※本記事は2019年11月1日に公開したものです。

順張り、逆張りとは?

 皆さんは「順張り」とか「逆張り」という言葉を聞いたことがありますか?

 順張りとは、株価が上がっているときに、その流れに素直につくような投資法を指します。

 逆張りとは、株価が下がっているときに、その流れに逆らうように買い向かう投資法を指します。

 このどちらも確立されたアプローチであり、正しいです。

 一見、真っ向から対立するこれらの手法が、両方とも正解なのは不思議ですね。

 しかし、順張りと逆張りでは、使う局面が全然違います。つまりそれぞれに正しい使い方をすれば、両方とも成果を挙げることができるけれど、間違った使い方をすると、どちらを使っても失敗するのです。

正しい順張りの仕方

 順張りは、主に短期トレーディングに使います。順張りを行うためには、まず上昇トレンドがきれいにチャートに表れている銘柄を探します。

図:上昇トレンドラインの動き

 上昇トレンドラインは、右肩上がりになっている株価の底値を結ぶことによって描けます。最低でも2回、株価がトレンドラインを試し、それを守った銘柄だけを選ぶクセを付けてください。

 トレンドラインを試し、それを守った回数が多いほど、そのトレンドラインの信頼性は高いです。

 さて、順張りの買いのタイミングですが、安くなっているときに買うのではなく、必ず前回の高値を超えた時点(図中A)で買いに入ることを心掛けてください。

 そうする理由は、過去の高値を超えるには、それなりの勢いが必要であり、高値を超えた瞬間には、余勢を駆って株価が伸びるケースが多いので、それを利用しない手はないからです。

 逆に言えば、順張りでは買ったはなからすぐに利が乗り始めるのが当たり前なのです。もし、皆さんが順張りをしたつもりでも、買ってすぐに利が乗らないようなら、あなたがやっていることはどこか間違っていると考えて良いでしょう。

 自分のトレードの仕方が、上に述べたような基本から逸脱していないか冷静に振り返ってください。そして数日経っても利が乗らないなら、すぐに処分できるように心の準備に入ってください。

順張りの売りタイミング

 順張りの売りタイミングは、次の二つの局面です。

1:株価が上昇トレンドラインを割り込んだとき
2:自分の買い値から8%以上、やられたとき

 順張りは、株価の勢いに惚(ほ)れ込み、その勢いを利用するトレードなわけですから、トレンドラインを割り込み、勢いを失ってしまった株などに、もう用はないのです。

 モメンタム系の投資ファンドは、皆、そういう考え方で乗っかっているので、トレンドラインを割ると怒とうの売りが出ます。だから順張りするときは、怠けずに毎日チャートを見て、自分の買い建てたポジションが安泰であることを確認する習慣をつけてください。

 順張りは、高値の株を「エイヤア!」と気合で買う手法なので、買った時点の株価がトレンドラインより大幅に上になっている場合もあります。すると、下がっても下がっても、いまだトレンドラインまで届かないケースもあるのです。▲8%で損切りするルールを課す意味は、そこにあります。これは、自分の投資資金を次のチャンスのために温存する目的で決められたルールです。

 つまり1回のトレードで8%程度のヤラレなら、次回以降、立ち直ることもそれほどムリではないのです。しかし、損失が大きくなるのを放置しておくと、後で挽回することがとても難しくなります。

 なお、ここが強調したい点なのですが、順張りにとって「良い銘柄」とは、あくまでもチャート上でトレンドがきれいに出ているような銘柄を指し、その企業が何をやっている会社か? とか、投資テーマがエキサイティングか? とか、業績が良いか? などは考慮する上では二の次だということです。

 最初からそのような切り口で投資していない以上、株価がズルズル下がり始めたら下支えになる材料に乏しいのが順張り投資の特徴です。だからこそ、手遅れにならないうちに早く逃げなければいけないのです。

正しい逆張りの仕方

 逆張りは主に長期投資に使います。逆張りを行うためには、まずそれが長期保有に足るだけの、業績面でしっかりした銘柄であることを確認する必要があります。言い直せば今後の業績の伸びが、株価下落という目先の悪材料をはねのけて余りあるくらい元気でなくてはいけないのです。

 ここで苦言を呈すれば、経験の浅い投資家は、「そんなコト言われなくても分かっている」と、業績による銘柄の選定を軽く考える傾向があるということです。でも実際には、どんな嵐の中でも飛べる全天候型の戦闘機のような、鉄板の業績を誇る銘柄は、数千もある米国株の銘柄の中で、せいぜい両手で数えられるくらいしか存在しません。

 逆張りは、落ちてくるナイフを素手でつかむような危ない行為です。台風で大シケになっている状態で航空母艦から発艦するような向こう見ずな試みなのです。そんな危ないことをやろうとしているのに、その会社の業績も確かめずに買うのは、賢い投資ではありません。

 それではどんな企業が業績面でしっかりした銘柄に相当するのでしょうか?

 全天候型の銘柄の第1番目の条件は、好況時でも不況期でもちゃんと利益を出せる、利幅の大きい企業です。もっと踏み込んで言えば、営業キャッシュフロー・マージンが最低でも15%から理想的には35%に近いビジネスということです。

長期保有に足る銘柄の条件は、収益の安定性が高いこと

 ジョンソン&ジョンソン(JNJ)は、そんな条件にかなった銘柄の一つです。

図:ジョンソン&ジョンソンの1株当たり業績(年次報告書)

DPS:1株当たり配当
EPS:1株当たり利益
CFPS:1株当たり営業キャッシュフロー
SPS:1株当たり売上高

 2018年のCFPSをSPSで割ると

 8.1 ÷ 29.9 = 0.27

 になります。つまりジョンソン&ジョンソンの営業キャッシュフロー・マージンは27%あるのです。これだけ儲かるビジネスなら、不況でも赤字に転落する心配はありません。

 次に長期保有に足る銘柄の条件は、収益の安定性が高いことです。

 以下の銘柄は、収益が安定しているだけでなく、株価の動き方もマイルドです。

・ビザ(V)
・アムジェン(AMGN)
・グーグル(GOOGもしくはGOOGL)
・バイオジェン(BIIB)
・ノボ・ノルディスク(NVO)
・ギリアド・サイエンシズ(GILD)
・アップル(AAPL)
・ユニオン・パシフィック(UNP)
・ノバルティス(NVS)
・AT&T(T)
・コカコーラ(KO)
・バクスター・インターナショナル(BAX)
・サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック(TMO)
・ベクトン・ディッキンソン(BDX)
・ストライカー(SYK)
・ウォルト・ディズニー(DIS)
・アイデックス・ラボラトリーズ(IDXX)
・ウエイスト・マネージメント(WM)

逆張りの売りタイミング

 ウォーレン・バフェットの有名な言葉に「引き潮になったら、誰が裸で泳いでいるかバレる」というのがあります。引き潮とは、つまり相場環境が悪く、マーケットが急落しているような状況を指します。裸というのは、ちゃんと銘柄のファンダメンタルズをチェックせず、単にチャートを見ただけとか下落幅の大きい銘柄を安易な値ごろ感から買うような無防備な態度を指すのです。

 さて、逆張りの売りタイミングは、いつでしょうか?

 逆張りは、主に長期保有に使うので、滅多なことでは利食い売りしません。上に列挙したような銘柄を、ずうっと抱き続けてください。イメージとしては5年くらい保有し続ける感じです。逆に言えば、これらの銘柄は値動きがマイルドなので、短期ではそんなに儲からないのです。また、順張りのところで説明したような、買った先からすぐに利が乗り始めるようなうれしいシナリオも忘れてもらって結構です。

最も悪い投資

 最後に最も悪い投資手法を紹介しておきます。それはポンコツ銘柄でこっぴどく売り叩かれているような株を、リバウンド狙いで買いにいくやり方です。そういう手法が好きなセミプロ級の投資家というのは、確かに存在します。

 でも、このやり方はわざわざ業績の悪い会社を買うわけですから常に悪決算や倒産などの恐ろしいニュースと背中合わせです。

 このような株には大量の空売り筋が乗っている場合が多いです。その空売り筋が見込み違いで買い戻しすることを期待してリバウンド狙いするというわけです。

 こういうトレードをする投資家は、相場のジャンキー(中毒患者)のように、24時間、相場を張っていないと気が済まないような人たちです。その中には海千山千の老獪(ろうかい)なトレーダーもいます。

 私は、そういう人たちと正面切って勝負しても勝てないことが分かっているので、そのような勝負は挑みません。

第8章「株式投資のリスクについて」はこちら