株価指数と比べた個別銘柄の値動きの大きさを示す「ベータ値」
皆さんは「ベータ値」をご存じでしょうか。このベータ値を活用すれば、個々人のリスク許容度に応じた銘柄選びができます。さらに、損切りをしっかりと行うことができる方であれば、上昇相場でより多くの利益を得ることができる銘柄を探すことも可能です。
ベータ値とは、市場全体(つまり株価指数)に対する、各個別銘柄の株価の感応度をいいます。つまり、日経平均株価やTOPIXといった株価指数が1%動いたとき、個別銘柄が何%動くかを示したものです。
例えばTOPIXを基準とした場合、ベータ値が1の銘柄は、TOPIXが1%上昇すると1%上昇、TOPIXが1%下落すれば1%下落というように、TOPIXと同じ値動きをすることを表します。
ベータ値が2の銘柄は、TOPIXが1%変動するとその2倍の2%変動することを表し、ベータ値が0.5の銘柄は、TOPIXが1%変動するとその半分の0.5%変動することを表します。
なお、ベータ値がマイナスになる銘柄も時折あります。これは、TOPIXが下落すると逆に上昇するといった、TOPIXと逆相関の関係を有する銘柄です。
個別銘柄のベータ値は、インターネットで検索すれば無料で見ることができるサイトがいくつかありますし、自分自身でエクセルを使って計算することも可能です。
ベータ値が意味するものとは?
いくつかの銘柄につき、対TOPIXの過去100週間のベータ値を掲げると以下の通りです。
トヨタ自動車(7203):1.198
武田薬品工業(4502):0.541
ファーストリテイリング(9983):1.148
野村ホールディングス(8604):1.935
新日鐵住金(5401):1.411
ベータ値は、個別銘柄のリスクを知るために大いに参考になる指標です。ベータ値が1であれば、株価指数と同程度のリスクとなります。ベータ値が2の銘柄は株価指数の2倍のリスクがあり、ベータ値が0.5の銘柄は株価指数の半分のリスクであることを意味します。
ここでの「リスク」とは値動きの大きさのことです。したがって、上記を言い換えれば、ベータ値が2の銘柄は株価指数の2倍の値動きをする、という意味になります。ベータ値が高いほどその個別銘柄に内包するリスクが大きく、低いほどリスクが小さくなります。
ベータ値から見えてくるある傾向とは?
なお、ベータ値はあくまでも過去の実績に過ぎず、将来の値動きを保証するものではありません。したがって、現在のベータ値と3年後、5年後のベータ値は異なってきます。
しかし、ベータ値を見ると、次のような傾向を知ることができます。
(1)景気敏感株VSディフェンシブ株
過去のベータ値の推移から、鉄鋼、海運、不動産、証券といったいわゆる景気敏感株は、ベータ値が高くなる傾向にあり、逆に医薬品、食料品、小売りといったいわゆるディフェンシブ株はベータ値が低くなる傾向にあります。景気敏感株の中にはベータ値が2以上の銘柄も散見されますが、ディフェンシブ株は0.5以下のベータ値のものが数多くあります。
(2)業界上位銘柄VS業界中位・下位銘柄
同じ業界に属する銘柄のうち、業界上位銘柄は相対的にベータ値が低く、業界下位銘柄ほどベータ値が高くなる傾向にあります。例えば鉄鋼株であれば業界トップの新日鐵住金(5401)は1.411ですが業界2番手、3番手のJFEホールディングス(5411)、神戸製鋼所(5406)はそれぞれ1.669、1.620です。
(3)低位株VS値がさ株
値がさ株に比べて、株価が低い銘柄の方がベータ値が高くなる傾向にあります。
これらの傾向を一言で表すなら、「業績の変動が激しい銘柄ほど、ベータ値は高くなる傾向にある」ということができます。
高ベータ値銘柄は上昇相場では大きな利益が期待できるが…
なお、高ベータ値の銘柄に投資する際は、以下の点に注意が必要です。
まず、高ベータ値の銘柄は、市場全体が上昇基調にあるときはより大きく上昇しますが、逆に市場全体が下落基調に転じると、より大きく下落します。
したがって、損切りをしっかり行わないと、投資タイミングによっては買い値を大きく下回り、多額の含み損を抱える結果となりかねません。高ベータ値の銘柄ばかりを信用買いしていると、追い証が発生することも十分に考えられます。損切りを適切なタイミングで行えない方は、高ベータ値の銘柄は避けた方が無難です。
また、高ベータ値の銘柄の多くは、業績が大きく変動することから、株価も右肩上がりの上昇とはならず、上下に大きく変動します。そのため、長期保有が不向きです。買った後いつまでも保有を続けていると、せっかくの大きな利益を取り逃がしてしまうどころか、その後の下落で含み損に転じてしまう恐れもあります。上昇トレンドで買い、下降トレンドに転じたら売る、というように、株価のトレンドに従った売買を心掛けるようにしましょう。
高ベータ値銘柄の事例研究 ケネディクス(4321)
最後に高ベータ値の銘柄のアベノミクス相場以降の値動きをみて、適切な投資戦略を考えてみることにしましょう。
ケネディクス(4321)は、アベノミクス相場がスタートした2012年11月時点で、対TOPIXの過去36ヶ月間のベータ値は2.731と非常に高い数値でした。
このケネディクス株を筆者が以前より実践している「日足ベースでの上昇トレンド転換で買い」というタイミングで新規買いした場合、2012年11月におよそ100円前後(株式分割考慮後。以下同様)で買うことができます。
その後ケネディクス株は全体相場の上昇とともに、株価指数を大きく上回る上昇率をみせ、2013年4月には849円まで上昇しました。半年足らずで8倍以上の上昇です。
もちろん、最高値で売り抜けることなどできませんので、日足チャートのトレンドが下降トレンドとなってから売却することになりますが、それでも650円前後で売却できます。半年で投資元本が6倍になったのです。
(2月に日足チャートが一時的に下降トレンドになっていますが、下降トレンド入り直後にヘッジ売り→上昇トレンド復帰直後に買い直しをすれば、2012年11月に買った分は保有を続けることができます)
一方、上昇トレンド終盤の4月上旬に700円前後で新規買いしたような場合でも、トレンドが下降トレンドに転換した直後に損切りすれば、わずかな損失で逃げることができました。しかし、損切りせずに保有を続けていたとすると、6月下旬には買い値の半値以下である311円まで下落し、特に信用取引の場合は非常に大きなダメージを受けてしまうことになります。
市場全体が上昇しているときに大きな利益を狙いたい場合はベータ値が高くなる傾向にある銘柄を選択すればよいですし、逆にあまり株価が大きく変動する銘柄に投資したくない場合は、業界トップ銘柄やディフェンシブ銘柄に投資すればよいのです。
ベータ値を使って、自分自身のリスク許容度に応じて適した銘柄を選択してみてはいかがでしょうか。
本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。