トルコリラ「8月暴落説」

 しばらく15.60円前後で落ち着いた動きを続けていたトルコリラですが、7月後半になって急に活動を再開しているようです。トルコリラ/円は7月29日には15.00円を割り、さらに29日には一時14.90円までトルコリラ安・円高が進みました。

 トルコリラ/円の過去最安値は、今年5月7日につけた14.58円。現在の水準とそれほど離れてはいません。このときはトルコの銀行監督当局が、トルコ金融市場における為替などの金融取引を大幅に規制したことがきっかけになって海外の投資・投機マネーが流出、トルコリラが急落しました。

 しかし、トルコリラの急落はこの時に限ったことではなく、他の新興国通貨と比べても頻繁に発生しています。そして特に警戒したいのは8月。

 トルコリラが8月に下落する確率は、対ドルではここ10年間は7割を超え、しかも平均下落率は▲1.5%以上。対円においても、トルコショックと呼ばれる暴落が2018年8月に発生しています。この時は2日間で約2.60円下落。また2019年8月にも1日で1.90円急落しています。トルコリラ/円の1日の平均値幅はおおよそ0.20円前後。発生頻度が多いことはもちろんですが、平均値動きの10倍という下落の激しさも注目に値します。

 そして今年の8月も、トルコリラ/円が史上最安値更新に向かって下落するリスクが高まっているようです。

トルコリラ下落は「円高」のせい?

 トルコリラ/円の下落は、ドル/円が「円高」に動いていることも理由です。ただ、同じ新興国通貨の南アランドと比べてみると、7月のトルコリラは対円で2.6%下落しているのに対して、南アランドは逆に3.4%上昇しています(南アランド高)。やはり、トルコリラ「由来」の問題があると考えるべきでしょう。

トルコリラは「マイナス金利」

 トルコ中央銀行は直近1年間で10回も利下げを実施しています。1年前に24.00%だった政策金利は、現在8.25%まで低下しました。実質金利(政策金利から消費者物価を差し引いたもの)はすでに「大幅なマイナス」で、トルコの政策金利は世界最安といってもいいのです。

 これの何が問題かというと、第一に、国内の預金者はリラで貯蓄をすると目減りするばかりなので、預金をリラからドルに換える動きが強まっていることです。その金額は7月だけで30億ドル相当といわれています。トルコ国民が資産防衛のためのリラ売りを急いでいるのです。第2の問題は、信用の低い通貨の国が、利下げなどの低金利政策を積極的に行うことで、投資マネーの流出を招き、パニックが増幅するリスクが高まることです。民間、機関投資家問わず、全てのチャンネルでトルコリラからの逃避が起きているのが現状です。

トルコ中銀の弾薬庫は「空」

 トルコ中銀がこのような状況を看過しているのは、「利上げするな」という政治的圧力もありますが、それ以前にトルコリラを防衛するための軍資金が枯渇しているからです。トルコ中央銀行の、スワップ分を除いた実質準備金は▲200億ドルといわれています。中銀と協力してリラ安に防衛にあたっている官営銀行も、クレジットラインがいっぱいになり、リラ買い支えは限界に近付いています。次にトルコリラが暴落するときは、誰も止められないかもしれません。

 以上のように、トルコの経済状況やトルコ中央銀行の政策などを総合的に判断した結果、当社は、現在の状況下において、お客様がトルコリラのリスクをとることをおすすめしていません。それでもトルコリラの取引をする方は、あくまでも自己責任でお願いいたします。

 来週は8月です。なお、トルコリラ/円の急落は月曜の朝に発生することが多いことにも注意して下さい。