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『デジタル人民元』の本格導入に向けた試験運用が始まっています。中銀デジタル通貨(CBDC、中央銀行が発行するデジタル通貨)は、2019年以降スウェーデンなどでも試験運用が進められていますが、『デジタル人民元』が実用化されれば主要国で初めての中銀デジタル通貨となるため、その影響が議論されています。中国は2022年2月までに『デジタル人民元』を発行すべく着々と準備を進めています。

【ポイント1】中国人民銀行(中央銀行)が発行する『デジタル人民元』

 中国人民銀行は深セン市、雄安新区、蘇州市、成都市、北京冬季五輪の開催地となる北京市の会場周辺地域で『デジタル人民元』の実用化に向けた試験運用を進めています。同行の易綱総裁のインタビューによると、2022年2月の北京冬季五輪に向けて『デジタル人民元』を発行する方針と見られます。

 デジタル通貨では米フェイスブックが2019年に発表した「リブラ(Libra)」構想が広く知られていますが、各国の金融政策の有効性低下やマネーロンダリングに対する懸念などの問題や国際的な批判が多く、発行には至っていません。一方、国の中央銀行が発行するものとしては、スウェーデンの「eクローナ」やカンボジアの「バコン」などの試験運用が進められていますが、主要国としては『デジタル人民元』が初めてと言えます。

【ポイント2】各国も中銀デジタル通貨の検討を本格化

 

 デジタル通貨が現実味を帯びてきた背景としては、ブロックチェーン技術の開発、国際的なプラットフォーマー(ビジネスの「基盤」となるシステムやサービスを提供する事業者)の誕生といった環境要因と、国際社会における米国の緩やかな地位低下という構造要因が指摘されています。

 これまで中銀デジタル通貨については、基軸通貨国である米国をはじめ各国では総じて慎重な姿勢が示されてきました。しかし、『デジタル人民元』の試験運用が進められる中、他の主要国も中銀デジタル通貨を検討する方向に転じ始めています。

【今後の展開】各国の思惑と技術の進歩により通貨のデジタル化は進もう

『デジタル人民元』は、基軸通貨国である米国の影響を排除し、国際化が遅れる人民元をデジタル通貨で国際化することが狙いではないかとも見られています。当面は国内決済での使用が想定されていますが、中長期的に中国が推進する「一帯一路」構想の国・地域に『デジタル人民元』の利用が広がることも考えられます。

 デジタル通貨は全ての決済がデジタル情報で完結するため利便性やコストの低さは圧倒的です。コロナ禍で非接触型のサービスが要求される環境も追い風です。今後IT技術が一層進むと見込まれる中、本格化する各国の中銀デジタル通貨の取り組みが注目されます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。