リスクヘッジやロング・ショート戦略にも活用される空売り

 信用取引の空売り(からうり)のメリットは、下降トレンドにある銘柄を空売りして、株価下落による利益を得るだけではありません。例えば、持ち株のリスクヘッジに空売りを用いることもできます。

 持ち株が長期的にはまだ上昇トレンドにあるものの、短期的に下降トレンドになりそうなケースはよくあります。

 こんなとき、短期的な株価値下がりリスクをヘッジするために、持ち株と同じ銘柄に空売りを実行するのです。そして、短期的な下降トレンドが終了したところで買い戻しをして利益確定します。もし空売り後逆に株価が上昇してしまっても、「現渡し」という決済方法を使うことで、空売りした時点での株価で持ち株を売却したことにできますから、株価がいくら上昇しても損失が膨らむことはありません。

 空売り後に株価が大きく下落し、長期的にも下降トレンド入りした場合も、「現渡し(げんわたし)」をすれば、空売りを行ったときの高い株価で現物株を売却したのと同じ効果を得ることができます。

 また、「現物買い・信用買い」と「空売り」を組み合わせてロング・ショート戦略をとることも可能です。

 リスクヘッジの場合は持ち株と同じ銘柄に空売りを行いますが、ロング・ショート戦略は、相対的に株価の値動きが強いと思われる銘柄を買い(=「ロング」)、弱いと思われる銘柄に空売り(=「ショート」)をすることで、株式市場全体が上昇局面でも下落局面でも利益を得ることを目指します。

空売りで注意すべきは「踏み上げ」

 よく、「信用買いの損失は限定的だが、空売りの損失は無限大」といわれます。
 株価はゼロより小さくなることはなりません。したがって、信用買いであれば、損失は最大でも「買値×株数」となります。しかし、株価はいくらでも無限に上昇する可能性があるため、空売りの場合は、株価が上昇すればするほどどこまでも損失が膨らみます。

 例えば、株価100円の銘柄を1000株信用買いした場合、最大の損失は100×1000=10万円です。一方、株価100円の銘柄を1000株空売りして、その株が400円まで上昇した場合、損失は(400-100)×1000=30万円になります。株価がさらに上昇すれば損失も膨らみます。

 そのため、株価上昇局面では、空売りをしている投資家が含み損拡大を避けるために買い戻しを急ぐことで、株価が短期間に急上昇することがあります。このことを「踏み上げ(ふみあげ)」といいます。空売りをしている場合、踏み上げの初期に損切りをしないと、損失が日に日に増大し、資金の多くを失いかねませんので十分な注意が必要です。

踏み上げの予兆は「信用倍率」「逆日歩」に現れる

 踏み上げが起きるのは、大部分が「売り長(うりちょう)」の銘柄、つまり信用買いに比して空売りの残高が多い銘柄です。こうした銘柄は、空売りの踏み上げを狙った買い仕掛けが入ることもよくあります。

 証券会社の取引画面などで、各銘柄ごとの信用取引の残高や、信用買いと空売りの比率(信用倍率。これが1を割り込むと空売りが信用買いより多いことを表す)をチェックすることができます。空売りを実行する際は、信用倍率が小さい銘柄はできるだけ避けるようにし、実行後も信用倍率の推移に目を配り、急速に信用倍率が小さくなっている場合は早目の買い戻しを検討するようにしましょう。

 空売りは、誰かから株式を借りてきて、その株を売る行為です。したがって、空売りの残高が増えてくると、株式を借りてくることが次第に困難になります。そのため、株式調達のための追加的なコストがかかるようになり、空売りしている投資家がこれを負担します。これを「逆日歩(ぎゃくひぶ)」とよびます。

 逆日歩が発生する銘柄の多くは、大幅な「売り長」にあります。したがって、逆日歩が生じている銘柄は踏み上げ狙いの買い仕掛けがおこる可能性が十分にあり、新規の空売りは慎重に行う必要があります。

 いずれにせよ、損切りをしっかりと実行して、無理のない範囲内で行えば、空売りもそれほど怖いものではありません。あとは、突然の大きなプラス材料出現により買い戻し(損切り)をしたくてもできない事態を防ぐために、ヘッジ目的でない純粋な空売りは値動きの激しい小型株より、値動きの比較的ゆるやかな大型株で実行することと、空売りする銘柄を分散させることをお勧めします。