前回に引き続いて、個人投資家向けのお金の運用の簡便法を検討する。今回は、具体的な投資商品と配分まで決めた結論を出す。
アセットアロケーションを検討する
個人の資産運用は、丁寧にやるなら、(1)自分の家計を把握する、(2)アセットアロケーションを決める、(3)アセット・クラス毎にベストな投資対象を選ぶ、(4)条件の最も良い取引金融機関を選んで商品を購入する、(5)必要があればポートフォリオの調整を行う、といった手順で運用すべきだ。
簡便法は、こうして出来る筈の結果から大きく乖離してはならないので、どのようなアセットアロケーションが最適であるかの見当を付けなければならない。
アセットアロケーションには、当然ながら、納得性の高いリスクと期待リターンの数字が必要だ。
実は、リスクについては、当初、先般発表されたGPIFの基本ポートフォリオ策定に使われた数字を使おうかと思ったのだが、国内債券のリスクが4.7%、国内株式の数字が25.1%といった調子で、些か数字が大きすぎるように感じた。筆者は、国家公務員共済組合連合会(通称「KKR」)の運用委員を務めているが、KKRが一昨年、基本ポートフォリオを策定する際に使った数値をベースに採用することにした。
リスクの数字は10年から20年程度の過去データを元にして作られていて、リスク、相関係数ともやや保守的な方向に数字が丸められている。リスク値でいうと、国内株式が18%、外国株式が20%、外国債券が10%、国内債券は2%だ。相関係数は、国内債券と国内株式が0、国内株式と外国株式が0.7(かなり高めだ)、国内株式と外国債券が0.3、外国債券と外国株式は0.5、国内債券と外国債券は0.2、と想定されている(それ以外の相関は0)。分散投資のリスク削減効果に対して過大な期待をしていない点で、慎重なものだといえるだろう。
期待リターンについて、GPIFのものは政府の長期見通しなどというあやふやなものを前提に、しかも25年もの非現実的な期間を想定した期待リターンなので、国内債券で2%を超えるなど、全く使えない。KKRの期待リターンは、約1年半前の時点で、国内債券1.0%、国内株式4.2%、外国株式5.0%、短期資産0.1%といった、まあまあ現実的なものだった。
国内債券は現在の金融情勢を踏まえると0.3%以上には出来ない。短期資産はゼロだろう。外国債券は、原則論に従うなら国内債券と同じくらいでいいはずだが、日本の金融緩和による円安バイアスなどを意識して、国内債券に1%乗せることにする。国内株式は切りのいい5%でどうだろうか。外国株式はこれに1%プラスして6%とする。
最も重要なはずの期待リターンを随分いい加減に決めるものだとご不満な読者がおられるかも知れないが、これは、あれこれ検討しても厳密な答えの出るものではない。
これらの数字に、リスク資産がほどほどに組み入れられるようなリスク拒否度を仮定して、マイクロソフト・エクセルのソルバー機能を使って、最適解を一つ求めてみたのが、図1の計算例だ。
- (図1)アセットアロケーション最適解の例 資産運用簡便法AA2015
資産 | ウエイト | 期待リターン | リスク |
---|---|---|---|
国内債権 | 43.64% | 0.30 | 2.00 |
国内株式 | 22.76% | 5.00 | 18.00 |
外国債券 | 0.00% | 1.30 | 10.00 |
外国株式 | 33.60% | 6.00 | 20.00 |
短期資産 | 0.00% | 0.00 | 0.05 |
0.00% | 0.00 | 0.00 | |
0.00% | 0.00 | 0.00 | |
合計 | 100.00% | 3.2848 | 10.062 |
どの程度リスクを取るのがいいかは、人によって大きく異なる。一方、リスク資産については、概ね効率的な組み合わせを一組のセットと考えて、この「リスク資産セット」を幾ら購入するのが最適かを決めると、分かりやすい。
リスク資産の比率は国内株式と外国株式が40%と60%だ。外国債券はリスクの割にリターンが低く拾ってこない。結果的に拙著「全面改定 超簡単お金の運用術」(朝日新書)の改訂前の配分に戻る。
リスク資産セット部分である、「国内株式40%+外国株式60%」の配分の期待リターンとリスクとを計算してみると、期待リターンが5.6%、リスクが17.8%だ。たまたまだが、マイナス2標準偏差のイベントが起こった時に、ちょうど−30%の損失となる。
ちなみに、「国内株式50%+外国株式50%」で計算すると、期待リターンが5.5%、リスクが17.5%と大差はない。「国内株式60%+外国株式40%」なら、期待リターンは5.4%、リスクが17.4%だ。率直に言って、これらの何れでもいいような気がする。
しかし、例えば「国内株式30%+外国株式70%」とすると、期待リターンは5.7%に上がるが、リスクが18.2%と大きくなる。
こまめにポートフォリオを調節する個人投資家なら「国内株式40%+外国株式60%」としていいように思う。しかし、現実の投資家がそうするとも思えない。「内外の株式を半々」として置く方が、リバランスの必要性が生じにくくていいかも知れない。得失は微妙だ。
ここは二種類あり得るところだが、せっかく改定するので、今回は「国内株式40%+外国株式60%」を採用しよう。
商品選択
国内株式はTOPIX連動型のETF(上場投資信託)がいい。前掲拙著では、資産規模と売買の活発さから、信託報酬(税抜きで0.11%)は僅かに最安でないが、野村アセットマネジメントが運用する「TOPIX連動型上場投資信託」(コード番号1306)を選んだ。このファンドでも、あるいは大和系の「ダイワ上場投信TOPIX」(1305)でもいいが、十分な資産残高と売買代金があって、信託報酬が0.088%(税抜き)で最安水準の、日興アセットマネジメントが運用する「上場インデックスファンドTOPIX」(1308)を選ぶことにする。
外国株式は、国内ETFで投資対象を選ぼうとすると資産残高と売買活況度が今一つであり、海外ETFは外国為替も含めて売買手数料がやや高いし、投資初心者にはハードルが高い。公募の投資信託からインデックスファンドを選ぶことにする。
先般、「投信ブロガーが選ぶファンド・オブ・ザ・イヤー2014」に選出された、「ニッセイ外国株式インデックスファンド」(ニッセイ・アセットマネジメントが設定・運用)は、信託報酬が0.46%(税込み)と最安で、もちろんノーロードで買うことが出来る。拙著で推した「SMTグローバル株式インデックス・オープン」(三井住友トラスト・アセットマネジメント。信託報酬0.54%)に代えて、こちらを選ぶことにする。
超簡単お金の運用法2015年版
今までの超簡単運用法の書式で、新しい方法を書いてみると、以下のようになる。
- 当座の生活に必要なお金(たとえば生活費三カ月分程度)を銀行の普通預金に置く。
- 残ったお金を、リスクを取ってもいいと思う「リスク運用マネー」と、元本割れを想定せずに済む「無リスク運用マネー」に分割する。この場合、「リスク運用マネー」は「無リスク運用マネーよりも平均すると5%利回りが高いが、最悪の場合、一年で3割が失われる可能性がある」と考えて、好きな金額を割り当てる。
- 「リスク運用マネー」は、「上場インデックスファンドTOPIX」(コード番号1308、日興アセットマネジメントが設定・運用)と「ニッセイ外国株式インデックスファンド」(ニッセイ・アセットマネジメントが設定・運用)に、順に概ね40%、60%の比率で投資する。
- 「無リスク運用マネー」は、「個人向け国債」(一〇年満期タイプ)又は「MRF」(マネー・リザーブ・ファンド)で持つ。あるいは一人一行一千万円未満なら銀行預金で運用してもいい。(但し、外貨預金はダメ)
- 大きな支出の必要が生じたら、「リスク運用マネー」あるいは「無リスク運用マネー」の何れかを「躊躇なく」部分解約してこれに充てる。
- NISA及び確定拠出年金(DC)を最大限に利用する。
リスク資産の比率は、「内外株式を半々に」の方がいいか未だに迷うところだ。
尚、拙著の方法と上記の差は微差であり、既に投資している人は、わざわざ調整コストを掛けて運用内容を入れ替える必要はない。不確実で僅かなメリットよりも、入れ替えコストのマイナス影響の方が大きいだろう。
上記は、今年、新たに始める人用の運用方法というべきだろう。もっとも、積立投資などをしている場合や、追加投資をする場合に、新たに買う「リスク資産セット」を上記に変更することには、一定の合理性がある。
ただ、現実問題としては、細かな差にこだわらずに、大らかに運用することをお勧めする。もちろん、本連載の読者にはあらためて言うまでもないことだろうが、この投資比率、投資銘柄で運用が必ず上手く行くことを保証するものではない。「運用」なのだから、「運」の要素は避けられない。
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