過去3月の推移と今回の予想値

※矢印は、前月からの変化

6月雇用統計のレビュー

 BLS(米国労働統計局)が7月2日に発表した6月の雇用統計は、NFP(非農業部門雇用者数)は480万人増加、失業率は11.1%に低下。2カ月連続の大幅改善となりました。

 業種別では、レジャーや接客業の雇用が大きく増加。小売業、教育・医療や製造業にも顕著な拡大が見られました。3月、4月に抑制されていた経済活動が、コロナウイルス封じ込めの取り組みによって徐々に再開されたことが大きく貢献しました。

 失業率は2カ月連続の下落で、前回(13.3%)と比べて2.2ポイント低下。ただし、コロナ流行前の2月の失業率(3.5%)から比べると、まだ7.6ポイント高い状況。

異次元の雇用市場

 米国の雇用市場は、まるで狂ったパソコンのように突然ブラックアウトしたかと思ったら、あっという間に再起動するような事態が発生しています。今年2月までは半世紀ぶりの低失業率を謳歌していた米国経済が、翌月には戦後最悪の水準まで急速に悪化。コロナウイルスが米国の労働市場から3月と4月のわずか2カ月間で2,200万人もの職を奪ったからです。ところが、それをたった2カ月間で30%以上も取り戻しました。一度失業した人が、従来の景気サイクルでは起こりえないスピードで仕事に戻っているのです。これまで市場が経験してきたような「経済が次第に良くなって、だんだんバブルに発展して、最後は破裂して不況になる」というタイムスパンとはまったく異次元の世界のことが起きているのです。

7月雇用統計の予想

 BLSが8月7日に発表する最新の雇用統計は、失業率は10.5%まで下落(改善)、NFPは167.5万人増加という、前回、前々回に続いての強気の内容をマーケットは期待しています。

 米国では、7月に北東部を中心とした一部の州でロックダウンが解除され、経済再開に伴う雇用の回復が見られました。一方で、南西部の州ではコロナウイルス第2波(あるいは遅れてきた第1波)によって感染者が増加。再移動制限に追い込まれた州では解雇が増えました。「雇用」と「解雇」という正反対の激しい流れが、米雇用市場を往来するなかで、コロナ感染が広がるフロリダ州やテキサス州の経済活動の制限が、予想以上に悪い影響を与えている可能性があるので、強気な予想を楽観しすぎるのもリスクです。

雇用市場に目詰まり発生?

 米国の雇用の実情を正確に把握するには、BLS発表の雇用統計よりも、むしろ「失業保険申請件数」を見るべきかもしれません。というのは、雇用統計は企業がアンケートに回答する形式ですが、失業保険は職を失った人が申請した件数だからです。真剣さが違うのです。

 7月25日の週分の「新規」失業保険申請件数は1万2,000件増加して143万件。増加はよくない傾向ですが、それより心配なのは、7月18日週分の失業保険「継続」受給者数が、87万人増加して1,702万人になったこと。継続受給者数が増えたのは5月以来のことで、なにを意味するかというと、再雇用の数(失業保険からの流出)が、失業で申請する人(失業保険への流入)の数を相殺できなかったということです。つまり、雇用の「再吸収」に目詰まりがでてきたということです。実際、再雇用のペースは、4月下旬以降でもっとも少なくなっています。コロナ感染拡大による米国の経済再開の遅れが影響していることは明らかです。

 FOMC(米連邦公開市場委員会)は7月の会合で、米経済回復の鈍さが雇用回復の遅れにつながることを非常に懸念していました。今回の雇用統計は、FOMCのおそれが現実のものになっているかを判断するための重要なデータになるでしょう。