農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」を運用している農林中金バリューインベストメンツのCIO「奥野一成」が、『ビジネスエリートになるための教養としての投資』を執筆、投資の本ながらビジネス部門で話題となっている。

 投資と本来の投資のあり方とその哲学、長期投資のコツ、優良企業の見極め方などを、歴史的な背景や実例を交えながらわかりやすく解説するこの著書は、投資を今から始める人、投資の運用に困っている人にぜひ読んでほしい。

 トウシルでは、この本の中から、ぜひみなさんに読んでほしい内容を10編ピックアップ。今回は7回目を紹介する。

前回の記事を見る>>

売らなくていい会社しか買わない

 農林中金バリューインベストメンツ株式会社の原型は、私が2007年に立ち上げた農林中央金庫株式投資部アルファ株式投資班で、「長期厳選型自己運用ファンド」の運用をスタートさせたところから始まりました。その名の通り、このファンドは農林中央金庫の自己資金を運用するのが目的です。

 このファンドの運用がスタートして、かれこれ14年という歳月が経過しましたが、この間、私たちは「売らなくていい会社しか買わない」という強い想いで、投資するべき会社を発掘してきました。

「本当にそんな投資の仕方があるのか?」と日本人投資家の大半は思うでしょう。確かに、日本国内で運用されている投資信託で、私たちと同じ考えで運用しているところは皆無に等しいと思います。そのくらい私たちは少数派です。でも世界に目を向けると、同じように投資先企業の株式を長期間、持ち続けている投資家は大勢います。

 私が手本としているウォーレン・バフェットは、コカ・コーラの株式をずっと保有し続けています。投資し始めたのが1988年ですから、かれこれ32年間も持ち続けていることになります。そしてこの間に、コカ・コーラの株価は20倍にもなりました。

 もの凄いハイテク技術を持った企業ではなく、こう言っては何ですが、変な色をした清涼飲料水のメーカーのどこに、バフェットが長期間その会社の株式を保有し続ける魅力があったのか、疑問に思う人もいるでしょう。

 ちなみにバフェットはチェリー・コークが大好きで、毎日欠かさず飲んでいるとか。それもハンバーガーのようなジャンクフードを食べながら(笑)。1日で5本のコークを飲むというのですから、糖尿病なんてどこ吹く風ですね。それで現在90歳になろうとしているのですから、健康に留意した食生活というものがいかに根拠に乏しいか、という気になってきます。

 それはともかくとして、バフェットがコカ・コーラに目を付けたのは、この会社のビジネスが将来、確実に大きく伸びると思ったからです。その根拠は世界的な人口増加でした。

 ざっくりした数字で言うと、1987年の世界人口は50億人でした。それが1998年に60億人になり、2015年には73億人ですから、急激に増えているのが分かります。将来推計では、2050年に97億人、2100年に110億人になるという見通しがあります。

 日本にいると、あるいは日本国内のことしか見ていないと、どこもかしこも人手不足と言われているので、むしろ人口が減少しているという印象を受けます。しかし、世界に目を向けると、人口は今後、爆発的に増えていくことは自明の事実です。

 しかも、中国をはじめとして新興国の経済発展にともなって、特に中産階級の人口が大きく増えていく見通しです。コカ・コーラのような清涼飲料水は、中産階級人口が増えることによって需要が高まります。つまり中産階級になれば、コカ・コーラが飲める程度にお金の余裕が出てくるということです。その中産階級人口が、世界の総人口よりも速いペースで増えると予測されているので、コカ・コーラの市場はこれからさらに拡大していくと考えられるのです。

「そんなことを言っても、清涼飲料水のメーカーなんてたくさんあるから競争が激しいのでは?」と思う人もいるでしょう。それも、日本しか見ていないからです。確かに日本では、たくさんの飲料メーカーが炭酸飲料をつくっていますが、海外に行くとコカ・コーラとペプシ・コーラがほとんど寡占していて、他に炭酸飲料があったとしても、せいぜいドクターペッパーが少々、というのが現実です。

 これが何を意味しているのかというと、今更、コカ・コーラの向こうを張って炭酸飲料の市場に参入しようとしたら、生産設備と販売網構築への投資、加えてブランド構築のための広告宣伝費等が莫大にかかるということです。コカ・コーラの牙城を崩すにはあまりにも莫大な資金が必要で、まるで商売にならないということです。まさにコカ・コーラは完ぺきなまでに参入障壁を築き上げた会社といっても良いでしょう。

 これだけ高い参入障壁があると、たかだか炭酸入りの砂糖水でも、新規参入者はほぼ現れません。世界人口は2100年までを見通しても、まだまだ増えていきますから、コカ・コーラの利益はこれからも長期的に増えていくという蓋然(がいぜん)性を持つことが出来ます。

 長期的に株価は利益に連動しますから、人口増加によって利益が増え続けるとしたら株価も長期的に上昇していくと考えられます。だからウォーレン・バフェットは、コカ・コーラの株式を持ち続けられるのです。

<『ビジネスエリートになるための教養としての投資』より抜粋>

全編読む:『ビジネスエリートになるための教養としての投資

購入はこちら