基軸通貨としての米ドルの長期性に関する本当の懸念が浮上し始めた

 8月3日のゼロヘッジの記事「Is The Dollar Standard Slipping Out Of Control?(ドル本位制は制御不能に陥っているのか?)」によると、「最近の新しい研究では、かつては優遇されていたものが今では負担となり、雇用の拡大を損ない、予算や貿易赤字を押し上げ、金融バブルを膨らませていることが明らかになっている」という。

 その結論は、「米国経済を持続可能な軌道に乗せるためには、米国政府はドルの基軸通貨としての地位を維持することをやめなければならない」というものだ。そして、先週、米外交問題評議会は「ドルの覇権を捨てる時が来た」と題した論文を発表した。

 ゴールドマン・サックスのコモディティ・ストラテジストのジェフリー・カリーは、「基軸通貨として米ドルが長く生き延びることができるかについての本当の懸念が浮上し始めた」と、書いた。「えっ? ゴールドマンはドルが基軸通貨の地位を失うかもしれないと言っている。考えられない?」、それが標準的な見解だろう。いったい、何が起きているのであろうか?

 新しい研究によると、かつては優遇されていたものが今では負担となり、雇用の拡大を損ない、予算や貿易赤字を押し上げ、金融バブルを膨らませていることが明らかになっている。米国経済を軌道に乗せるためには、政府はドルの基軸通貨としての地位を維持することをやめなければならない。これが近年のダボス会議でも議論されている「グレート・リセット路線」だ。

 あちこちでバブルとその崩壊を繰り返す2000年以降の経済や成長と失業の停滞に対処するためには、米ドルにもそろそろ通貨の切り下げが迫っているということであろうか? ゴールドマンのジェフリー・カリーは、「ドルの切り下げはFRB(米連邦準備制度理事会)の議題にしっかりと載っている」と述べている。そしてそれは「基軸通貨としての米ドルの長期性に関する本当の懸念が浮上し始めた」ということを意味している。

 筆者は以前より、貿易戦争は最終的にプラザ合意2.0に至ると指摘してきた。そこにたどり着くにはまだ時間を要するだろう。しかし、トランプ大統領は以下の3つの戦略を着々と進めている。

  1. グローバル企業の生産体制を破壊し、生産拠点を米国に戻す(米国人の雇用の確保)。
  2. 同盟国から米軍を撤退させ、軍事的に独立させる。その過程で軍事兵器を売り込み、貿易赤字を縮小させる(ビジネスマンのトランプ大統領は戦争するふりはするが、実際には戦争はしない)。
  3. 貿易戦争(関税・数量規制)の終着点は貿易不均衡の是正と米国の赤字解消であり、最終的には「プラザ合意2.0」が発動される可能性が高い。

中国のドル離れ!中国銀行はSWIFTからの切り替えを急いでいる!?

 中国銀行の投資銀行部門の報告によると、米国の経済制裁が迫る中、中国の銀行はSWIFT(国際銀行間の送金や決済に利用される安全なネットワーク等を提供する非営利法人で、本部はベルギーにある。世界のほとんどの金融機関が、SWIFTの標準化された通信フォーマットを利用して日々大量の決済業務等を行っている)からの移行を迫られているという。中国の国営金融機関は、香港の新たな国家安全保障を実施した場合、銀行に罰則を科す可能性のある米国の法案の成立を見越して、緊急時対応計画の見直しを行っているという。

 中国銀行の報告書は、「米国が一部の中国の銀行によるドル決済へのアクセスを遮断するという極端な行動に出るならば、中国は米ドルを為替管理のアンカー通貨として使うのをやめることも検討すべきだ」としている。

 最近のドル安相場は、米国の制裁を想定した中国銀行がSWIFTからの切り替えを急いでいるために起きているという見方もある。

 中国はSWIFTにかわるCIPS(クロスボーダー銀行間決済システム)をすでに用意している。中国は2015年にCIPSの清算および決済サービスシステムを立ち上げた。中央銀行が監督するCIPSは、96の国と地域からの参加を得て、2019年には1日あたり1,357億元(194億ドル)を処理したという。

 1カ月前に中国銀行保険監督管理委員会のGuo Shuqing委員長が米国通貨に対して強い警告を発した。これはCFR(米外交問題評議会)やゴールドマンのレポートが出る1カ月前に、中国が「米ドルの準備通貨としての地位が終わりを迎える可能性がある」と、警告したものだった。

 市場はこれらの最新の動きに気付いていないかもしれないが、ワシントンと北京の間の金融戦争は正式に始まっており、今後は米国と中国の報復合戦が進むにつれて、中国のドル離れは加速するばかりである。中国が米国債を売れば、米国債市場がどうなるのかを考えたら、給付金バブルに浮かれている場合ではないだろう。

ドル安相場は一服、調整相場の局面に

 相場には方向性を持っている「トレンド相場」と無秩序に動いている「調整相場(ランダム相場)」がある。現在の相場が「トレンド相場」なのか、あるいは「ランダム相場」なのかを見定めるのに有効なのが「標準偏差ボラティリティ(Standard Deviation)」である。

「標準偏差ボラティリティトレードモデル」では、相場に方向性が出てくると、標準偏差ボラティリティとADX(アベレージ・ディクショナル・インデックス)が上昇する。標準偏差ボラティリティとADXが低い位置から上昇する場合は、相場が保ち合いを離れ、強い方向性をもつシグナルとなる。

 相場に大きなトレンドが発生する可能性のある局面は、標準偏差ボラティリティが上昇し、ボリンジャーバンドの±1シグマ(個別株および株式インデックスのみ0.6シグマを使用)をブレイクしたときである。相場がボリンジャーバンドの±1シグマ(株式インデックスの場合は0.6シグマ)の外側にあるうちはトレンド相場が継続しており、ポジションを持ち続けるという手法だ。

 一方、標準偏差ボラティリティとADXがピークアウト(天井をつけ下落)すると、トレンド期とはやや逆方向にバイアスがかかった「横ばいレンジ内での乱高下相場」となりやすい。

 現在の対ドル相場は、標準偏差ボラティリティとADXがピークアウトしている典型的な調整相場である。

ユーロ/ドル(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)
中段:ADX(黄)標準偏差ボラティリティ(青)
下段:買いトレンドシグナル(赤)・売りトレンドシグナル(黄)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 相場に強いトレンドが出ているサインは、標準偏差ボラティリティ(パラメーター:26)とADX(パラメーター:14)の2本のラインが一緒に上昇しているところである。売買注文のタイミングは、ボリンジャーバンド(パラメーター:21)で判断する。チャートのローソク足がボリンジャーバンドの±1シグマのラインを外側に飛び出したところがエントリー(新規注文)のポイントである。必ず標準偏差ボラティリティとADXのラインの傾きを確認して、トレンド相場であることを確認することがマストである。あとは、ローソク足が±1シグマの内側に戻ったら、エグジット、すなわちポジションを手仕舞うだけだ。

ポンド/ドル(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)
中段:ADX(黄)標準偏差ボラティリティ(青)
下段:買いトレンドシグナル(赤)・売りトレンドシグナル(黄)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ドル/スイス(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)
中段:ADX(黄)標準偏差ボラティリティ(青)
下段:買いトレンドシグナル(赤)・売りトレンドシグナル(黄)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ドル/円(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)
中段:ADX(黄)標準偏差ボラティリティ(青)
下段:買いトレンドシグナル(赤)・売りトレンドシグナル(黄)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

8月12日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 8月12日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、永倉弘昭さん(FX事業本部長)をお招きして、「ドル本位制の揺らぎ?SWIFTシステムではなく、クロスボーダー銀行間決済システムの利用が拡大!?」「米大統領選はトランプの逆転勝利も!」「注目通貨のテクニカル分析」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロード出来るので、投資の参考にしていただきたい。

8月12日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー(ラジオNIKKEI)

出所:YouTube