特に都心部では自宅を持っているだけで必要とも言われている相続税の申告。事前の準備で効果的に相続税額を抑える方法がいくつもあります。今回は、明日から役立つ基礎知識を紹介します。

Money Hack 1:生前贈与

年間110万円を超えた方が有利?

 相続税を抑えるために非常に有効な1つが生前贈与です。年間の非課税枠110万円の範囲内で生前贈与を行っている方も多いようですが、実はその方法はあまり効果的ではない場合があります。

 例えば、子どもや孫に年間500万円を贈与した場合、贈与税額は48万5,000円。税率にすると9.7%です。

 もし贈与せずそのまま持っていた場合の相続税率が30%だとしたら、税率9.7%の税率で贈与した方が贈与税・相続税トータルの税額で明らかに軽減できます。

 つまり、子ども3人に毎年500万円の贈与を10年行う場合、合計の生前贈与は1億5,000万円。これに30%と9.7%の税率差を乗じると、およそ3,000万円の税額軽減効果があります。

 もし非課税枠110万円で10年贈与を行ったとしたら、税額軽減効果は約700万円にとどまります。

 特に財産を多く持っている方は、110万円の非課税枠でちまちま渡すより、多少の税金がかかっても、ある程度まとまったお金を贈与した方が、トータルすると税金面で有利になる点をぜひ押さえておいてください。

Money Hack 2:生命保険

非課税枠を活用する

 筆者は税理士のため、相続税の申告書作成を数多く手掛けていますが、生命保険の非課税枠を活用できていないケースは意外なほど多いです。

 保険料支払者および被保険者が被相続人の場合、相続に伴い相続人が受け取る生命保険金は、「500万円×法定相続人の人数」の非課税枠があります。相続人が4人なら2,000万円が非課税となります。

 一時払い終身保険を活用すれば、お金が保険に形を変えるだけで生命保険金の非課税枠が使えることになります。

 また、生命保険金は遺産分割の対象にならず、受取人を指定できるので、納税資金確保のためだったり、遺産分割をスムーズに行うために活用できます。生命保険を上手に活用することで相続時のトラブルを未然に防ぐことができるのです。

Money Hack 3:都心部の不動産で賃貸経営

財産を不動産にするのは正解?

 不動産の所有は、キャッシュで持つよりも相続税の評価額を低く抑えることができることは知っている方も多いでしょう。

 ただ、全財産に占める不動産の割合が高いと、納税資金のねん出に苦労しますし、地方部にアパートを建てると、逆に赤字になる可能性もあります。

 地方部の不要な不動産は売却し、都心部の不動産に組み替えることで、不動産賃貸経営を安定的に行うことが可能になります。小規模宅地の特例(200㎡まで50%評価減)も、1㎡あたりの単価が高い都心部で適用した方がより効果が高まります。

 逆に、これから人口の減少が見込まれる地方部に所有する土地に、借り入れをしてアパートやマンションを建築すると、確かに相続税の減額は図れますが、入居者が集まらず借入金が返済できない、という本末転倒な状態に陥りかねません。十分気を付けてください。

Money Hack 4:株の贈与

株価急落時には株式の贈与を

 上場株式を贈与する場合、「贈与した日の終値」に加え、「贈与した日の属する月の毎日の終値平均」「贈与した日の前月の毎日の終値平均」「贈与した日の前々月の毎日の終値平均」のうち、最も低い株価で贈与することができます。

 したがって、◯◯ショックのような、優良株も含め全ての株が大きく値下がりしているようなときは、株式を安い価格で贈与できる絶好の機会となります。

 特に、株価急落後、好業績が改めて評価されて株価が急上昇しているようなケースは、急上昇前の株価で贈与できることになるため大変有利です。

 なお、株価が急落したからといって、どの株でも贈与すればよいというわけではありません。株価急落後低迷を続ける株も少なくないからです。

 筆者としては、好業績、好決算などで株価が大きく上昇した銘柄を贈与の対象にするのがより効果が高いのではないかと思っています。

Money Hack番外編・遺言書

余計なコストも不毛な労力も抑える!

 直接的に相続税の軽減につながるわけではありませんが、生前に遺言書を書いておくことは非常に有効です。

 なぜなら、事前に財産の分け方を決めておいてあげれば、相続が発生した後に残された家族が不毛な争いをせずに済むからです。

 筆者自身、遺言書がないため、遺産分割協議が紛糾してまとまらず、調停に移行したケースをいくつも見てきています。

 調停となれば、精神的にも非常に辛く、家族間が不仲にならざるを得ません。それでいて自分の意見が全面的に通るわけではなく、多くは法定相続割合に準じた分割を余儀なくされます。その上、弁護士に支払う多額の報酬が重くのしかかります。

 遺言書を残すことが、結果として残された家族が受け取ることができる財産の最大化につながります。7月より自筆証書遺言書の保管制度も始まりましたし、遺言書を残しておくことをぜひ検討してみてください。