新型コロナウイルスによる不況は、減収や失業といった「禍」をもたらしています。この状況が急激に収まることは考えにくく、現時点で仕事を失っていなくても、今後に不安を感じているという人は少なくないのではないでしょうか。こんなときに、セーフティネットとしてさまざまな支援制度を知っておくことは大切です。
生活保護申請などのサポートを行うNPO法人 生活支援ネットの野田やすこ氏に、支援制度の種類や制度の対象者となる条件などを聞きました。
■お話を伺った人
NPO法人 生活支援ネット 代表
野田やすこ氏
【1】失業の現状
コロナ禍で失業への不安は広がっている
野田氏によると、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、生活支援に関する相談件数は増加傾向にあるそうです。
「相談件数は日によって多少のバラつきはありますが、以前は1週間で平均10件程度だったのが、コロナ禍で30件程度に増えています」(野田氏)
相談者の多くは非正規雇用とのことですが、正規・非正規にかかわらず、万一の備えとしてセーフティネットの基礎知識をおさえておくことは有効です。では、実際にどのような相談が寄せられているのでしょうか。
特に目立っているのが、失業に伴う住居問題についての相談とのことです。
「例えば、工場などでは住み込みでの雇用が多いのですが、コロナ禍で生産がストップしたことで契約が終了すると、給与収入が途絶えるだけでなく、住む場所もなくなってしまいます。知人宅に居候させてもらって急場をしのいでいる方や、場合によっては路上生活を余儀なくされている方もいます。定職がなくなると、新たに部屋を借りるのも困難になるので、住居の問題は深刻な課題となっています」(野田氏)
野田さんからのアドバイス
「コロナ離婚」でもセーフティネットは活用できる
「いわゆる『コロナ離婚』にはさまざまな原因が考えられますが、住む場所がなくなったり収入が途絶えたりするのは失業と同じ。このような場合も、セーフティネットを活用しながら生活の立て直しを図ることは可能です」(野田氏)
【2】失業時のセーフティネット
失業したら、まずは失業保険
失業した場合のセーフティネットとして、まず思い浮かぶのは失業給付金、いわゆる失業保険です。手続きや注意点について聞きました。
「ハローワークで手続きする際には離職票が必要になるので、いつ離職票を発行してもらえるか、雇用先に確認しておくことをおすすめします。離職票は郵送での受け取りが普通ですが、住む場所がなくなっている場合は、手渡しが可能かどうかも確認しましょう。手続き時にハローワークから通知された指定日を逃すと給付が遅れるので、指定された日時は必ず守ってください」(野田氏)
手続きがスムーズにいっても、すぐに失業給付金をもらえるわけではありません。給付までの期間をどう乗り越えればいいのでしょうか。
「失業給付金を受給するまで、会社都合退職でも最短1カ月、自己都合ならさらに長くかかります。手元に生活費がない場合は、失業給付金までのつなぎとして一時的な生活保護を受けることもできるので、絶望せずに自治体や福祉事務所などに相談してください」(野田氏)
野田さんからのアドバイス
住居の確保は最優先!
「住居がない場合、無料宿泊所を利用することもできますが、離職票の受け取りや各種手続きなどで住所が必要になります。生活の立て直しのためにも、住居の確保は最優先の課題であることを知っておきましょう」(野田氏)
【3】全国民のセーフティネット
生活保護制度はすべての国民が受けられるセーフティネット
生活保護は、憲法で保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」を送ることができるよう、すべての人が受けられるセーフティネットです。しかし日本では、本来は生活保護が必要であるにもかかわらず受給していないケースが、海外に比べるとかなり多いという現実があるようです。
「日本の生活保護の捕捉率が低いのは、本人が恥ずかしいと思ってしまったり、家族から反対を受けたりと、さまざまな原因があります。日本には周囲の目や世間体を気にする文化があるため、本当の窮地に陥るまで我慢してしまうんですね」(野田氏)
しかし、そうなる前に生活保護を活用することが大事だと野田氏はいいます。
「生活保護は国民の権利なので、恥ずかしいことではありません。生活を立て直すという意味では、大きな借金をしたり、家を失ったりといった状況になる前に、生活保護を検討すべきです。電気、ガスなどのライフラインが止まって追い込まれた状況になってから相談に来る方が多いですが、月収が10万円を下回っていると最低生活費に満たない場合がほとんどです。
そのタイミングで一度自治体や生活保護に詳しい支援団体に相談することをおすすめします」(野田氏) 参考:生活保護申請について:NPO法人 生活支援ネット
野田さんからのアドバイス
収入が最低生活費を下回っているか確認を!
「生活保護を受ける条件は、収入が『最低生活費』を下回っていること。最低生活費は、地域や家族構成によって違っていますが、自治体や福祉事務所、ウェブなどで確認することができます」(野田氏)
【4】生活保護申請のセーフティネット
申請に気後れがある場合はNPOによるサポートも可能
【3】では、生活保護の心理的ハードルに触れましたが、ここでは実際の申請について見ていきましょう。
「いくらかでも収入があってギリギリの生活ができている人、失業したけど若くて体も丈夫な人、こういう方は自分に受給資格がないと思い込んでいるケースがあります。けれども、生活保護を受けられるかどうかの基準は、『毎月の収入が最低生活基準を下回っているかどうか』『生活をしていくために自分でできる努力をしているかどうか』の2つだけです。
特に若くて健康体の人は申請条件を満たしているのにもかかわらず、うまく現状を説明できず申請が受理されないケースがあります」(野田氏)
そんなときには、一人で申請に行くのではなく、生活支援ネットなどの支援団体に相談し、同行してもらう方法もあると野田氏はいいます。生活保護の申請時には、自分がどのような状況なのかを説明したうえで複数の書類に記入する必要があるとのこと。一人では気後れするという方も、専門家が隣にいれば心強いのではないでしょうか。
野田さんからのアドバイス
生活保護申請時に必要なもの!
「申請窓口は、自治体の役所や福祉事務所、持参するものは印鑑です。身分証明書がないからといって申請を断られることはありませんが、住居の賃貸借契約書や身分証明書などがあれば、審査がスムーズに進みます」(野田氏)
【5】いま使うべきセーフティネット
生活保護制度以外で、いま受けられる制度
コロナ禍でのセーフティネットといえば、一律10万円の特別定額給付金が話題になりましたが、これ以外にもセーフティネットとして機能する制度があるので、最後にいくつか紹介しましょう。
「前述のように、生活を立て直すために住居の確保は重要です。新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減り、家賃の支払いが厳しい場合は、住居確保給付金を検討してみてください。
また、生活支援措置として、最大20万円の緊急小口資金貸付制度、生活資金として1人世帯で最大15万円を3カ月間借りられる総合支援資金貸付制度が利用できます。いずれも、給与明細が必要などの細かい条件があるので、自治体や国が設置しているコールセンターなどに相談してみるといいでしょう」(野田氏)
野田さんからのアドバイス
貸付制度の場合は返済免除の条件もある!
「緊急小口資金貸付制度や総合支援資金貸付制度は、給付金と違って返済が必要です。それがネックになって利用をあきらめるケースもありますが、所得減少が続く場合は免除措置もあるので、まずは相談をしてください」(野田氏)
セーフティネットを活用しよう
最後に、生活保護申請などの支援を長年続けてきた野田氏からメッセージをいただきました。
「セーフティネットは必要最低限の生活を維持する、もしくは困窮した生活を立て直すためにあるのですから、困ったらいつでも堂々と利用していいという意識を持っておきましょう」(野田氏)
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