過去1カ月間で新型コロナの患者数は、世界全体で25%増加

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が始まって、半年がたとうとしています。今年1月、中国で感染拡大が確認され、春節を境に、アジア、欧州、そして米国で感染拡大が目立ち始め、3月11日(水)、WHO(世界保健機関)のテドロ事務局長は“パンデミック(世界的な大流行)”だと、発言しました。

 このおよそ半年間、規模の大小を問わず、ありとあらゆる“社会”は、大きく変わりました。人類史上、これだけの短期間でこれだけの変化があった出来事があっただろうか? と問われれば、今回のパンデミックは、屈指の出来事だろう、と返答することになるでしょう。

今、人類は、史上まれにみる大きな渦の中にいます。7月31日(金)に、テドロス氏は、この新型コロナウイルスの影響が「今後、数十年間におよぶ」と発言しました。(そうならないことを切に願いますが)そうなることも、想定し始めなければならないのかもしれません。

 以下は、世界全体の新型コロナウイルスの患者数の推移です(患者数=感染者数-回復者数-死亡者数で計算)。増加の一途をたどっていることが分かります。このおよそ1カ月間(2020年7月4日から8月4日)で、約120万人(25%)増加しました。当該データは累積ではないため、純粋に、数が増え続けていることを示しています。

図:新型コロナウイルスの患者数 単位:百万人

出所: Bing-COVID19-Dataより筆者作成

 目先の人類の目標は、右上がりのグラフの角度を鈍化させること、と言えるでしょう。新規感染者(母数)を減らすこと(少なくとも増やさないこと)と、回復者を増やすことを同時進行させることで、効率よく、右下がりにできると考えられます。

 このように、世界全体では患者数の増加が続いているわけですが、実はこの1カ月間で、国別の患者の数の動向に変化が生じていました。患者数の変化が今後もたらす可能性がある、各種コモディティ銘柄の“生産量”への影響について、確認します。

生産量の増減は、商品市場を動かす一大要因。患者数増加は供給障害に発展する懸念あり

“生産量”は、コモディティ(商品)市場を分析する上で、消費量や投機筋の動向などと同様、欠かすことができない要素です。

 株式市場側から、コモディティ市場を見る場合、どちらかと言えば、消費量に注目が集まることが多いと、感じます。原油や銅相場が、足元の景気動向を示す、バロメーターのように用いられるためですが、このような話は、話としては理解できますが、コモディティ市場を消費面でのみとらえる、やや不十分な議論であると、筆者は感じます。

 景気動向の指標として用いる(外からコモディティ市場を見る)場合であっても、投資対象として用いる(内に入ってコモディティを取引する)場合であっても、コモディティ(商品)市場に注目する際は、生産面の存在を、忘れてはなりません。

 本レポートで述べる、新型コロナの患者数の増減と、各種コモディティ銘柄の生産量の関係については、以下のように整理できると、筆者は考えています。

新型コロナ患者数の増加 → ロックダウンや自粛の実施、防疫の強化、社会の変革が加速
(直接的な生産減少要因)
・生産者や関連する業者の活動が停滞する
・防疫が強化され、食べ物の生産・加工、輸送に制限がかかる
(消費減少による生産減少要因)
・必要最小限の生活の中、嗜好品をはじめとした非必需品の消費が減少する
・新しい生活様式が広がり、従来からの社会から無駄を省く動きが、加速する

 新型コロナの患者数の増加は、上記の直接・間接、複数の経路から、各種コモディティ(商品)の生産を減少させる要因になり得ます。逆もしかりで、患者数の減少は、生産増加あるいは回復させる要因になり得ます。

 このような、患者数の変化による、各種コモディティ(商品)の生産量の変化は、すでに起きている、あるいは今後起きる可能性があります。患者数の変化が大きければ大きいほど、各種コモディティ(商品)の生産量の増減が大きくなると、考えられます。

 具体的に、どの国で患者数の増減が目立ち、それらの国でどのコモディティ(商品)の生産量が増減する可能性があるのでしょうか。

患者数が増加したのは、日欧米の先進国と、インド・ブラジル、中南米の新興国

 患者数の増加は、総じて、各種コモディティ(商品)の生産減少の要因になり得ます。以下は、このおよそ1カ月間(7月4日から8月4日)の患者数の増減を示したものです。世界全体では、約120万人(25%)の増加です。

 以下は、増加した患者数が多かった国の上位20です。日欧米の先進国とインド、ブラジルの他、中南米の新興国で、増加が目立っています。

図:このおよそ1カ月間の各国の新型コロナウイルスの患者数(増加した上位20カ国)

患者数=感染者-回復者-死亡者 単位:人
出所: Bing-COVID19-Dataより筆者作成

 インド(増加数2位)の患者数が米国の患者数を上回ろうとしています。また、コロンビア(4位)、アルゼンチン(5位)、メキシコ(8位)、ボリビア(9位)、ペルー(10位)、ドミニカ共和国(14位)、ホンジュラス(15位)、プエルトリコ(19位)といった中南米の国々で、増加が目立っています。

患者数が減少したのは、ロシアやカナダなどの大規模な資源国と、主要産油国

 患者数の減少は、総じて、各種コモディティ(商品)の生産量の増加・回復要因になり得ます。以下は、減少した患者数が多かった国の上位20です。ロシアやカナダなどの複合資源国と、主要産油国の減少が目立っています。

図:このおよそ1カ月間の各国の新型コロナウイルスの患者数(減少した上位20カ国)

患者数=感染者-回復者-死亡者 単位:人
出所: Bing-COVID19-Dataより筆者作成

 上位20位以内に、現在、OPECプラスとして協調減産を実施しているロシア(減少数4位)、サウジアラビア(5位)、ナイジェリア(13位)、UAE(14位)、アゼルバイジャン(15位)、カザフスタン(20位)が、減産には参加していないもののOPEC加盟国であるイラン(19位)、そして、かつてOPEC加盟国だったエクアドル(3位)、カタール(12位)、など、産油国の名前を複数、確認できます。

 では実際に、患者の増加数上位、減少数上位国で、どのようなコモディティ(商品)の生産が行われているのでしょうか。

各種コモディティ銘柄の主要生産国で、大きな規模の患者数の増減が起きている

 以下は、患者数が増加した国における、各種コモディティ(商品)銘柄の生産シェアの順位です。

図:患者数が増加した国における、各種コモディティ(商品)の生産シェアの順位

※金は2017年、銀は2016年、プラチナ、パラジウムは2018年、銅は2015年、鉄鉱石は2017年、ニッケルは2016年、原油は2019年、トウモロコシ、大豆、小麦、コーヒー、砂糖は2018年のデータを参照。
  出所:USGS、GFMS、BP、FAOのデータより筆者作成

 米国、インド、ブラジルなど、各コモディティ(商品)の生産シェアが高い国があります。また、南アフリカ、メキシコ、ペルーなどの複数の金属関連のコモディティ(消費)の生産上位国もあります。

 一方、以下は、患者数が減少した国における、各種コモディティ(商品)銘柄の生産シェアの順位です。

図:患者数が減少した国における、各種コモディティ(商品)の生産シェアの順位

※金は2017年、銀は2016年、プラチナ、パラジウムは2018年、銅は2015年、鉄鉱石は2017年、ニッケルは2016年、原油は2019年、トウモロコシ、大豆、小麦、コーヒー、砂糖は2018年のデータを参照。
出所:USGS、GFMS、BP、FAOのデータより筆者作成

 ロシアとカナダといった、金属から原油、農産物まで幅広い分野で生産シェアが上位の国があります。また、銅の生産上位国が複数あります。

 患者数が増加した国、減少した国それぞれの、各コモディティ(商品)の生産シェアを差し引きすると、感染者数の増減が、各コモディティ銘柄の生産に、どのように影響する可能性があるかが、見えてきます。

金、銀、プラチナ、穀物は患者増加による供給減少懸念により、上値を伸ばす可能性も

 以下は、患者数が増加した国、減少した国それぞれの、各コモディティ(商品)の生産シェアを差し引きしたものです。

 差し引きした値が、プラスの場合、患者数が増加している国に、各種コモディティ(商品)の生産が偏っているため、今後、これまでと同様、患者数が増加し続ければ、供給が減少する懸念が強まり、価格の上昇要因が強まる可能性があります。このような銘柄は、金、銀、プラチナ、鉄鉱石、農産物です。

 一方、マイナスの場合、患者数が減少している国に、各種コモディティ(商品)の生産が偏っているため、今後、これまと同様、患者数が減少し続ければ、供給が増加・回復する観測が強まり、価格の下落要因が強まる可能性があります。このような銘柄は、パラジウム、銅、ニッケル、原油です。

図:患者数の増加・減少、上位20カ国の各コモディティ銘柄の生産シェア(20カ国合計)
 

出所:USGS、GFMS、BP、FAOのデータより筆者作成

 足元、新型コロナウイルスの感染範囲が世界規模であり、強く各種コモディティ(商品)市場に影響を与えていることを考えれば、世界経済の悪化という観点から、新型コロナウイルスの感染拡大は、特に産業用の用途の割合が高いコモディティ銘柄にとって、消費減少要因になっていると、考えられます。

 一方、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が及ぼす生産面への影響、という観点から見た場合、感染状況のトレンドが今と変わらなければ、歴史的高値を更新し続けている金(ゴールド)、それに追随する銀、プラチナ、そして農産物においては、生産減少要因、つまり、価格上昇要因として作用する可能性があります。

価格変動を追う上で重要な、生産面を、新型コロナウイルスの患者数の動向から考えました。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

[参考]穀物関連の具体的な投資商品

国内株

丸紅 8002

海外ETF

iPath シリーズB ブルームバーグ穀物サブ指数
トータルリターンETN
JJG

外国株

アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドADM

ブンゲBG

商品先物

国内 トウモロコシ 大豆

海外 トウモロコシ 大豆 小麦 大豆粕 大豆油 もみ米