誰でもできる確定拠出年金投資術」を発刊したので、投資経験者向けにちょっとレベルを上げた投資術も紹介しよう

今月、「誰でもできる確定拠出年金投資術」という本を上梓しました。新書ということもあって、確定拠出年金についてなじみがない人ができるだけ単純に実行でき、しかし運用効率は上がるような投資方法を提案しています。

すでに550万人が確定拠出年金の口座を持っている時代でありながら、あまり投資ガイドがないこともあってか、おかげさまで増刷になっているようです。興味があれば、ぜひご覧ください。

さて、今回は、一般向け新書という制約上書けなかった「投資経験者向けの、レベルをちょっと上げた確定拠出年金投資術」を紹介します。

これは証券口座を開設しており、すでに有価証券の売買経験もある人なら理解できるレベル、ちょっとステップアップを考えるときにもう少し具体的な内容を説明するレベルです。

そして、会社は絶対に教えてくれない(会社の立場からは言えない)アドバイスをしてみましょう。

確定拠出年金をフル活用したいのであれば、3つの鉄則があります。

鉄則1:手数料の安い投資信託をフル活用し、手数料の高い投資信託は手を出さない

最初の鉄則は投資信託選びです。過去にお宝投資信託は確定拠出年金に眠っているというコラムを書いたことがありますが、平均的にみて確定拠出年金の中で購入できる投資信託は割安です。

ノーロードが基本で信託財産留保額は取らないことがほとんどなので、入り口と出口でコストはかかりませんし、運用手数料(信託報酬)も一般的に販売されているものより低く設定しています。

これは対面販売の説明等に要するコストが生じないことなどが理由に挙げられていますが、同様の立場にあるネット証券(楽天証券のことですが)が昨年、割安の確定拠出年金専用ファンドを誰でも購入できるようにしたことはちょっとした話題となりました。

楽天証券の取り組みを除けば、基本的に確定拠出年金でしか買えない有利な投資条件のファンドが存在するわけですから、みなさんの確定拠出年金口座にそれがあるなら優先的に活用するべきです。

投信まとなびやモーニングスター等の投資信託検索サイトで探してみると、日本株のインデックスファンドでも信託報酬が0.17%といったものがあります。バランス型ファンドでも0.25%以下というものがあり、明らかに格安です。

自社の確定拠出年金の商品ラインナップをチェックし、割安の商品から選択をしていきましょう。具体的には年0.7%以下、できれば0.5%以下のものを活用してください。

(もし一本もない場合、割高な投資をさせられているわけで、労働組合を通じて会社にクレームを入れると新商品が追加になることがあります)

運用コストが運用成績を引き上げることはまずありません(特にインデックス運用について)。kakaku.comで安い買い物をするなら、確定拠出年金でも割安の買い物を心がけましょう。

鉄則2:可能な限り投資ウエートを高める

次の鉄則は、投資割合は可能な限り高く取る、ということです。これは会社の主催する投資教育では絶対に言ってくれないことですが、個人が個人の最大効率化を図ろうとするなら、避けては通れないことです。

会社は確定拠出年金の中でも分散投資をしてくれるほうが無難です。昨今のような市況で大きく下げた場合に、従業員にクレームを受けずにすむからです(あるいは分散投資のおかげで全資産が下がらずにすんでいる、と説明できる)。

しかし、譲渡益非課税のメリットを最大限に享受したいのであれば、自分の全財産のうち投資資金は最優先で確定拠出年金内に置くほうがいいはずです。

たとえば確定拠出年金で「投資信託5:定期預金5」のようなポートフォリオを持ちながら証券口座でETFを買っているとします。

(例)

  • 確定拠出年金内投資信託 100万円
  • 確定拠出年金内定期預金 100万円
  • 手元の証券口座投資信託 150万円
  • 手元の銀行口座定期預金 200万円

このようなポートフォリオはせっかくの確定拠出年金の譲渡益非課税メリットを半分しか活用していないことになります。(しかも5:5という投資方針が資産全体に反映されていない)

確かに定期預金の利息も全額非課税になるとはいえ、期待リターン0.2%程度の預貯金の0.04%相当が非課税になるだけです。それよりも、期待リターンが4%くらいはあるであろうリスク資産の譲渡益0.8%をすべて非課税にするほうがメリットは高くなります。

投資資金は可能な限り確定拠出年金に置き、資金確定拠出年金は投資信託100%とし、定期預金を手元で保有するべきです。つまり、

(例)

  • 確定拠出年金内投資信託 200万円
  • 確定拠出年金内定期預金  0万円
  • 手元の証券口座投資信託  75万円
  • 手元の銀行口座定期預金 275万円

というように資産を配置するのが確定拠出年金の有効活用になる、ということです。もちろん、手元の証券口座はNISAを利用するといいでしょう。

鉄則3:下がっているときは基本的に放置し、毎月の掛金拠出については投資割合を維持する

確定拠出年金活用の最後の鉄則は、下がったときの狼狽売りを絶対に行わないことです。あなたの定年退職日まで回復の見込みが考えられない場合を除いて、下がったリスク資産を慌てて定期預金等にスイッチングする必要はありません。

特に最悪な投資行動は2つあります。ひとつは元本割れの状態に陥ってから手放し、その後株価が回復したにもかかわらず再投資するチャンスを逸するようなパターンです。これでは何もしないほうが良い選択です。

もうひとつ注意すべきは、利益が出ていたとしても全額売却するような投資行動です。一見すると上手に利益確定したように思えますが、再投資のタイミングを見誤れば資産全額の再成長のチャンスを逃すことになります。

普通の会社員が仕事もしながらマーケットを読むことは困難ですし、投資信託の売買では翌日以降の成約になり、目先の売買タイミングなど狙うこともできません。基本的に、確定拠出年金の投資は定年直前まで放置し続けるくらいがいいと思います。

もし売却する場合であっても、部分的な売却にとどめるとともに、再投資のチャンスを窺う目を持ち続けることが必要です。

また、毎月の掛金拠出については、株価の下落している時期であっても基本的に投資割合を変更しないことが有効です。可能なら引き上げたいくらいで、下がっているときにリスク資産を定期購入し続けられるかが、市況の回復時に利回り青大きく向上させ、元本割れからの復帰も早めてくれます。

今のようなマーケットでは保有資産の時価が目減りしていると思いますが、あまり一喜一憂しないことです。むしろ、翌月以降の新規掛金でのリスク資産購入は割安での仕込みにつながり、数年後に喜べるチャンスなのだと考えることが重要です。

おまけの鉄則:運用益より有利な「リターン」を先に確保する

ところで、運用以前で2つの「リターン」をあげることもぜひ考えてみてください。これはもしかすると10%以上の利回りを無条件で得るのと同じ効果があるからです。

まず、企業型確定拠出年金で加入選択制がある場合、現金前払いとせず必ず確定拠出年金に加入します。確定拠出年金に1万円入金されるものを現金受け取りすると所得税・住民税が引かれるため10~20%くらい引かれてしまいます。つまり、確定拠出年金加入するだけで同水準の「リターン」をあげたも同然なのです。

また、マッチング拠出を行っている会社であったら上限を入金することです。所得税・住民税の課税対象から逃れるチャンスはほとんどありません。これも譲渡益非課税以上の「リターン」を生み出します。少なくても10%相当、高所得者であれば20%相当の利回りを最初から確保したも同然です。

個人型確定拠出年金の加入対象者(自営業者等、企業年金のない会社員)は個人型確定拠出年金口座の開設を行うことで納税額が軽減されます。

まとめ 確定拠出年金をフル活用して老後を豊かにしよう

確定拠出年金制度をフル活用することは、確実に老後資産の上積みにつながります。少々運用で負けたところで、税制優遇も考慮すれば実質的にプラス、ということもあります。もちろん運用益を確保すればさらに豊かな老後をデザインできます。

利用する人ほど豊かになるしくみ、確定拠出年金をぜひ活用してください。

「誰でもできる確定拠出年金投資術」