7月のドルは全面安

 7月は、米中新冷戦勃発懸念、米国の感染者急増による景気後退懸念、欧州復興基金創設合意によってドル全面安となりました。

 その中で出遅れていたドル/円は、31日に一気にドル安が噴き出し、104円台前半まで急落しました。ユーロも2018年5月以来の1.19台に乗せましたが、月末のリバランス(資産調整)やポジション調整によるドル買い戻しが見られ、ドル/円はその日のうちに106円台まで反発し、ユーロも1.17台半ばまで売られました。ドル/円は105円台後半で7月を終えました。

 この7月のドル全面安をけん引したユーロ上昇は、難航していた欧州復興基金創設の協議がようやく合意に達したことが要因でした。この合意以外にも、2日間の予定だったEU(欧州連合)首脳会議を5日間に延長し、90時間をかけて合意したことは欧州の財政統合の一歩、との期待が膨らんだことも、ユーロを押し上げたようです。しかし、この基金創設は2021年以降の中期予算の枠組みの中の話であるため、合意に達したことで、相場要因としては既に織り込んだと思われます。

8月は7月上昇分の調整の動きか

 そして8月は、新型コロナウイルスの感染拡大による欧州経済悪化の懸念が高まり、ユーロは7月上昇分の調整に入る可能性が高まりそうです。7月末に4-6月期GDP(国内総生産)の2ケタマイナス成長(実質年率で▲40.3%)は予想されていたとはいえ、景気悪化懸念が現実として認識されました。また、今後の新型コロナ感染拡大と経済再規制によって、「7-9月期にはプラス成長」という予想が後退してくれば、ユーロの重しになることが予想されます。

 ドル/円は、104円台まで売られたことから、これまでの106~108円中心レンジから下方修正され、新しいレンジを探る展開となりそうです。中心レンジが105~107円に下がるのか、月末の104円台から106円の急反発は、月末要因による一時的な動きに過ぎないため、106円台が重たくなり、一気に104~106円の中心レンジになるかどうかが注目点です。

 2018年、2019年は104円台前半まで円高になりましたが、104円は割れていません。今年は3度目の挑戦で割れるかどうかに注目したいと思います。

「8月は円高」説。その実態は?

 米中対立激化による地政学リスクの高まり、現実に2ケタマイナスの成長率を示された欧米景気の景況感悪化懸念、新型コロナウイルス感染拡大傾向と経済再規制などのマイナス要因。そして、金融政策の追加緩和期待(※)、追加財政政策、ワクチン開発などのプラス要因との綱引き相場が、8月も予想されますが、今年が「8月は円高」になるのかどうか注目です。あるいは、7月後半にユーロやドル/円は大相場となったため8月は大きく動かず、マーケット参加者も夏休み休暇で少なくなり、このまま「夏枯れ相場」になるかもしれません。

※8月は日米欧とも中央銀行理事会は開催されません。毎年注目される米国ジャクソンホール会議はオンラインで開催予定(2020年8月27~28日)

「8月は円高」とよく言われますが、この5年では4回、この10年では6回が円高で、特に円高に偏っているというわけではありません。おそらく円高に動いた時に円安よりも振れ幅が大きかったことから、「8月は円高」の印象が強くなっているのかもしれません。

 ハッサクにとっても、1990年のイラクのクウェート侵攻や2007年のパリバ・ショックは、夏休み休暇中に起こったため、その時の印象が強く、いまだに8月は円高に注意との警戒心を持っています。

 需給面では、8月は外債投資の利金円転(ドル売り・円買い)や、お盆休み前の本邦輸出企業のドル売り予約の増加など、円高に振れやすい偏りが見られます。しかし、ここ数カ月の貿易収支は赤字、また、輸出金額も新型コロナウイルスの影響によって4カ月連続で2ケタの減少となっているため、需給面での影響は低下傾向にあります。

8月は経済的、軍事的事件が発生しがち

 むしろ、8月に留意すべき点は、8月にはマーケットへの影響が大きい経済的、軍事的事件が発生することがあることです(下記参照)。これらの事件は円高を引き起こす事件が多く、お盆休みや夏休みなどでマーケット参加者が少ないことから値動きが荒くなりやすく、注意する必要があります。

 そして今年は、11月の米大統領選を控えている中、米中対立が新冷戦の様相となったことや、7月に入ってトランプ米政権の対中強硬姿勢が鮮明になってきていることから、南シナ海や台湾海峡での米国の動きには一層警戒する必要がありそうです。

8月に発生した経済的、軍事的大事件

日時 起こった出来事
1971年8月15日 ニクソン・ショック。金・ドル交換停止、10%の輸入課徴金
1990年8月2日 イラク軍がクウェートに侵攻
2007年8月9日 パリバ・ショック
2008年8月7日 北京オリンピック開催中にグルジア軍と南オセチア軍が軍事衝突。翌8日にロシアが軍事介入→欧州経済悪化も加わり、ユーロ/円が8円の円高
2011年8月8日 米国債務問題から米国債が格下げされ(5日)、週明け8日に世界同時株安
2015年8月24日 中国景況感の悪化から上海株が急落し、世界同時株安に。上海株が一時8%近く急落した日は、ドル/円の値幅が6円近くの荒れ相場に
2019年8月5日 米中貿易戦争激化の中、人民元安と米国の中国「為替操作国」指定で円高に。NYダウ平均株価は、一時960ドルを超える下げ。人民元は11年ぶりの1ドル=7元超え、為替操作国指定は25年ぶり