利回り3%以上の米国高配当株

 米国の株式市場は世界最大の時価総額を持ち、建国当初から株価は右肩上がりの成長を続けています。その理由の一つとして、常に企業の新陳代謝が起こり、時代ごとに革新的な企業を生み出しています。

 米国株式の代表的な株式指数は、鉄道・公共事業以外の工業株30銘柄で構成される「NYダウ平均株価」、NASDAQ(ナスダック)に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合株価指数」、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場している大型株500銘柄を対象とした「S&P500種株価指数」があります。

 これらに採用されている企業は長期間にわたり利益を出し続け、株価も上昇し、配当を増配し続けている銘柄も珍しくはありません。

 そこで2020年9月権利落ちの米国株高配当5銘柄について解説します。

 その前に、日本と米国の高配当銘柄への投資で、特に重要な3つの違いについて、お伝えします。

(1)米国株の配当金は、通常米国で10%、日本で20.315%の2段階、約30%の課税がされます。しかし確定申告で還付を受けることにより、日本株と同じように20.315%の税率と同じになります。ただし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなります。

(2)米国株は日本株と異なり、権利落ち日が月末に集中していません。そのため、銘柄ごとに権利落ち日を確認する必要がありますので注意が必要です。

(3)米国株は日本円で買う円貨決済と、米ドルで買う外貨決済を選べます。日本円から外貨に替える為替手数料も積もれば大きな金額になるので、米国株を買い続けるなら売却時にも外貨決済で米ドルにしなければ無駄に手数料を支払うことになります。

米国高配当株1:ドミニオン・エナジー(D)

 電力・ガス会社を傘下に持つ米国の総合エネルギー会社です。この企業の時価総額は約7兆円。日本の電気・ガスの上位10社の合計時価総額よりも大きい企業です。

事業の注目ポイント

 脱炭素化をすすめており、2020年7月には大半の天然ガス輸送事業を、あのウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社に売却しました。今後は電力事業に集中することで、営業利益の90%を電力事業が占めると予想されます。このように世界的なESG(環境、社会、ガバナンス)の流れにいち早く取り組んでいる企業と言えます。

株式の注目ポイント

 配当は、リーマン・ショック時にも無配にしていません。また、電力需要は人口が多い地域のほうが強みを発揮するという特徴があります。

 同社の地盤のバージニア州は、全米第12位の人口を抱える州です。また、同州は、米CNBCの「ビジネスに最適な州」で、2019年の全米首位に選ばれており、特に「労働力」に注目が集まっていることから、今後も人口の増加が期待されます。

業績動向

 7月31日に発表した2020年第2四半期決算では、売り上げは市場予想を下回りましたが、EPS(1株あたり利益)は上回りました。決算を受けての株価変動はあまりなく、新型コロナウイルスによる経済活動停滞の影響はありますが、公益事業銘柄であるため、業績は比較的安定して推移しています。

注意点

 今後、再生可能エネルギーへの需要が高まった場合、同社は再生可能エネルギーにはそれほど強い企業ではなく、そこは懸念点です。

株価動向、配当利回り

 この銘柄の権利落ち日は、9月3日です(配当:3.7375ドル)。

 配当利回りは4.76%(2020年8月25日時点)。株価は78.50ドルで約8,400円から購入できます(1USD=107円で計算)。2017年からの最高値は89.80ドル、最安値は59.39ドルです(終値ベース)。

米国高配当株2:HP(HPQ)

 2015年、ヒューレット・パッカードはパソコン・プリンターを取り扱うHPと、サーバーやストレージなどを事業とするヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)に分社化されました。さらにHPは、主に商業用・個人用PCと、その周辺サービスに関する事業、そして印刷事業に分かれています。時価総額は約2兆8,000億円と、富士通やオリンパスと同規模です。

事業の注目ポイント

 同社は世界のパソコン出荷台数でLenovoに続いて第2位の企業で、この2社で世界シェアの約半分を占めています。また、インクジェットプリンターにおいては圧倒的な世界シェアを誇り、長年にわたって第1位を維持しています。市場は寡占(かせん)化されており、同社のパソコン・プリンター業界での地位は当面、安泰と言っていいかもしれません。

株式の注目ポイント

 分社化前のヒューレット・パッカード時代から、リーマン・ショック時にも無配にしていません。順調な企業業績を背景に、配当は2011年から連続増配中です。

業績動向

 2020年5月27日開示の2020年第2四半期決算では、売り上げは市場予想を下回りましたが、EPS(1株あたり利益)は上回りました。決算を受けて発表翌日の株価はいったん下落しましたが、現在は既に戻しています。

 Americas(南北米大陸)とEMEA(欧州、中東、アフリカ)で、売り上げの約8割を占めており、最も売上下落率の割合が大きいアジアでの売り上げシェアが、元々少なかったことは幸いだったと言えるでしょう。

注意点

 注意点は、スマホ(スマートフォン)やタブレットのシェア拡大とともに、PCのシェアが落ちているという環境変化の点です。既に世界中の人がスマホを所有し、PCシェアの極端な低下をこれからは考えにくいですが、同じように世界のPCシェアが急拡大する状況でもないので、何らかの新しいビジネスを生み出す必要があると考えています。

株価動向、配当利回り

 この銘柄の権利落ち日は、9月8日です(配当:0.7048ドル)。

 配当利回りは3.82%(2020年8月25日時点)。株価は18.44ドルで1,973円から購入できます(1USD=107円で計算)。2017年からの最高値は26.42ドル、最安値は13.11ドルです(終値ベース)。

米国高配当株3:ウエスタン・ユニオン(WU)

 国際送金サービス事業を行っている企業で、時価総額約1兆円の規模を誇ります。

事業の注目ポイント

 世界200カ国以上の国々で利用されています。日本ではセブン銀行やファミリーマートのファミポートなどから、ウエスタン・ユニオンのシステムを使って国際送金が可能です。また、アプリでも国際送金サービスを提供し、海外で働く出稼ぎ労働者の間で広く使われています。

株式の注目ポイント

 配当は、リーマン・ショック時にも無配にしておらず、2010年から連続増配中です。2020年6月、同社によるマネーグラム・インターナショナル買収の記事(ブルームバーグ)が出ましたが、仮にそれが実現したとすると、コスト削減効果などでさらに株価が上昇すると期待されます。

業績動向

 2020年8月4日開示の2020年第2四半期決算は売り上げ・EPS(1株あたり利益)は市場予想を上回りましたが、投資家の期待に届かなかったため、決算後、株価は下落しました。しかし、営業利益は近年安定して推移しており、第3四半期決算では売り上げ・EPSともにさらに拡大することが予想されます。

注意点

 注意点は、デジタル通貨など新しい海外送金の台頭と、国際的な送金手数料の引き下げという事業環境の変化です。

 デジタル通貨は、安全性・信用度の点から、普及にはもう少し時間がかかりそうですが、送金手数料の引き下げは既に起きています。今後は、買収などで事業規模を大きくしていく企業が生き残ると思われ、業界再編の動きには注視が必要です。

株価動向、配当利回り

 この銘柄の権利落ち日は、9月15日です(配当:0.875ドル)。

 配当利回りは3.66%(2020年8月25日時点)。株価は23.90ドルで2,557円から購入できます(1USD=107円で計算)。2017年からの最高値は28.30ドル、最安値は16.55ドルです(終値ベース)。

米国高配当株4:ギリアド・サイエンシズ(GILD)

 世界有数のバイオ医薬品メーカーです。時価総額は約8兆8,000億円もあり、現在、日本の製薬会社で一番時価総額の大きい中外製薬(約8兆1,000億円)を上回っています。

事業の注目ポイント

 HIV、エイズ、B型・C型肝炎ウイルスなどの感染症治療・予防薬の開発で成長してきました。抗インフルエンザ薬「タミフル」の特許を保有しているのもこの会社です。現在の売り上げの中心はHIV治療薬ですが、新型コロナウイルス治療薬「レムデシビル」がどれだけ売り上げに貢献するかが、今後のポイントとなりそうです。

株式の注目ポイント

 配当は、2016年から連続増配中です。

 この業種の特徴ですが、主力商品が一つできると大きく株価が上昇しやすい特徴があります。現在は抗HIV治療薬が急成長していますが、レムデシビルの状況によってはさらなる上昇の可能性もあるでしょう。

業績動向

 2020年7月30日開示の2020年第2四半期決算は売り上げ・EPS(1株あたり利益)ともに市場予想を下回りました。フォーティーセブン社買収で費用がかさんだことと、レムデシビル関連の臨床試験のコストがかさんだことで赤字決算になり、株価も下落しました。しかし、決算資料では2020年内にレムデシビルの生産能力を200万人分に引き上げるとしており今後の注目点です。

注意点

 一番の注目点は、レムデシビルの有効性でしょう。現在、特例で日米などが重症患者向けに使用を承認していますが、有効性を否定する治験結果もあり、その点が今後のリスクです。

株価動向、配当利回り

 この銘柄の権利落ち日は、9月14日です(配当:2.67ドル)。

 配当利回りは、4.04%(2020年8月25日時点)。株価は66.05ドルで7,067円から購入できます(1USD=107円で計算)。2017年からの最高値は88.80ドル、最安値は60.54ドルです(終値ベース)。

米国高配当株5:イーストマン・ケミカル(EMN)

 特殊化学製品の世界大手企業ですが、元々は写真のコダック創業者であるジョージ・イーストマンが、写真用原材料の提供を目的としたことが事業の始まりです。時価総額約1兆円ですので、MonotaROやアイシン精機と同程度の規模です。

事業の注目ポイント

 塗料などの汎用製品から医療用チューブ、歯ブラシ、医療用マスク、航空機用潤滑油など多数の製品を手掛けている企業です。取扱製品が多岐に渡ることから、事業リスクを分散できることが強みと言えます。

株式の注目ポイント

 配当は、リーマン・ショック時にも無配にしておらず、2011年から増配中です。

業績動向

 2020年8月3日開示の2020年第2四半期決算では、売り上げは市場予想を上回りましたが、EPS(1株あたり利益)は予想に届きませんでした。

 しかし、業績は安定して推移しており、株価もコロナ禍前の水準近くまで戻しています。今後も航空機用製品などの売り上げが戻らなくても、他の製品でカバーするといった状況が続くとみられます。

注意点

 この企業はS&P500種株価指数の採用銘柄ですが、現在時価総額が380番程度となっており、このあたりの規模・業種を鑑みると、企業買収の話が出てきてもおかしくありません。業界再編の動きについては注意が必要でしょう。

株価動向、配当利回り

 この銘柄の権利落ち日は、9月14日です(配当:2.64ドル)。

 配当利回りは3.59%(2020年8月25日時点)。株価は73.46ドルで7,860円から購入できます(1USD=107円で計算)。2017年からの最高値は110.84ドル、最安値は38.39ドルです。

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