あなたの定期預金、ポートフォリオとして認識していますか

 私たちが資産運用に着手するとき、資産の全額をもって、リスクを取ることはあまりありません。

 はじめての投資体験でも、資金全額を投じる人もあまりいません。ときどきいる投機好きな人がそうすることもありますが、人に勧められることではないと、本人も分かっているはずです。

 では、なぜ私たちは「財産のすべてを投資につぎ込んではならない」と考えるのか、突き詰めて考えたことはあるでしょうか。そこにはきちんと理由があり、このことは、「なんとなく投資」をする段階からステップアップする上で重要な視点があります。それは「定期預金も、あなたのポートフォリオの一部である」という視点です。

 例えば、あなたが200万円の資金で、個別株や投資信託、ETF(上場投資信託)を100万円購入したとしたら、それは「100万円で投資をしている」のではありません。「100万円のリスク性資産」と「100万円の安全性資産」を、5:5で持つポートフォリオを作ったと考えるべきなのです。

手元に定期預金があることは、3つの価値がある

 あなたのポートフォリオに、「手元の定期預金」も意識することは、資産全体で管理をするという意味で大きなステップアップとなり、そこには3つの価値があると思います。

1:ポートフォリオ全体のリスクを抑える

 手元の安全性資産の存在は、資産全体でのリスクを下げます。確定給付型の企業年金では基本ポートフォリオを作成するにあたって、生命保険会社の一般勘定(*)の保有割合を議論します。これは資産全体のリスクをコントロールする重要な役割があるからです。企業年金運用は期待リターンを高めることと、リスクを抑えることのバランスを常に意識しなければいけませんが、そのカギとなっているわけです。

*編集部注「一般勘定」:生命保険会社は契約者から預かった保険料を「一般勘定」と「特別勘定」の異なる箱に分けて管理・運用している。一般勘定は元本と一定の利率を契約者に保証し、運用のリスクは保険会社が負う。特別勘定は、運用によって給付が変動するため、リスクは契約者が負う。

 生保一般勘定は個人が購入することができません(その逆に、企業年金は銀行預金を持つことができない)。そのため、個人にとっての安全性資産となるのは銀行預金ということになります。安全性資産は期待リターンが低いものの、元本割れリスクがほとんどない資産クラスと位置づけられます。

 ですから、個人が自分の財産を大きく2分割して、[定期預金7:投資割合3][定期預金5:投資割合5][定期預金3:投資割合7]などと、その割合を考えることがリスク管理の一番大事なところです。

 そして、これは個人が「主体的に決断できるリスク管理」でもあります。マーケットリスクを個人が制御できなくても、ポートフォリオのリスク割合は自らが(欲望に負けなければ)制御できるからです。

2:下落時、全体の損失額を抑える

 そして、投資ウエートの自己決定は、下落基調にあるとき、全体の損失額を抑えることにつながります。

 先ほどシンプルに3つの例を示しましたが、投資対象がマイナス30%の下落を示した場合であっても、定期預金部分の資産には元本割れの影響は及びません。

 投資対象がマイナス30%の下落を示した場合、これをあなたが資産全体で考えることができれば、

[定期預金7:投資割合3]マイナス9%
[定期預金5:投資割合5]マイナス15%
[定期預金3:投資割合7]マイナス21%

 と見なすことができます(定期預金のリターンはここでは加味していない)。

 つまり、株価が30%下落したとき、「ああ、30%もマイナスだ」と考えるのと、「資産全体ではマイナス15%くらいか」と考えるのではまったく意味が違います。なぜなら、その短期的な下落を許容し、回復まで乗り越えることができるかにもつながってくるからです。

 私たちはうまく儲(もう)かったときのリターンばかり意識しますが、より重要なのは「うまくいかなかったときの損失可能性」です。資産全体の投資割合を決定し、手元に安全性資産を残しておくことが、投資を続ける体力になるわけです。

3:リバランス時の購入資金となる

 そして、基本的な資産配分を自分の中に持っている人は、マーケットが下落しているときにリバランスを実行することもできます。

 リバランスとは基本ポートフォリオと、自分の実際のポートフォリオのズレを修正するプロセスですが、これを[安全性資産:リスク性資産]という2分割で説明すれば、次のような資金移動を行うことです。

仮に基本ポートフォリオ[安全性資産5:リスク性資産5だった場合

(1)市場下落時のポートフォリオが[安全性資産6:リスク性資産4]に変化する
(2)安全性資産の1割相当をリスク性資産に振り替えて[安全性資産5:リスク性資産5]に戻す
(3)市場が回復して[安全性資産4:リスク性資産6]のようになったら資産の1割相当を利益確定し、[安全性資産5:リスク性資産5]に戻す

 これは資産全体でのリスク性資産の保有割合をキープすることで、安値時期には仕込みを、高値時期には部分的な利益確定を行う考え方です。

 資産の100%を投資に回している場合、「市場が下落基調にあるとき、リスク資産を買い増す」という選択肢を取ることができません。しかし、自分なりにリスクを取る意識を持っている場合、今般のような一時的な下落相場でリバランスを行う原資にもなり得るわけです。

リスクの高い投資商品を買うときも、投資ウエートを意識しよう

 この戦略、もう少し応用すると、やたらリスクの高い投資商品を組み入れるヒントにもなります。

 例えばFX(外国為替証拠金取引)でレバレッジを効かせて為替取引をする人や、個別株での短期売買、あるいは信用取引をしたい人は、高いリスクテイクをしているわけですが、「保有資金に占める定期預金のウエートを高めにしておく」ことで資産全体のリスクコントロールができます。

 例えば「投資信託で運用するなら[定期預金5:投資信託5]の資産配分」を選択するような人が、個別株で勝負をしたいなら[定期預金7:個別株3]あるいは[8:2]というようにすれば、資産全体で考えればリスクのバランスが取れます。

 多くのFX投資家や個別株のショートトレーダーはその逆で、しばしば、リスクの高い投資対象に保有資金のほとんどすべてをつぎ込んでしまいます。しかし、過剰なリスクテイクが裏目に出てしまった場合に、いきなり資産のほとんどを失うことになってしまうと、投資を継続することすら困難になってしまうわけです。

自分が選べるリスク管理方法が「投資割合の決定」

 今回の話の一番のカギは「投資割合は自己決定できる」ということです。

 そしてそれは投資ウエートをコントロールすることで、資産全体のリスクをコントロールできるということです。

 最初に説明をしましたが、マーケットのリスクは個人がコントロールできるものではありません。アセットクラスを組み合わせることで、分散投資理論にもとづきリスクを抑えることはできますが、その影響は限られています。

「投資をしない資金」をしっかり手元に確保することは資産全体でのリスクコントロールを個人が行う最大の手段なのです。

 あなたがなんとなく資金のほとんどすべてを投資に回しているのなら、「投資割合」について改めて考えてみてほしいと思います。そして全体でのリターンやリスクを考えるようにしてみたいものです。