「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」を運用している農林中金バリューインベストメンツのCIO「奥野一成」が、『ビジネスエリートになるための教養としての投資』を執筆、投資の本ながらビジネス部門で話題となっている。
投資と本来の投資のあり方とその哲学、長期投資のコツ、優良企業の見極め方などを、歴史的な背景や実例を交えながらわかりやすく解説するこの著書は、投資を今から始める人、投資の運用に困っている人にぜひ読んでほしい。
トウシルでは、この本の中から、ぜひみなさんに読んでほしい内容を10編ピックアップ。今回は5回目を紹介する。
投資と投機の違いを農地にたとえると
私が行っているのは「投資」ですが、多くの日本人が行っているのは「投機」です。
投資と投機。何がどう違うのかを、分かりやすく言い表せる人はいますか?
なかなか難しいですよね。投資は資本を投じる。これは何となく漢字を見れば分かりますが、では投機は?
私だったら「農地」にたとえます。
皆さんは、自分が農地を持つとしたら、そこからどのような収益を得ようと思って買うのでしょうか。恐らく、大半の人は農地に作物の苗を植え、それが育ったら刈り取って販売し、売上を得ようとするでしょう。したがって、ここで大事なのは、その農地からどれだけの農作物が取れるのかということです。
でも、なかにはこういう考え方をする人もいます。
「この農地は今、安い値段で買える。だから、今のうちにこの農地を買い占めて来年、値段が上がったところで売却すれば、その差額が利益になる」
どうでしょうか。このような違いを聞くと、どちらが投資でどちらが投機なのか、何となくわかりませんか。
そうです。「この農地からどれだけの農作物が取れるのか」を考えるのが投資で、「この土地がどのくらい値上がりするのか」を考えるのが投機です。つまり、前者は農業という継続的なビジネスが成功するかどうかを前提にして農地を選択しているのに対して、後者は単にその農地が値上がりするかどうかということだけを考えているわけです。
「農地を買う」場合は、多数の人が前者の考えのもとで購入するはずです。
でも、これが本当に不思議なことなのですが、農地を株式に変えると、買おうとしている人の動機が全く違ったものになってしまうのです。
つまりこういうことです。「その企業が行っている事業から、どれだけの利益が得られるのか」を考えて株式を買うのか、それとも「この株式を買うことでどれだけの値上がり益が得られるのか」を考えて株式を買うのか、ということです。
これは私のドタ勘ですが、絶対に後者の方が多い。だって、個人投資家の方とお話をしていて、「この会社の事業内容についてどこが魅力なのか、他社との差別要因は何なのかを教えて下さい」という話はほとんど出たことがありません。言われるとしたら「この会社の株買ったら儲かるの?」ということだけです。
なぜ、農地だと純粋に農業から得られる収益をベースに考えられるのに、株式は企業が行っている事業から得られる利益をベースにして考えられないのでしょうか。
それは恐らく、「株価」という値段が常に誰からも見られるようになっているからだと思います。
ここが人間の弱いところですが、値段がチラチラ動いているのが見えると、誰でも気になるのです。農地ならば、株式のように日々、マーケットで値段が形成され、それが時々刻々と動いているものではないので、土地の値上がり益で利益を得ようという動機が生まれにくいのだと思います。
もしそうなのだとしたら、株式に投資する時も、農地を買うのと同じように、株価は最初から無いものと考えれば良いのではないでしょうか。
つまり、非上場会社のオーナーになったと考えてみるのです。すると投資額そのものではなく、投資額に対してその保有会社が実体としてどれだけの利益を上げているのかが気になるようになるでしょう。
駅前のレストランのオーナーになるイメージです。仮にそのレストランを買うのに1億円かかったとしましょう。そのレストランに投資するのに要した金額(1億円)に対して、どれだけの売上があるのか、どれだけの利益をたたき出しているのか、そこに興味の中心は移ります。その利益が最初500万円だとします。利回りに換算すると5%(500万円/1億円)です。そしてそのレストランが大成功して、お客さんが当初の倍来るようになって、利益も倍になったとします。利回りは10%になっていますね。そしたら、他の人が「そのレストランを買いたい」と申し出てきます。その時、あなたがそのレストランを売りたいと思ったら、たぶん2億円以上で売れると思いますよ。これが、企業がたたき出す利益とその企業が持つ価値との関係です。
尻尾がついた動物にたとえると、利益は胴体であり、株価は尻尾と考えることも出来ます。尻尾は常に動いているのでつい気になってしまいますが、大事なのは本体である胴体です。胴体が大きくなるには時間がかかりますが、これが着実に大きくなっていることが重要です。株式の場合は、企業がつくり出す利益こそが重要なのです。なぜなら、利益が大きくなればなるほど、長い目で見れば結果として、株価もそれに連動して上昇するからです。
ところが、多くの人はそう認識していません。とにかく尻尾がどれだけ大きく振れるのかということにばかり目を奪われてしまいます。それではいけません。「投機家ではなくて投資家になりたい」と考えているのであれば、尻尾の動きは出来るだけ見ないようにして下さい。とにかく会社の「利益」をしっかり見るようにしましょう。一流の投資家は、常に利益に対して強いこだわりを持っているものなのです。
<『ビジネスエリートになるための教養としての投資』より抜粋>
全編読む:『ビジネスエリートになるための教養としての投資』
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