新型コロナがその実態を現しGDPは戦後最大の落ち込み

 今週17日(月)に日本の4-6月期GDP(国内総生産)が発表されました。物価変動の影響を除いた実質GDPが前期比▲7.8%、このペースが1年続くと仮定した年率換算で▲27.8%でした。ほぼ予想通りの数字でしたが、予想されていたとはいえ、年率換算で2ケタマイナス、3割近くのマイナスは驚くばかりです。2008年のリーマン・ショック後の2009年1-3月期(年率▲17.8%)を上回り、戦後最大の落ち込みとなりました。

 また、今回の日本のマイナス成長はリーマン・ショック後を上回っただけでなく、GDPの主要項目に大きな違いがあることも注目する必要があります。今回のGDPの個人消費は前期比▲8.2%、輸出は▲18.5%となっていますが、リーマン・ショック後では輸出が▲25.5%となった一方で、個人消費は▲0.5%にとどまったという違いがあります。

 リーマン・ショック時では金融機関の経営が悪化した欧米で経済が低迷したため、日本の輸出が打撃を受けました。今回は、世界的に経済が減速して輸出に打撃を受けたことは同様ですが、外出自粛によって個人消費に急ブレーキがかかったことが大きな違いです。日本経済のけん引力として影響の大きい個人消費が、どう回復するかどうかが今後の焦点となります。

7年半ぶりに500兆円(年率換算)を割り込んだGDP

 今回のマイナス成長でもう一点注目すべき点は、GDPの総額が7年半ぶりに年率換算で500兆円を割り込んだことです。2019年7-9月期の539兆円と比べて、今回のGDPでは485兆円となったため、約10%も減少したことになります。

 マーケットではGDPを見る際に増減率(経済成長率)に注目しますが、この500兆円という数字は日本経済を俯瞰(ふかん)する時の重要な数字となっています。500兆円以下か500兆円以上かで日本経済の活気度が変わってきます。リーマン・ショック後(2009年1-3月期)は463兆円まで減少しましたが、その1年半後には500兆円間際まで回復しました。しかし、2011年3月に東日本大震災が発生したため、リーマン・ショック前の水準506兆円(2008年1-3月期)を回復したのは2013年4-6月期でした。元の水準を回復するまで約4年かかったことになります。今回の500兆円割れが元の水準を回復する期間として、この約4年が一つの目安となりそうです。

 日本経済新聞によると、直近のピークである2019年7-9月期の水準を回復するのは民間エコノミスト22人の回復予想でも「2024年」が最多となっています。やはり回復には4年かかるとみているようです。

GDPとは?

 GDPとは国内総生産(Gross Domestic Product)のことです。国内総生産とは、国内で一定期間に生み出されたモノやサービスの付加価値を合計した金額のことです。付加価値とは、商品やサービスの売上高から原材料や仕入れなどにかかった費用を引いた金額のことです。

 GDPは国の経済の状態を示す最も重要な経済指標の一つですが、GDPを見る際には、その大きさ(金額)よりも、景気の方向性を示す増減率をマーケットでは注目します。この増減率を経済成長率、あるいは成長率と読んでいます。ある国のGDPが+5%ということは、その国の国内総生産が5%の率で増加している、成長しているということになります。

 この増減率は、「前期比」「前年同期比」「年率」として示されています。「前期比」は直前の3カ月間と比べたもので、直近の動きをつかみやすく、変化を早く捉えることができます。

「前年同期比」は1年前と比べた数字です。1年前の経済環境を考慮して、現在の景気の方向性を捉えることができます。例えば、現在のコロナ禍を1年前の平常時と比べるとどの程度経済が縮小したかを見ることができます。世界の主要国では1年前と約10%縮小したとみられており、リーマン・ショック時の3.5倍の落ち込みとなっているようです。

「年率」(※)は前期比の増減率のペースが1年続いたと想定し換算したものです。米国で一般的に使われ、国際比較がしやすいため、マーケットでは、この前期比年率換算を重視し、この基準で他国との成長率を比較しています。ただ、国によっては年率を発表しない国もあります。中国は「前年同期比」を主に使っています。

 このように「前期比」、「前年同期比」、「年率」は期間や意味合いがそれぞれ違いますので、成長率が比較されている時は、同じ基準で比較されているかどうか注意する必要があります。他国との比較をする際も同様です。

※「年率」の計算方法

 GDPは3カ月を基に計算されていますが、年率換算とはこの3カ月間の成長率が1年続いた場合、年間の成長率がどれくらいになるかを表します。今回4-6月期の3カ月間の成長率は▲7.8%のため、このペースで4四半期続いた場合の年間の成長率は▲27.8%となります。

 計算方法は、▲7.8%を4倍して年率を計算するのではなく、▲7.8%のペースで毎四半期減少するため、▲7.8%の4乗となります。▲7.8×4=▲31.2%ではありません。

 例えば、1-3月期のGDPを100とすると、

 4-6月期は  100×(100-7.8)%=92.2
 7-9月期は  92.2×(100-7.8)%=85.0
10-12月期は  85.0×(100-7.8)%=78.3
 1-3月期は  78.3×(100-7.8)%=72.2

 従って、年間では 72.2-100=▲27.8%となります。

欧米も戦後最大の落ち込み 

 戦後最大の落ち込みとなったのは日本ばかりではありません。既に発表された米国(▲32.9%)、やユーロ圏(▲40.3%)は3~4割、さらに英国は▲59.8%と6割の落ち込みとなっています。日本よりもマイナス幅が大きかったのは、日本よりも厳しい外出制限などの都市封鎖(ロックダウン)を行った影響が大きかったようです。個人消費や企業活動に大きな打撃を与えました。

 7-9月期のGDP予想では、各国ともプラス予想となっていますが、英国エコノミスト誌によると、プラスに戻ってもGDPの規模は米国で2017年、英独仏で2016年、日本は2012年の水準にとどまると試算しています。日本の回復スピードは遅いようです。

 正常化には時間がかかりそうです。その間、日米欧の金融当局はゼロ金利や無制限の量的緩和などの緩和政策を続けていくことが予想されるため、ドル安傾向は続きそうです。ただ、ドル/円については、ユーロやポンド、豪ドルなどがドルと比べて堅調なことから、それらのクロス円は円安傾向にあるため、ドル/円の円高にはブレーキがかかっています。徐々に頭が下がってきていますが、円高のスピードは緩やかな動きになりそうです。

 現在、政策によって株価がほぼ回復し、遅れて経済が回復するというシナリオが大勢ですが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、ワクチン開発も遅々として進まない場合、経済活動の足かせ状態が続くと金融緩和による資産効果だけでは限界があり、財政支援も底をついてくることが予想されます。

 回復に4年かかるとした場合、同じような金融・財政支援が続かない可能性もあることにも留意しておく必要がありそうです。