はじめに

 今回のアンケート調査は2020年7月27日(月)~7月29日(水)の期間で行われました。

 2020年相場の後半戦入りとなった7月末の日経平均終値は2万1,710円となり、節目の2万2,000円台を下抜けて取引を終えました。前月末終値(2万2,288円)からの下げ幅は578円、月足ベースでも4カ月ぶりに下落に転じています。

 あらためて、7月の月間の株価推移を振り返ると、おおむね2万2,000円台のレンジ相場が続き、方向感に欠く展開となりました。月の前半は、抗コロナウイルスのワクチン開発期待などが市場のムードを改善させ、下値を切り上げる「ジリ高」の動きとなりました。2万3,000円台を目指す場面もありましたが、コロナウイルスの感染拡大や米中対立、為替のドル安/円高傾向によって売りが優勢となり、次第に「ジリ安」へと変わり、そして、月末31日の取引では節目の2万2,000円台を下回る「急落」の動きとなりました。

 このような中で行われた今回のアンケートは、5,300名を超える個人投資家からの回答を頂きました。DIの結果ですが、「株安・円高」見通しの根強さを感じさせるものとなりました。市場自体に大きな動きはなかったものの、不透明感がくすぶり続けたため、強気の見方が増えてこない印象です。

 次回も是非、本アンケートにご協力をお願いいたします。

日経平均の見通し 

楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之

「不安要素のくすぶりでDIのマイナス傾向が続く」

 今回調査における日経平均の見通しDIは1カ月先がマイナス35.60、3カ月先はマイナス25.74となりました。前回調査の結果がそれぞれマイナス36.64、マイナス20.42でしたので、引き続き、株安の見通しが根強いことがうかがえます。調査期間中の日経平均が続落していたことも影響していると思われます。

 回答の内訳グラフで具体的な状況を見てみると、1カ月先の強気派の割合は8.99%、3カ月先が16.53%となっています。前回の結果(それぞれ9.76%、18.80%)からさらに減少しており、強気派がなかなか増えてこない印象です。残りのパイを弱気派と中立派で分けている格好です。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成
出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 確かに、日経平均は7月末に2万2,000円台割れとなりましたが、8月に入るとすぐに取り戻しており、2万2,000円台を中心とした株価水準を保っています。そのため、数値の結果が示すほど、先行きの株安を見通しているわけではなさそうです。その一方で、株価上昇の期待感も膨らまない面もあります。足元で気掛かりとされているのは、「為替市場のドル安/円高」と、「米中対立の悪化」です。

 先ほども述べた通り、日経平均は7月の月末にかけて軟調となりましたが、その理由のひとつになっていたのはドル安/円高です。4月以降のドル/円相場は、1ドル106~108円をメインレンジとする中、時折110円の円安を目指す動きとなっていたのですが、7月末にかけて104円台前半まで円高が進みました。

 FRB(米連邦準備制度理事会)による積極的な金融緩和や、最低水準となっている米長期金利など、もともとドル安になりやすい地合いとなっていましたが、6月の個人所得が予想以上に減少したことや、追加の経済政策をめぐる与野党の協議が難航する中で、失業給付金の特例措置(週600ドルの追加給付)が7月末で終了し、今後の消費への影響が懸念されたことがドル安を加速させました。

 さらに、米中対立の悪化も警戒材料です。足元では米中領事館の閉鎖や、動画投稿アプリ「ティックトック」の利用制限などの動きが見られています。従来であれば、「米大統領選を控えた政治的アピールの面が強く、政経分離(政治と経済を切り離す)の考え方により、両国の利益を大きく損なうことはないだろう」という見方となり、過度の悲観は禁物となります。

 ただし、今回については、領事館閉鎖による外交チャネルの削減という新しいアプローチを採っていることや、米国がこれまで避けてきた習近平氏への名指し批判をしはじめたこと、そして、コロナ禍以降の中国の外交が強硬姿勢を強めていることなど、対立の構図がさらに深まった可能性があります。まだ、米国の本気度が分からないため、積極的な売り材料とはなっていませんが、しばらくは株価の重石になりそうです。

今月の質問「どうなるアメリカ大統領選!?」

楽天証券経済研究所 根岸 美知代

 アメリカ大統領選挙が行われる11月3日まで、あと約3カ月となりました。新型コロナウイルスの対応、中国との貿易戦争、人種差別問題などがあるなか、トランプ大統領は再選されるのでしょうか。

【今月の質問1】 アメリカ大統領選挙の行方は気になりますか?

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 アメリカ大統領選挙の行方が「気になる」方が多いのは、その結果が、米国株・日本株だけでなく、世界中の株式市場に大きな影響を与える可能性があるからだと思います。

【今月の質問2】 トランプ大統領は再選すると思いますか?

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 トランプ大統領が「再選する」38.1%、「落選する」41.5%と、数字はほぼ拮抗(きっこう)していますが、落選すると考える人の方が、少しだけ(3.4%)多いことが分かりました。現職の大統領が、再選に失敗したことは、第二次世界大戦後では3回しかありません。1976年(フォード再選失敗)・1980年(カーター再選失敗)・1992年(ブッシュ(父)再選失敗)です。果たしてトランプ大統領は、再選に失敗する4人目の大統領になるのでしょうか?

 米国の大統領の任期は4年ですが、再選されれば2期8年までやることができます。2期以上やることは憲法で禁じられているので、ほとんどの大統領が2期8年で退任します。戦後、再選に失敗して1期4年で大統領を退いたのは、フォード・カーター・ブッシュ(父)の3人しかいません。

【今月の質問3】 大統領選挙の結果により、日本の株式市場はどうなると思いますか?

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 「上昇する」が32.9%、「下落する」が26.9%でした。「どちらとも言えない」も30.1%でした。

 アンケートに回答していただいた方の多くが、「トランプ大統領が再選した方が株は上がる」とお考えになっていることが、分かりました。

 なぜならば、トランプ大統領が「再選する」と回答した方だけで集計すると、大統領選の結果で日本株が「上昇する」と考える方が55%もいらっしゃる(「下落する」は13%)ことから、分かります。

 トランプ大統領が「落選する」と回答した方だけで集計すると、大統領選の結果で日本株が「上昇する」と考える方は25%しかいない(「下落する」は40%)のと、対照的です。

 なおトランプ大統領が再選するかしないか「わからない」と回答した方だけで集計すると、選挙結果で日本株が上がるか下がるか「どちらとも言えない」と考える方が45%いらっしゃいました。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 トランプ大統領は、2016年11月の大統領選挙に勝って2017年から大統領になりました。2016年の大統領選期間中には、「トランプ氏が当選すると米国株は暴落する」と言われていました。保護貿易主義など、反グローバリズムを唱えていたことが、株式市場にマイナスと考えられていました。

 ところが、トランプ大統領が当選した後、米国株は大きく上昇しました。トランプ大統領が、大型法人減税など、株式市場を押し上げる政策を積極的に推進したことが評価されました。

 今、株式市場では、トランプ大統領が再選した方が、株式市場にとって良いと考える方が増えています。

 今回もたくさんの方にご回答いただきました。ありがとうございます。

為替DI:投資家の「円高」見通し、一段と強まる

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

「8月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 7月末に楽天証券が実施した相場アンケート結果によると、回答頂いた個人投資家5,318人の約52%(2,776人)が、8月のドル/円は「ドル安/円高に動く」と予想していることが分かりました。「円高」が過半数を上回ったのは今年の3月以来のこと。

「円安に動く」は最も少ない約19%(999人)。「動かない(わからない)」は約29%(1,543人)でした。

 DI(円安見通しと円高見通しの差)は▲33.41で 5カ月連続のマイナス。マイナス幅は先月より10.9ポイントアップしました。個人投資家のドル/円見通しは3月から一貫して「ドル安・円高」ですが、ここにきて、投資家の円高見通しがさらに強まっていることが分かりました。

 7月のドル/円は初日(1日)につけた108.16円が高値。上抜けに失敗した後は106円台半ばから107円台半ばの比較的狭いレンジ内で取引を続けていましたが、最後の週になって動きだし、3月以来のドル安・円高水準である104.19円まで下落しました。

 ドル下落の動きを「リスクオンになったからドル安」と解説したところもありますが、それはどうでしょうか。確かに、コロナウイルスが一時的に収束に向かったときには、有事のドルが不要になったからという理由でドルが売られたこともありました。

 7月にユーロが買われた(ドルが売られた)理由は「ユーロ由来」の理由であって、ドルに主導権があったわけではないです。EU(欧州連合)は欧州復興基金の設立の合意にこぎつけました。政治(EU)と金融(ECB)がコラボして周辺国の破綻リスクが格段に小さくなったおかげで投資家は安心して欧州に投資できるようになりました。欧州株式市場の上昇が、ユーロのトレンドを変えるきっかけになったのです。

 欧州諸国が米国に比べてコロナ第2波をうまくやり過ごして、順調に経済再開をスタートさせていることも、経済面で優位に立っています。(ただし、欧州のなかでもGo Toトラベルを積極的に展開していたスペインでは感染者が拡大。)

 7月の会合でFOMC(米連邦公開市場委員会)は、FF(フェデラルファンド)金利の誘導目標レンジを、少なくとも2年後の2022年末までゼロ付近で維持するとの見通しを示しました。これは以前から知らされていたことで驚くことではありません。

 ただし今回は、ゼロ金利政策の継続と米国経済のアンダーパフォーマンスのサイクルが一致してしまったことが問題です。

 米国の景気見通しが悪化するのとは対照的に欧州は上向き、その差2018年1月以来の水準まで広がっています。その時のユーロ/ドルは1.25ドル台。そう考えると、ユーロにはまだ上昇余地があるといえます。

 7月のユーロ/円の終値は124.71円。6月終値に比べて約3.80円ユーロ高/円安になりました。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 7月末に楽天証券が実施した相場アンケート調査の結果によると、個人投資家5,318人の約32%(1,701人)が、8月のユーロ/円は「ユーロ安/円高に動く」と予想していることが分かりました。

 一方で「ユーロ高/円安に動く」は、先月より3.7ポイント増えたものの、依然として最も少ない約20%(1,087人)。「動かない(わからない)」は、約48%(2,530人)でした。

 ユーロ/円のDI(円安見通しと円高見通しの差)は▲11.55で5カ月連続のマイナス。マイナス幅は先月に比べ5.3ポイント縮小しました。ユーロ/ドルは、新たに中期的上昇トレンドが始まり、ドル安を巻き込んだ動きに発展しています。しかしアンケート結果を見る限り、個人投資家の8割はこの流れに乗り遅れてしまったようです。

 7月の豪ドル/円の終値は74.58円。6月の終値に比べて1.08円の豪ドル高/円安でした。6月終値に比べて約1.10円豪ドル高/円安になりました。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 7月末に楽天証券が実施した相場アンケート調査の結果によると、個人投資家5,318人の約31%(1,638人)が、8月の豪ドル/円は「豪ドル安/円高に動く」と予想していることが分かりました。

「豪ドル高/円安に動く」は約17%(924人)で最も少なく、また「動かない(分からない)」は約52%(2,660人)で半数を超えています。

 豪ドル/円のDI(円安見通しと円高見通しの差)は▲13.43で5カ月連続のマイナス。マイナス幅は先月から1.5ポイント拡大して、豪ドル安見通しが、わずかですがさらに強まっています。

 相場アンケート調査によると、多数の個人投資家は、コロナパンデミック発生以来、豪ドル/円に対しては「動かないか、あるいは豪ドル安」という相場観を頑固に守り続けています。ただ、実際のマーケットでは、3月から7月の5カ月間のうちに、17円も「豪ドル高/円安」に動きました。

今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、毎月実施している質問「今後、投資してみたい金融商品」で、「国内株式」「外国株式」を選択したお客様の割合に注目します。

 当該質問は複数回答可で、選択肢は、国内株式、外国株式、投資信託、ETF、REIT、国内債券、海外債券、FX(外国為替証拠金取引)、金やプラチナ地金、金先物取引、原油先物取引、その他の商品先物、特になし、の13個です。

図:質問「今後、投資してみたい金融商品」で、「国内株式」「外国株式」を選択した人の割合 (2016年1月~2020年7月)

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 2020年7月の調査では、「国内株式」を選択した人の割合は49.76%、「外国株式」は44.32%でした。

 2016年6月の英国のEU離脱を問う国民投票、同年11月の米大統領選挙という、これまでの世界の秩序を大きく変える結果となった2つのイベント後、国内株式と選択する人の割合が低下、逆に外国株式を選択する人の割合が上昇し始めました。

 当時、“トランプ・ラリー”と言われた、トランプ氏がもたらす、米国の大統領がこれまでに行ったことがないような、さまざまな策を市場は好感し、それに伴い、米国株は高値を更新し続けました。

 中国との貿易戦争、大規模な法人減税、北朝鮮の首脳との歴史的な会談、イランやベネズエラへの制裁など、トランプ大統領は“国内第一”を掲げ、米国国内の古き良き産業を守り、再興するように働きかけながら、台頭しつつある中国を強くけん制したり、思惑に反する国に制裁を課したりして“世界の警察”をほうふつとさせる、行動をしてきました。

 SNSを駆使し“劇場型”と言える、異彩を放つトランプ大統領の行為に、米国の株式市場はいつの間にか巻きこまれ、史上最高値を更新し続けました。少なからず、米国の株式市場の上昇劇は、国内株式への投資意欲が減退する一因になったと考えられます。

 そして、コロナ禍の今でも、外国株式を選択する人の割合が上昇し続け、国内株式を選択する人の割合は2016年以降の低水準のままです。

 新型コロナが米国経済に大きなダメージを与えていることは明白ですが、それでもなお、外国株式を選択する人の割合が上昇を続けているのは、単純に、ハイテク企業を中心に、米国株に魅力があることに加え、円高などの弱材料に悩まされている国内株式よりも、相対的に米国株が魅力的に見えるためだと考えられます。

 このような状況が続けば、近い将来、国内株式と外国株式の割合が逆転する可能性があります。国内株式が50%を大きく割り込んだり、外国株式が大きく上昇したりした場合、容易に逆転する可能性があります。

 国内株式と外国株式が逆転した時には、日本の個人投資家の思考に、地殻変動が起きはじめており、その後、本格的に日本で、米国株を中心とした外国株投資が広く、そしてそれまでにないスピードで普及し始める可能性があると、筆者は思います。

 次回以降も、「国内株式」「外国株式」を選択した個人投資家の皆様の割合に、注目していきたいと思います。

表:今後、投資してみたい金融商品 2020年7月調査時点 (複数回答可)

投資対象 割合     前回比
国内株式  49.76% ▲ 5.08%
外国株式 44.32% +2.73%
投資信託 35.54% +0.60%
ETF 28.19% +1.18%
REIT 9.93% ▲ 1.93%
国内債券 4.46% +0.17%
海外債券 5.77% ▲ 0.31%
FX(外国為替証拠金取引) 8.69% +0.61%
金やプラチナ地金 20.85% +3.08%
金先物取引 2.93% +0.17%
原油先物取引 1.41% +0.22%
その他の商品先物 2.67% +0.75%
特になし 8.73%  ▲ 0.40%
出所:楽天DIのデータより筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域) 2020年7月調査時点 (複数回答可)

国名 割合 前回比
日本 33.53% ▲ 6.28%
アメリカ 60.27% +4.36%
ユーロ圏 7.41% +1.53%
オセアニア 4.95% +0.52%
中国 11.73% ▲ 1.01%
ブラジル 2.73% +0.30%
ロシア 1.62% ▲ 0.02%
インド 23.43% +4.65%
東南アジア 18.48% +1.88%
中南米(ブラジル除く) 1.77% +0.27%
東欧 1.88% +0.43%
アフリカ 4.31% +0.45%
特になし 10.25% ▲ 1.77%
出所:楽天DIのデータより筆者作成