「ツナギ売り」で一時的な株価下落の損失を回避

今回は空売りの重要な活用方法の1つである「ツナギ売り」についてご説明します。

「ツナギ売り」とは、保有する現物株につき一時的な株価下落が見込まれるとき、現物株を売却するかわりに保有する銘柄と同じ銘柄を同株数空売りすることをいいます。
ツナギ売りをすれば、現物買いと空売りで同じ株数を保有しているのですからとりあえずそこで損益が固定されます。以下に例を挙げましょう。

A株の現物株を買値200円で1000株保有しており、株価が400円のときにA株を1000株ツナギ売りしました。この時点で20万円の含み益(現物株+20万円、ツナギ売り分ゼロ)となっています。

この後A株の株価が50円まで下落した場合でも、20万円の含み益(現物株△15万円、ツナギ売り分+35万円)のままです。
逆にA株の株価が1000円まで上昇したとしても、20万円の含み益(現物株+80万円、ツナギ売り分△60万円)であることに変わりありません。

このように、ツナギ売りをしている限り、その後どんなに株価が変動しようと、ツナギ売り時点の利益が固定されます。この特性こそが、これからご説明するツナギ売りのメリットを生み出しているのです。

ツナギ売りの具体的手法

「ツナギ売り」は、たとえば現物で保有する銘柄の長期トレンド(月足チャートで判断)や中期トレンド(週足チャートで判断)は上昇トレンドである一方、短期トレンド(日足チャートで判断)が下降トレンド入りしたようなときに用います。

ツナギ売りの後短期トレンドが再び上昇に転じ、かつ中長期トレンドが上昇トレンドを維持していればツナギ売りは返済します。ツナギ売りの後株価の下落が進み、中期トレンドも下降転換したら、中期トレンドの上昇転換を待ってツナギ売りを外すか、現渡ししてすべて手仕舞います。長期トレンドまで下降トレンドとなった場合や現物株が含み損となった(含み損を抱えた現物株を保有し続ける意味はない)場合はツナギ売りを現渡しして全て手仕舞うべきでしょう。

もし、ツナギ売りした後株価が上昇(短期トレンドの下降転換がダマシだった)したら、ツナギ売りの分を損切り(=現物の保有株は残す)するか、現渡しですべて手仕舞いするかいずれかの方法をとることになります。

投資スタンスが長期投資の方や、上昇相場初期に安く買えた株など含み益が大きい銘柄であれば、短期トレンドの変動は無視してもよいと思います。

現渡しにより現物株・ツナギ売りの両方を同時に手仕舞いした場合は、手仕舞いの時期、株価位置にかかわらずツナギ売りした時点での利益が確保できますし、追加的な損失は発生しません。

ツナギ売りによる効用

例えば、200円で買った株が1,000円に上昇する過程では、一直線に右肩上がりで1,000円にまで上昇することはほとんどありません。株価の上げ下げを繰り返しながらジグザグに1,000円まで到達するものです。

このとき、200円で買ってそのまま持ち続けていれば、利益は1,000円-200円=800円です。しかし、株価のジグザグの動きに乗り、短期的な下降トレンドでツナギ売りをしていれば、800円に加え、株価の一時的な下落による利益も得ることが可能なのです。

さらに、こちらの方がより重要なのですが、短期トレンドが下降トレンドに転換した段階でツナギ売りをしておけば、その後株価の下落が続き中期トレンド、長期トレンドまでもが下降トレンドに転換してしまったとしても、短期トレンドの下降転換時のかなり高い株価で売れていることになるのです。まさに「ツナギ売り時の損益が固定化される」という特徴を最大限生かしたツナギ売りのメリットといえます。

200円で買った株が1,000円にまで上昇するパターンでも、途中で失速して100円に下落してしまうパターンでも、ツナギ売りをすることで適切に対応できるのです。

なぜ現物株の売りではなく「ツナギ売り」なのか

では、なぜ「ツナギ売り」をするのでしょうか。そもそもツナギ売りなどせずに現物株を売却して、安くなったら再び買い直せば同じことではないか、と疑問に思う方も多いと思います。

「ツナギ売り」をするのと現物株を売却することの最大の違いは、「ツナギ売りの場合は現物株がそのまま手元に残っている」という点なのです。

特に、時価よりかなり低い買値で現物株を保有しているような場合、現物株を売却してしまうと色々と不都合な点がおこります。一度売却してしまった現物株を当初の買値よりかなり高い価格で買い直すのは意外と心理的抵抗が強いものです。また、含み益があると多少株価が乱高下しても安心して持ち続けることができますが、一度売却したものを買い直して(この時点で含み益はゼロ)その後株価が下落してしまえば、売る必要もないときにあせって投げ売りしてしまうかもしれません。

ツナギ売りをしていれば、買値の低い現物株を手元に残しておくことができます。含み益の大きい現物株を持つ、ということは心理面、精神面からみても非常に有意義なことなのです。

ツナギ売りには様々な手法がある

本コラムでは保有する現物株と同株数の空売りをツナギ売りと定義しましたが、空売りを必ず現物株と同株数にする必要はなく、ご自身でアレンジしてもよいのです。

例えば、株価が短期的に下がる可能性は高そうなのだが、今一つ自信が持てない、という場合は、とりあえず現物株の2分の1、3分の1だけツナギ売りをして、残りをどうするかはその後の株価の動きをみてから決める、という方法もあります。

また、保有する現物株とは別の銘柄を使ってツナギ売りする方法もあります。

本コラムで紹介したのはかなりシンプルかつ単純なものです。ツナギ売りの手法にはさまざまなバリエーションがあります。もっと深く知りたいという方には、初心者の方にはやや難しいかも知れませんが例えば「ツナギ売買の実践(林輝太郎著・同友館)」などを参考にされるとよいのではないかと思います。