゲーミングPCや画像処理用PCの市場を刺激するであろうことを考えると(この点については後述します)、需要と市況の転機は近いかもしれません。DRAMスポット価格は下がり過ぎという印象もあります。今後の市況の推移が注目されます。
グラフ3 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)
グラフ4 DRAMの市況
グラフ5 DRAMのスポット市況
4.半導体設備投資は順調な伸びが続く
半導体設備投資は今のところ順調です。2020年7月の日本製半導体製造装置販売高(3カ月移動平均)は、1,879億6,600万円(前年比22.6%増、前月比4.2%増)となりました。7月の北米製も25億9,190万ドル(前年比27.6%増、前月比11.8%増)と順調です。
半導体製造装置メーカーの中でも、アドバンテストのような後工程の会社が、西側半導体メーカーがファーウェイ向けに出荷できなくなる9月15日以降の半導体デバイス需給と半導体設備投資を心配していますが(実際にアドバンテストのSoCテスタ受注は下降局面に入っています)、前工程の会社、例えば東京エレクトロンやSCREENホールディングスからはそのような懸念は聞こえてきません。
TSMCでは、6~7月頃から新型iPhoneに向けた5ナノチップセットの量産に入っていると思われます。前工程の各社からは、5ナノの設備投資案件が多いという声が聞こえてきますが、これは以前から言われている5ナノがビッグノード(生産力の大きい微細化世代)になるという観測を裏付けるものです。5ナノの用途は、現在のところは、5Gスマホだけですが、2021年以降は高性能パソコンやサーバー向けCPUに展開されると思われます。5ナノの次に多い案件は7ナノの増強であり、これは5Gスマホ、パソコン、サーバー、ゲーム機向けなどです。
2021年になると、5ナノの増強に加え、TSMCの3ナノパイロットプラント(準量産規模)への投資が本格的に始まると予想されます。2022年には3ナノの量産が始まりますが、3ナノ半導体への需要が5ナノへのそれを上回るようであれば、2023年もロジック半導体の設備投資は増えると予想されます。
このように2020年、2021年とロジック向け設備投資は増加すると予想されます。最先端ロジックで大きな変化が起きるときには、DRAM、NANDの高速化と容量拡大が起こる可能性が大きくなります。そのため、2019年後半からNAND投資が再開されましたが、2020年後半からはDARM投資も再開される可能性があります。そして、2021年は最先端ロジックとメモリの両方で設備投資が増えると予想されます。
ただし、2022年も半導体設備投資の増加が続くかどうかは、3ナノ半導体への需要がどの程度大きいかによります。私は3ナノの需要は5ナノ並みかそれ以上に大きくなると考えていますが、それは、5G、パソコン、サーバーの各領域の需要が拡大し続けると考えるからです。
表3 日本製、北米製半導体製造装置の販売高(3カ月移動平均)
表4 大手半導体メーカーの設備投資
グラフ6 TSMCの四半期設備投資
グラフ7 インテルの四半期設備投資
グラフ8 サムスンの半導体設備投資
5.9~11月に半導体製造装置株の転換点が来る?
半導体製造装置株の当面のリスクは、アドバンテストが2021年3月期2Q決算発表時に指摘したように、西側半導体メーカーのファーウェイ向け出荷が禁止される9月15日以降の半導体デバイス需給に短期的な変調が生じ、半導体設備投資にも短期的な調整が生じる可能性があるのかどうかです。現時点では、SoCテスタのような後工程ではすでに調整が起きていますが、半導体設備投資の中心である後工程では順調に投資が拡大しているもようです。
このことを考えると、半導体製造装置株はすでに買い場が到来しているか、9月から11月の間に再度の上昇に向けた重要な転換点が到来するであろうというのが私の考えです。
今後、半導体製造装置株にとって重要な転換点になるであろうイベントを列挙すると、次のようになります。
1)「9月15日」と10月中旬に予想されるTSMCの2020年7-9月期決算発表
西側半導体メーカーからファーウェイ向け半導体が出荷禁止となる9月15日以降、ファーウェイが欠けた分を他の顧客向けで埋め合わせることが出来ているのか、あるいは目途がついているのか、全容が明らかになるのが10月中旬に予定されるTSMCの2020年12月期3Q(2020年7-9月期)決算発表になると思われます(その前に報道で何らかの情報が出る可能性もあります)。
TSMCがファーウェイの欠けた分を短期間で補えるとしたら、顧客の候補は、ファーウェイ以外のスマホメーカー(アップルや、シャオミ、オッポなどの中国スマホメーカーのチップセット増産)、AMD(7ナノCPUの増産)、エヌビディア(GPUの増産)、インテル(先端CPUの生産の外部委託を検討中)などになると思われます。
2)10月に予想される新型iPhone発売
10月に新型iPhoneが発売されると予想されます。最新鋭の5ナノチップセットを搭載し、おそらくは5G対応です。新型iPhoneの発売を待って他の5Gスマホと比較したいという消費者が多いと思われるため、新型iPhone発売は5Gスマホ市場にとって大きな刺激材料ですが、それだけでなく、最先端ロジック半導体とDRAM、NAND市場にとっても重要な転換点になる可能性があります。
3)11月頃に予想されるプレイステーション5発売
ソニーのPS5発売が2020年年末に予定されています。私の予想では11月発売です。PS5のCPUは、AMDのRyzenをベースとした新CPUコア「Zen 2」(8コア)のカスタマイズで、TSMCの7ナノラインで生産されます。GPUもAMDの最新GPUのカスタマイズで、これもデザインルールは7ナノです。
巣ごもり需要の効果もあり、PS5は価格は未公表ながら相当大きな需要が予想されます。2013年11月発売のPS4の初年度(2014年3月期)販売台数は750万台、2015年3月期は1,480万台でしたが(日本での小売価格は3万9,980円)、PS5は私の予想では今期販売台数は1,000万台、来期は2,000万台です。楽天証券ではスタンダードモデル(ブルーレイディスクプレイヤーを装備)5~6万円、デジタル・エディション(BDがないダウンロード専用モデル)4~5万円と想定していますが、これに対して1万円程度高くとも、巣ごもり消費が続くならば好調に売れると思われます。
PS5が好調に売れると、ゲーミングPCの売れ行きは悪影響を受ける可能性があります。安いもので10万円台、高いものでトータルで50万円以上するゲーミングPCの売れ行きが悪化することは、パソコンメーカーとAMD、インテルのようなCPUメーカーにとって問題になると思われます。
そこで予想されるのは、AMDの5ナノ進出です。AMDは7ナノCPUをTSMCに生産委託していますが、これを5ナノにアップグレードすることが2021~2022年に起こり得ると思われます。
また、PS5で超高精細画像が一般的になれば、画像編集用PCの分野でも性能向上の動きが出てくる可能性があります。
加えて、PS5はHDDに替えて高速SSD(NANDを組み合わせた記録媒体)を搭載します。そのため、パソコンのSSD搭載が増えると思われます(すでに、ノートブック、デスクトップともにHDDに替えてSSDを搭載する傾向が増えています)。
このようにPS5がヒットすれば、CPU、メモリともに、先端半導体の世界に刺激を与えると思われます。
4)10-12月期に予想される新型コロナウイルス感染症のワクチン上市
新型コロナウイルス感染症を予防するためのワクチンの開発では、有力候補である米モデルナ、米ファイザーの2つのワクチンが10-12月期に臨床試験フェーズ3を終える予定です。臨床試験で良好な結果が得られたならば上市され、実際に大勢の人々に投与されることになります。そこで効果が確認され、かつ重大な副作用がないならば、各国の経済は段階的に正常化に向かうことになると思われます。
ただし、上市後に投与した場合に効果が十分でない場合や、重大な副作用が見つかった場合は(臨床試験では見つからなかった副作用が上市後に大勢の人に投与された後に見つかることは新薬の世界ではあることです)、新型コロナ禍に対応するための巣ごもりや、仕事、学習、エンタテインメントのオンライン化が長期化し、更に常態化する可能性があります。
経済が正常化する場合は、景気全般が急回復することに伴って、5Gやパソコン、データセンターだけでなく、自動車向け、家電向けなども含めて、半導体需要が幅広く回復し、半導体設備投資も増加することになると思われます。一方、巣ごもりとオンライン経済が長期化し更には常態化する場合も、5Gを含む大規模ネットワークとテレワークシステムの構築、パソコン需要とデータセンター需要の増加によって、特に先端半導体需要が増加すると思われるため、これによって半導体設備投資も増加すると思われます。
どちらの場合でも半導体需要と半導体設備投資は増加すると予想されますが、第一弾のワクチンの成否がわかることで相場の方向性がある程度クリアになり、相場がアク抜けする可能性があります。
6.注目銘柄
楽天証券でカバーしている半導体製造装置メーカー5社の今後6~12カ月の目標株価は以下の通りです。今回は変更しません。5社とも投資妙味を感じます。
東京エレクトロン 3万7,000円
アドバンテスト 8,000円
レーザーテック 1万3,000円
SCREENホールディングス 6,500円
ディスコ 3万5,000円
東京エレクトロン
今1Q決算を見ると、業績は順調に回復中です。9月15日以降の半導体設備投資についても、前工程の各装置で引き合いが強い状態が続いているもようです。来期も業績順調が予想されます。
表5 東京エレクトロンの業績
アドバンテスト
会社側の見方では、9月15日以降西側半導体メーカーがファーウェイ向けに出荷できなくなることで、OSAT(半導体後工程専門業者)の半導体デバイス需給と半導体設備投資に対する見方が慎重になっており、そのため、すでに下降局面入りしているSoCテスタ(ロジックテスタ)の受注が今3Qまで更に悪化するとなっています。そして、SoCテスタ受注が回復に転じるのは今4Qから、業績が回復するのは来1Qからとしています。そのため、会社側は今期は営業減益と予想しています。
ただし、会社側は最近の報道(8月29日付け日経新聞)で、この業績悪化は短期的なものであること、来期2022年3月期には過去最高益を更新する可能性があることを示唆しています。業績悪化が短期で株価の重要な指標になるテスタ受注が今4Qから回復に向かうのであれば、今は投資を検討してもよい時期になっていると思われます。
表6 アドバンテストの業績
レーザーテック
2020年6月期からEUV用マスク欠陥検査装置(EUV光を使うACTIS A150。光源にEUV光を使うタイプはレーザーテックが市場シェア100%)の出荷を開始しているもようであり、3ナノ時代(2021年から3ナノのパイロットプラントへの投資が始まる)に量産ラインで本格的に使われるもようです。KLAが2022~2023年にEUVマスク欠陥検査装置の試作機を投入するもようですが、顧客による評価に1~2年かかるため、今後3~5年はこの分野はレーザーテックの独壇場になると思われます。
すなわち、3ナノライン向けのEUVマスク欠陥検査装置でEUV光を使うタイプのものは、レーザーテックが市場シェア100%を維持する可能性が高く、その実績を持って2ナノに向かうと思われるため、2ナノ時代もKLAに対して優位に立つ可能性があります。
EUV用マスクブランクス欠陥検査装置でも、レーザーテックの独占状態が続いているもようです。
表7 レーザーテックの業績
SCREENホールディングス
業績の詳細は、楽天証券投資WEEKLY2020年8月21日号を参照してください。2019年3月期、2020年3月期と業績悪化が続きましたが、業績悪化要因となった部品調達の不具合(調達価格が同業他社よりも高かった)、ウェハ洗浄機の試作機のコストアップ(顧客からの手直し要求による)は、すでに解消していると会社側は指摘しています。今期会社予想業績が実現できるならば、業績は本格回復へ向かっていると考えてよいと思われます。
表8 SCREENホールディングスの業績
ディスコ
ディスコの業績は、おおむね世界の半導体工場の稼働率に沿って変動しています。今後世界の半導体出荷金額が本格的に回復するか、先端ロジック半導体、NANDの生産増加に続いて、DRAM生産も回復に向かうならば、ディスコの業績も回復に転じると思われます。
表9 ディスコの業績
本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)、アドバンテスト(6857)、レーザーテック(6920)、SCREENホールディングス(7735)、ディスコ(6146)
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