【今日のまとめ】

  • バークシャーハサウェイはもともと紡績会社だった
  • 損保のビジネスが最大である
  • フロートと呼ばれる、運用に回せるお金がカギを握っている
  • 鉄道事業も利益への貢献の割合は大きい
  • コングロマリットか損保か? 投資家の見方次第で分析の仕方が変わる

ウォーレン・バフェットの投資会社

バークシャーハサウェイ(ティッカーシンボル:BRK.B)はウォーレン・バフェットの投資会社です。同社はもともと紡績工場でしたが、今では損保会社に分類される場合が多いです。

1965年に、当時34歳だったウォーレン・バフェットはバークシャーハサウェイに目を付けます。なぜならこの会社が生産ラインを閉鎖するたびに株価が上昇していたからです。

当時、紡績業は既にアメリカでは斜陽産業であり、事業転換を図った方が株主へのリターンが大きいことにバフェットは気付いたわけです。

そこでバークシャーハサウェイの株を買い集め、当時同社を経営していたシーベリー・スタントンに買収提案します。しかし話し合いは物別れに終わり、結局、バフェットは敵対的にバークシャーハサウェイの株式を全部買占め、スタントンを解任します。

バークシャーハサウェイの経営権を握ったバフェットは、本業の紡績工場の営業キャッシュフローを他のビジネスへの投資に転用します。これが投資会社としてのバークシャーハサウェイの事業戦略のはじまりです。

バフェットはバリュー投資の手法に基づき、上場株式に少数株主として投資する方法を主に用いました。しかし近年では投資先の会社をまるごと買収してしまい、非公開化するやり方が多くなっています。従ってバークシャーハサウェイの株を分析する際は、この非公開化された子会社の中身に当ってみる必要があります。

損保ビジネス

1996年にディスカウント自動車保険のGEICO(ガイコー)を完全買収、非公開化したほか、1998年には損保・再保険会社のジェネラル・リを、2007年にはオランダの損保会社、NRGを買収しています。さらに2007年にはバークシャーハサウェイ・アシュアランスを創業しミュニシパル・ボンドの金融保証保険業務に参入しています。

このように保険会社はバークシャーハサウェイの経営の中核となっています。

中でもガイコーはマスコットのキャラクター「ゲッコー」で消費者から親しまれており、自動車保険市場では第二位、マーケットシェア10.4%を誇っています。

保険会社のビジネスがバークシャーハサウェイにとって重要である理由は「フロート(float=投資に使えるお金)」と呼ばれる資金の存在によるところが大きいです。

フロートとは保険加入者が払い込んだ保険料のうち、保険金の支払いに充当するための準備金などすぐに出てゆくと思われる費用を差し引いた、残りのお金を指します。このお金は運用に回すことが出来るわけです。2013年末の時点で、このようなフロートは770億ドルありました。

鉄道事業

バークシャーハサウェイは2010年にバーリントン・ノーザン・サンタフェ(BNSF)を340億ドルで買収しました。

日本と違ってアメリカの鉄道株は全て貨物だと考えて良いです。BNSFも例外ではありません。

同社は全米最大クラスの鉄道会社で中西部、西海岸、南西部、南東部などの28州をカバーする総延長5.23万キロの自社路線ならびに利用権を持っています。

鉄道事業は景気に左右されます。従ってアメリカ経済が好調なときは鉄道事業から上がる利益が増えると予想できます。

公共・エネルギー事業

バークシャーハサウェイはミッドアメリカン・エナジー・ホールディングスの投票権の89.8%を所有しています。ミッドアメリカンは発電、送電などを司り、450万戸の家庭に電気を供給しています。ミッドアメリカンは英国にも子会社があり、そちらでは390万戸の家庭に電気を届けています。

工業・サービス・小売業

バークシャーハサウェイはマーモン・ホールディングスの64%株式を保有しています。マーモンは金属パイプ、銅管、工業ファスナーなどのメーカーです。

さらにバークシャーハサウェイはマクレーンを所有しています。マクレーンは卸売ディストリビュータで、ウォルマートなどへ商品を配送する仕事をしています。

この他、バークシャーハサウェイは雑多な工業、サービス業、小売業に投資しています。その主な企業は下の表の通りです。

100%子会社 事業内容
クレイトン・ホームズ プレハブ住宅メーカー
フルート・オブ・ザ・ルーム 下着メーカー
インターナショナル・デイリー・クイーン ソフトクリーム、ミルクセーキなど
IMCインターナショナル 金属切断
ISCARメタルワーキング イスラエルの工具メーカー
ジョン・マンビル 断熱材、建築資材
ルブリゾル エンジンオイル
ネットジェッツ ビジネスジェット・オーナーシップ
シーズ・キャンディーズ チョコレート
タンガロイ 超硬合金

なおバークシャーハサウェイは海外現地法人なども含めると206社にも及ぶ傘下企業を抱えています。従って、上のリストは、ほんの一部の抜粋です。

上場企業への投資

それから忘れてはならないのがバークシャーハサウェイの上場企業への投資です。これについては多くのところで記事が書かれていますので簡単に済ませますが、主なところでは:

  • ウエルズファーゴ(WFC)
  • コカコーラ(KO)
  • アメリカン・エキスプレス(AXli)
  • IBM(IBM)
  • ウォルマート(WMT)
  • プロクター&ギャンブル(liG)
  • エクソン・モービル(XOM)

などへ投資しています。

各セグメントの利益への貢献

以上、バークシャーハサウェイの各セグメントから上がっている利益を示すと下のグラフのようになります。

A株とB株の違い

バークシャーハサウェイはA株とB株を出しています。バークシャーハサウェイA株(ティッカーシンボル:BRK.A)は8月22日の引け値、203,532ドルを日本円に換算すると一株当たり2,115.2万円もします。

つまり大部分の投資家にとってA株は手の届かない値段なのです。

これに対してバークシャーハサウェイB株はA株の1,500分の1の交換比率です。すると上に述べたA株の値段、203,532ドルを基準として弾き出されるB株の理論価格は:

203,532 ÷ 1,500 = 135.688ドル

ということになります。そこで8月22日のB株の引け値を見ると135.75ドルになっています。つまりA株から計算される理論価格より0.046%プレミアムで取引されていることになるのです。

ウォーレン・バフェットはバークシャーハサウェイのホームページ上で「B株は理論上、A株の1,500分の1以上の価値で取引されてはならない。もしそういう状態が起これば、ニューヨーク証券取引所の才取会員(スペシャリスト)がA株一株を買い、同時にB株1,500株を空売りすることで、アービトラージするだろう。だからすぐにB株が買われ過ぎた状況には訂正が入る」と説明しています。

もうひとつ重要なことは、B株のもつ投票権はA株の1万分の1しか無い点です。すると投票権という見地からのB株の価値は1,500分の1よりもっとずっと少ないというわけです。

このことからもB株の価値がA株の1,500分の1以上になるのは理屈に合いません。

なおA株の保有者はいつでも気が向いたときに自分のA株1株をB株1,500株に交換して良いことになっています。しかしB株の保有者はB株を1,500株買い揃え、それをA株に交換してもらうことは出来ません。

A株は取引単価が高額な関係で、プロの機関投資家同士で売買されます。B株は取引単価が比較的少額である関係で、個人投資家間の取引が主体です。

ここで気をつけるべきは、バークシャーハサウェイの株価は機関投資家の取引によって主導され、個人投資家のB株の値動きは、従属的だという点です。つまり皆さんがB株をトレードする際は、常に先ずA株の値段を調べ、それを1,500で割り算してB株の妥当価格を求め、それよりも余りかけ離れた値段(=例えば0.1%以上)でB株が買い進まれているときは、暫くタイミングを遅らせるか、ないしは場でついている株価よりわずかに下のところへ指値をすることで余計な値段を払うことを防ぐように心がけてください。

コングロマリットと見るか、損保と見るか?

最後にバークシャーハサウェイへの投資判断をする際の考え方について述べておきます。上に見てきたようにバークシャーハサウェイはいろいろなビジネスを展開しているので、コングロマリットだと見る投資家が居ます。その一方で、バークシャーハサウェイは損保部門の「フロート」を活用して投資事業を展開しているのだから、あくまでも保険会社として分析されるべきだという意見もあります。

通常、保険会社の業績を調べる際、先ず「正味収入保険料(new premium written)」に注目します。これは保険会社がどれだけリスクを取って保険加入者から掛け金を貰ったかの尺度です。

でも加入者から預かった保険の掛け金=利益ではありません。利益を算出するには「ロス・レシオ(loss ratio)」と「エクスペンス・レシオ(expense ratio)」がわからないといけないのです。

ロス・レシオとは交通事故や災害などで実際に保険金の支払いに応じなければいけない事例が正味収入保険料に対してどれだけあったか? という比率です。

エクスペンス・レシオとは保険会社の社員のお給料や経費など、事業経費の比率です。

このロス・レシオとエクスペンス・レシオを合計した金額が「コンバインド・レシオ(combined ratio)」と呼ばれ、保険会社がどれだけ利益を出せる体質かの指標となります。例えばハノーバー・インシュアランス・グループ(ティッカーシンボル:THG)は2005年にハリケーン・カトリーナで被害が出たとき、ロス・レシオが78.8%でした。同社のその年のエクスペンス・レシオは31.4%でした。すると合計したコンバインド・レシオは110.2%だったのです。

いまコンバインド・レシオは100%が収支トントン、100%以上は赤字(=なぜならコストの方が正味収入保険料より多いから)、100%以下におさえることができれば、その差額が利益ということになります。この差額のことをアンダーライティング・マージンと呼びます。

バークシャーハサウェイのアンダーライティング・マージンは常に大手損保のトップクラスです。

この主な原因はエクスペンス・レシオが他社より低いためです。

ただ投資家の中にはバークシャーハサウェイを単なる保険会社と見做さず、むしろコングロマリットとして捉える向きもあります。その場合は普通の事業会社のような、売上高や純利益を切り口として銘柄分析することになります。

バークシャーハサウェイのアニュアルレポートは、A株を基準として一株当たりデータが記載されていますが、実際のところ個人投資家が投資するのはB株の方なので、下のグラフは全てB株に換算した数値を掲げておきました。

【略号の説明】

  • DPS一株当り配当
  • EPS一株当り利益
  • CFPS一株当りキャッシュフロー
  • SPS一株当り売上高

バークシャーハサウェイのような投資会社の経営の巧拙を測る場合、どれだけ簿価(book value)をはぐくむことが出来たか? という見地から分析する方法もあります。下のグラフは同社の簿価の毎年の増減を示したものです。

いまバークシャーハサウェイの簿価の増減が、配当を含むS&P500のリターンに比べて、単年度で勝ったか、負けたかを比較したのが下のグラフです。

1965年以来のバークシャーハサウェイの一株当たり簿価の成長率は平均すると年率19.7%でした。一方、配当を含むS&P500の同じ時期のリターンは年率9.8%でした。