金価格が史上最高値更新後、反落するも、高値水準は維持

 先週(8月17~21日)、NY金先物(期近)価格は、1トロイオンスあたり1,900ドルを割れそうになりましたが、何とか同水準を維持しました。8月24日(月)午前時点で、1,940ドル近辺で推移しています。

図:NY金先物(期近)価格の推移 単位:ドル/トロイオンス

出所:マーケットスピードⅡのデータより筆者作成

 前々週に起きた、複数の悲観論の同時後退による急落後、金相場の長期的なトレンドは下落に転じたのではないか、という声が聞かれましたが、筆者は現段階では、下落に転じてはいない、と考えています。

 金相場が下げ止まる理由があると考えているためです。この理由について考える上で、まずは、先週、金と同様に下落した“ビットコイン”の動向を確認します。週次ベースの値動きについては、今週の「ジャンル横断騰落率ランキング」で述べています。

新型コロナ・ショック後、金とビットコインの連動性が高まった

 以下のグラフは、ビットコイン(ドル建て)とNY金先物の価格動向を示しています。新型コロナ・ショックを境に、相関係数が高くなったことがわかります。

 相関係数は、2つの値の連動性を示す指標の一つで、+1から▲1の間で決まります。+1に近ければ、2つの値は高い連動性をもって推移した(上昇と下落の波が同じだった)ことを意味します。▲1に近い場合は、逆相関性が高いことを意味し、上昇と下落の波が逆だったことを示します。

図:ビットコイン価格(ドル建て)とNY金先物(期近)価格

出所:マーケットスピードⅡおよびInvesting.comのデータをもとに筆者作成

 2019年8月下旬から2020年3月の新型コロナ・ショックが起きるまで、これらの価格の相関係数は+0.36でした。つまり、ほとんど2つの値動きは関わり合っていませんでした。しかし、新型コロナ・ショック以後、相関係数は、一般的に高い連動性が認められる+0.7を超え、+0.86になりました。

 金とビットコインに高い連動性が認められるようになった背景を考えるため、相関性が強まる3つのパターンについて確認します。

 1つ目は、2つの値動きに因果関係があるパターンです。このパターンは株価と原油価格の間で、しばしば見られます。株価が上昇した場合、景気が回復して消費が増加する期待が高まり、それにより石油の消費が増加する期待が生じ、原油価格が上昇するパターンです。

 この結果、“株価上昇・原油価格上昇”が発生し、相関性は強まります。株価の上昇が原油価格の上昇の要因(2つの値動きに因果関係あり)となり、その結果、相関係数が高くなるパターンです。

 2つ目は、共通の変動要因によって2つの銘柄の価格が動き、その結果、相関係数が高くなるパターンです。2つの銘柄が直接的に関わり合って(因果関係があって)価格が推移するのではなく、共通の変動要因がそれぞれに別々に作用し、その結果、2つの銘柄に連動性が生じ、相関性が強まるパターンです。

 以前述べた、米国で大規模な金融緩和が行われている時に起きる“株高・金高”がその例です。

 FRB(米連邦準備制度理事会)による、金利の引き下げや資産の買い取りが、金融緩和における具体的な施策ですが、これらが行われることで、個人や企業は資金を調達しやすくなったり、金融機関が資金繰りをしやすくなったりして、景気が回復する期待が高まります。この景気回復期待の高まりが、株高の要因です。

 これとは別に、金利の引き下げや、資産の買い取りによって起きる通貨の流通量の増加により、他の通貨に比べて相対的に、ドルの保有妙味が低下する場合があります。この時、“世界共通のお金”という側面を持つ、ドルと金(ゴールド)の関係において、金が優位になり、金高が起こることがあります。

 米国の大規模な金融緩和が、株式市場と金市場、別々に作用し、“株高・金高”が起き、連動制が高まり、その結果、相関性が強まるわけです。

 3つ目は、もともと2つが似た属性を持っているパターンです。例えば、ガソリンと灯油という2つの石油製品の価格が似通っていることについては、それらが原油から作られるという共通点を持っていることで、一定の説明ができます。原油価格(この場合、原材料価格)が変動すれば、そこから作られる石油製品の価格も、特段の理由がない限り、原油価格と同一方向に変動するためです。

 新型コロナ・ショック以降の、ビットコインと金の高い相関を説明する上で、この3つ目のパターンの考え方を用いることが有効です。

ビットコイン先物の取組高が新型コロナ・ショック後、増加が鮮明に

 CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のビットコイン先物市場で、新型コロナ・ショック時に大きな変化が生じたことを確認ができます。以下は、同市場の取組高の推移です。取組高とは、未決済の建玉(たてぎょく)の数量のことで、その時の市場規模の大きさを示すバロメーターとも言えます。

図:CMEビットコイン先物の取組高の推移 単位:枚

出所:CFTC(米商品先物取引委員会)のデータをもとに筆者作成

 ビットコイン先物の取組高は、新型コロナ・ショックを境に大きく増加しています。2017年12月の上場後、取組高は大きく増えず、メジャーな銘柄とはいえませんでした(NY原油先物の取組高の20分の1程度)が、新型コロナ・ショック後、状況が変わりました。

 先述のとおり、取組高とは、市場規模の大きさを示すバロメーターと言えます。CMEという世界最大級のデリバティブ(金融派生商品)取引所で、取組高が増加しはじめたことは、ビットコインが、徐々にそして着実に、世界の金融市場で、一つのれっきとした銘柄として、認知され始めたことを示唆し、ビットコインの必要性が増してきていることを意味していると言えます。

 少なくとも、新型コロナ・ショック前よりも後の方が、世界がビットコインを歓迎し、必要とするムードは強まったと言ってよいと思います。

 また、CMEという公設の市場の取組高が増加していることを考えれば、いわゆる“交換業者”と呼ばれる業者との取引にはない、一定のルールで管理されたビットコインの取引を求める動きが強まっていると、言えます。

 CMEビットコイン先物の取組高の変化の背景を追うことが、金価格とビットコイン価格の連動性の背景を知る手掛かりになります。なぜ、新型コロナ・ショックを機に、CMEのビットコイン先物の取組高が増加したのでしょうか。

“無国籍資産”が物色されていることは、世界が“誰にも依存しない投資先”を求めている証

 ビットコイン価格と金価格が、比較的高い連動性を維持しながら上昇していることを考える上でキーワードとなるのが、“新型コロナ・ショック”、“似た属性を持っている”、そして“無国籍資産”です。

 以下は、新型コロナウイルスが発生・拡大し、米ドルや日本円などの、国の信用の裏付けがある法定通貨ではない、いわゆる“無国籍通貨”が物色される動機が生まれ、その後、新型コロナ・ショックを機に“無国籍資産”が物色されはじめるまでのイメージ図です。

図:新型コロナウイルスが発生・拡大した後の“無国籍通貨”をめぐる環境(イメージ)

出所:筆者作成

 新型コロナ発生・拡大時から、“資金の逃避先”“代替通貨”“代替資産”の各面から、無国籍通貨を物色する動機が生じたとみられますが、新型コロナ・ショックを機に、さらに、誰にも、何にも依存しない投資先、つまり、より“無国籍資産”の物色が強まったと、筆者は考えています。

 “無国籍通貨”は“無国籍資産”の一つです。金やビットコイン以外に、例えば、環境やエネルギー、社会、人権、衛生、医療などの、人類共通の目標を達成する動きに沿う銘柄は、無国籍色が比較的強い銘柄と言えると思います。特にコロナ・ショック後、ESG(財務状況に加えて、環境・社会問題や企業統治に対する取り組みを考慮して行われる投資)やSDGs(2015年9月の国連サミットで全会一致で採択された「持続可能な開発目標」のこと)が、これまでにも増して注目されるようになった動きと符合します。

 新型コロナ・ショックがもたらした“無国籍資産”を物色する動きがきっかけとなり、金、そしてビットコイン価格が上昇したと考えられます。

市場は大きく変化している。新しい考え方を折り交ぜ、相場と対峙することが必要

 2009年にビットコインの取引が始まってから、いつかビットコインは一般人に受け入れられる金融商品になる、と言われてきました。新型コロナが、今、その大きな一歩を踏み出すきっかけになろうとしていると、筆者は考えています。

 そして、コロナが続く限り、投資をする上での不安を少しでも排除するために、今後も“無国籍銘柄”の物色は、進むとみられます。誰か、何かに依存しては、それだけリスクが増える可能性があるためです。このような問題への解決策として、誰にも、何にも、依存しない、という選択が、今後一般的になるかもしれません。

 資金の逃避先、代替通貨、代替資産、中国インドの宝飾需要、中央銀行の保有、という5つの金相場の変動要因のうち、“無国籍資産への物色”によって、資金の逃避先、代替通貨、代替資産の3つの需要が、さらに喚起された、と言えるでしょう。

 そしてこのような動きより、無国籍資産の代表格である金(ゴールド)への関心が、止むことはなく、今後も金価格を支え続けると、筆者は考えています。

 これまでの金融の常識で“無国籍資産”という考え方は、語られる機会はあまりなかったのではないでしょうか。今後は、コロナが続く限り“無国籍資産への物色”が、関連する銘柄の価格を下支えする可能性があると、筆者は考えています。

 新型コロナ・ショック後、金と歩調を合わせるように上昇しているビットコインは、さらなる一般化を遂げるために、まだこれから時間がかかる可能性がありますが、“無国籍資産への物色”が起きる環境が続けば、一般化が進むスピードは速まるとみられます。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)