米国の景気回復が遅れる見方が台頭し始める

 先週のドル/円は、107円を挟んで小動きとなり、この数週間ほとんど方向感がない動きが続いています。ただ、マーケットでは新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないことで、米国の景気回復が遅れるとの見方が台頭し始めています。

 7月17日に発表された7月ミシガン大学消費者信頼感指数は73.2と、前月の78.1から低下し、予想の79も割りこみました。調査期間の6月24日~7月15日に新型コロナ感染が再拡大したことから先行きの景況感が大幅に悪化したため、予想を下回り、前月からも低下しました。この日は、NYダウ平均株価は下落し、ドル/円も円高で終えています。

 紹介したミシガン大学消費者信頼感指数とは、米国ミシガン大学のサーベイ・リサーチセンターが実施する、消費者マインドに関するアンケートです。米国の消費者マインドを推測する代表的な指標で、個人消費との連動性が高く、景気動向の判断材料として注目されています。

 この数字が示すように新型コロナ感染の再拡大が消費者心理に水を差したようです。今後も感染拡大が続けば、さらに消費者心理が落ち込むことが予想されます。消費者心理が落ち込めば、消費が盛り上がらず、景気回復が進まなくなります。

 感染再拡大によって消費者心理が落ち込むのは日本も同じで、日本はさらに外出や移動が自主的に自粛されることが予想され、景気回復が遠のきそうです。

 ドル/円は107円を挟んで動いており、今のところは欧州復興開発基金創設合意でユーロ/円やワクチン開発期待でポンド/円などのクロス円がしっかりしているため、ドル/円の値動きも小さいながらも堅調な動きを示しています。しかし、景気回復が遅々として進まなければ、その歩調に合わせるように徐々に頭が重たくなってくることが予想されます。

国際機関のリスクシナリオの実現度

 新型コロナウイルスの感染が拡大すれば景気はどの程度悪化するのか、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、OECD(経済協力開発機構)の国際機関は、感染が拡大した場合のリスクシナリオを公表しています。

 IMFは6月に公表した2020年のGDP成長率を▲4.9%と予測し、4月時点から1.9%下方修正しました。新型コロナウイルスによって先進国と新興国がそろって景気後退に陥り、経済損失は2020年、2021年の2年間で12.5兆ドル(約1,300兆円)と試算しています(2018年の世界のGDP[国内総生産]は85兆ドル=約9,100兆円)。2年間の損失規模は日本のGDP(約536兆円)の2.4倍に相当し、雇用などに大きなダメージとなると分析しています。

 IMFは「世界経済は大恐慌以来で最悪の景気後退だ」と指摘。大恐慌時の1930~1932年は世界経済が17~18%も縮小したとされていますが、新型コロナウイルス感染第2波が避けられれば、2021年は+5.4%のプラス成長に回復すると予測しています。

 この回復シナリオは、新型コロナウイルスの感染が2021年にかけて終息するとの前提で見通しを立てている基本シナリオです。一方、この基本シナリオとは別に感染が終息せず、第1波の感染再拡大や第2波が発生した場合のリスクシナリオも予測しています。IMFだけでなく、世銀やOECDなどの国際機関もリスクシナリオを立てています。

感染拡大のリスクシナリオ

 下表がIMF、世銀、OECDが予測した経済成長のリスクシナリオです。(1)が感染収束する基本シナリオで、(2)が感染拡大する場合のリスクシナリオです。

IMF、世銀、OECDのリスクシナリオ(GDP成長率)

    IMF 世銀 OECD
(1)終息 2020年 ▲4.9% ▲5.2% ▲6.0%
2021年 5.4% 4.2% 5.2%
(2)拡大 2020年 ▲4.9% ▲8.0 ▲7.6%
2021年 0% 1.0% 2.8%
注:IMFは2021年初めに感染第2波が発生するシナリオ。世銀・OECDは2020年中に感染が再拡大するシナリオ

 IMFは2021年初めに新型コロナウイルスの感染第2波が発生した場合、2021年の景気は回復せず、+5.4%のGDP成長率がゼロ%になると予測しています。

 世銀は2020年中に感染が再拡大するリスクシナリオで予測し、2020年の段階でGDP成長率は▲5.2%から▲8.0%と景気は悪化、2021年は+4.2%の予測が+1.0%に鈍化すると予測しています。

 OECDも2020年中に感染が再拡大するリスクシナリオで予測しています。2020年の段階で▲6.0%から▲7.6%に景気は悪化し、2021年は+5.2%の予測が+2.8%に鈍化すると予測しています。

 いずれにしてもIMFや世銀、OECDも感染再拡大や第2波が発生しても、2021年は連続してマイナス成長になるのではなく、ゼロもしくはプラス成長と予測しています。これが楽観的な見方かどうか、今後注目していく必要があります。経済見通しは数カ月に一度改訂されるため、その時にリスクシナリオもどのように変化しているのか、注目です。

 ただ、経済見通しの基本シナリオは感染収束のシナリオですが、現状を見ると、いまだ感染者が拡大している状況であり、かつ感染者の増え方が加速しています。このままだと「感染収束」という基本シナリオはかなり遠のきそうです。

 感染拡大が収まらないため米国の景気回復が遅れるとの見方がマーケットで台頭し始めているとコラムの冒頭で述べましたが、感染者増加に加えて経済活動の再規制が強化されれば、景気回復が遅れるとの見方だけでなく、回復期待そのものが後退することも予想されます。経済活動の再規制がプラスに働き、感染者増加が頭打ちとなればいいのですが、いまだマスク論争や外出自粛論争をやっている米国の状況ではあまり期待できないかもしれません。