総合取引所構想は、小泉政権下の骨太の方針第7弾がきっかけ。足掛け10数年で結実

 JPX傘下の大阪取引所で、7月27日(月)に、商品先物取引の取り扱いが始まります。大阪取引所は、日経225先物、日経225先物miniなどの株価指数先物や、日経225オプション取引などを取り扱う、日本最大のデリバティブ(※)市場です。

※デリバティブ:株式(現物)などの従来の金融商品から派生した、先物取引などの金融商品のことです。

図:総合取引所のイメージ

出所:楽天証券のウェブサイトをもとに筆者作成

 東京商品取引所(以下TOCOM)で取り扱ってきた、金やプラチナなどの貴金属、トウモロコシなどの穀物、天然ゴムが、大阪取引所に移管されることを、総合取引所の誕生として報じられているわけですが、日本における総合取引所構想は、10数年に及ぶ議論を経て、結実する運びとなりました。

 小泉政権下の“骨太の方針”第7弾(2007年)で推進されることとなった「アジア・ゲートウェイ構想」の策の一つ、グローバル化金融・資本市場競争力強化プランに、“取引所において株式、債券、金融先物、商品先物など総合的に幅広い品揃えを可能とするための具体策などを検討し、結論を得る”とした、取引所の競争力の強化が盛り込まれました。

 これにより、株式などの金融商品は金融商品取引法(金商法)に基づき金融庁の管轄、商品先物は商品先物取引法に基づき経済産業省・農林水産省の管轄、といういわゆる“縦割”だった体制にメスが入ることとなり、2012年の金商法の改正で、同法に“商品関連市場デリバティブ取引”が盛り込まれ、総合取引所構想が加速し始めました。

 総合取引所というと、米国のCME(Chicago Mercantile Exchange/シカゴ・マーカンタイル取引所)グループが世界をリードしています。CMEグループは、コモディティ(農産物、金属、エネルギーなどの商品)、通貨、金利、債券、株価指数、暗号資産、天候などの先物取引やオプション取引を扱っています。

 日本時間の早朝に注目されるCME日経平均先物は、CMEグループで取引されている株価指数先物の1つです。また、為替の動向のニュースで目にするIMM通貨先物ポジションは、CMEで取引されている通貨先物市場における、投機筋のポジションを指しています。

 もともとCMEは、100年以上前にバターや卵の取引から始まったと言われ、近年、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産の先物も上場し、まさに、品ぞろえも歴史も、世界をリードする総合取引所と言えます。

 商品先物取引を品揃えの1つとすることを実現した、日本の総合取引所化は、広い意味では、“大きな第一歩”と言えるでしょう。日本でも将来的に、CMEグループのように、通貨先物、金利先物、暗号資産先物、エネルギー先物などが、新設・移管などにより、一元化されていくかもしれません。

 先述の骨太の方針に、“株式、債券、金融先物、商品先物など総合的に幅広い品揃えを可能とするため”とあり、今後の動向が注目されます。

図:2020年7月27日(月)からの日米のデリバティブ市場のイメージ

出所:各種情報源をもとに筆者作成

 楽天証券で取り扱う銘柄は、大阪取引所に移管される次の13銘柄です。金先物・金ミニ先物・金スポット・白金先物・白金ミニ先物・白金スポット・銀先物・パラジウム先物・ゴム先物RSS3号・ゴム先物TSR20号・とうもろこし先物・大豆先物・小豆先物。

※白金スポットが追加されました。

 これらの銘柄が、7月27日(月)より、日経225先物、日経225先物miniなどとともに、マーケットスピードⅡで取引ができるようになります。

※先物・OP口座の開設が必要です。詳細は「総合取引所実現に向けた当社対応につきまして」をご参照ください。

金(ゴールド)は西へ。“大阪金”誕生!

 今回の総合取引所化によって、金先物を扱う取引所が東京から大阪に移ります。このため、これまで“東京金”と親しまれてきた金先物は、2020年7月27日(月)からは、“大阪金”と呼ぶことになります。

 また、個人投資家は、株価指数先物取引の売買ができる口座で、大阪に移管された商品先物銘柄の売買ができるようになるため、株価指数先物と商品先物の価格推移の関係に着目した取引をスムーズに行えるようになります。

 これまでは、株価指数先物取引ができる口座と、商品先物取引ができる口座を、それぞれ開設する必要があり、それぞれ別々の画面、別々の資金管理の下で、取引をする必要がありました。これらが、今回の総合取引所化で“一元化(ワンストップとも言う)”されたことは、個人投資家にとって、大きなメリットと言えるでしょう。

 以下は、楽天証券の取引ツールである “マーケットスピードⅡ”の画面のイメージです(7月27日(月)以降)。日経225先物などの株価指数先物の銘柄を選択する箇所で、金や白金などの今回大阪取引所に移管される銘柄が選択できるようになっています。

図:7月27日(月)以降のマーケットスピードⅡのイメージ

出所:楽天証券のホームページより抜粋

 同じ取引ツールで、同じ資金管理の下、取引ができるとなると、やはり思いつくのが、株とコモディティ(商品)の値動きの傾向に着目した売買戦略です。以下より、日経225先物miniと東京金ミニ先物(7月27日より大阪金ミニ先物)の値動きに注目します。

大阪金の誕生!売買戦略を立てる上での大きなヒント

 以下は、日経225mini先物と東京金ミニ先物(7月27日より大阪金ミニ先物)の値動きです。

図:日経225mini先物と東京金ミニ先物の値動き(15分足、終値) (2020年3月2日から7月17日まで)

出所:ブルームバーグより筆者作成

 今年(2020年)2月後半から3月中旬にかけておきた“新型コロナショック”の際、世界的に現金化の動きが強まったため、株も金(ゴールド)も売られました。しかし、その後、株と金が上昇し始めました。上図のとおり“株高・金高”が起き、現在もその傾向が続いています。

 この間の、2つの銘柄の相関係数は、強い連動性を示す“+0.82”です。相関係数は、+0.7を超えると連動性があると言われます(+1は全く同一の動き)。

 株高・金高が起きる仕組みは、いくつかあります。1つは、欧米での大規模な金融緩和です。以下のとおり、欧米での大規模な金融緩和は、株と金それぞれに、別々の意味で上昇要因として作用します。

図:株高・金高の一因“欧米の金融緩和”(イメージ)

出所:筆者作成

 欧米の大規模な金融緩和は、景気回復期待を増幅させ、株式市場に上昇要因として、そして同時に、欧米の通貨の価値の希薄化懸念をもたらし、金市場に上昇要因として、作用します。この結果、株高・金高が起きます。この事象は、2009~2012年、リーマン・ショックから経済を回復させるために行われた、欧米の大規模な金融緩和の際にも見られました。

 また、株高・金高の理由をもう一つ挙げるとすれば、“実態がない可能性がある株高への不安”が挙げられます。

 新型コロナショック後の世界的な株高は、実態を伴っていない可能性があると、さまざまな機関から疑問を呈す声が聞かれます。このような声が、不安心理(広く言えば“有事のムード”)を拡大させ、資金の逃避先として金(ゴールド)が物色されるきっかけになります。

 また、例えば、株価指数の堅調さを支える米国のハイテク企業において、業績見通しの大幅な下方修正が行われたりすると、株式市場全体が不安定化することがあります。しばしば見られる“アップル・ショック”などがその例です。

 株価の反発に実態が伴っていない可能性があったり、上記のようなショックに絶えず警戒しなくてはならなかったりすると、これらがきっかけで生まれる不安や、懸念、警戒感が、資金の逃避先として、金(ゴールド)を物色する動機になります。これもまた、株高・金高の理由になり得ます。

 大阪金がコロナ環境下でのスタートとなったことは、売買戦略を立てる上での大きなヒントと言えます。欧米での大規模な金融緩和や、実態がない可能性がある株高への警戒感が続く限り、今後も“株高・金高”も続く、と考えるべきだと、筆者は思います。

 従来の金市場にあった、材料を点でみる、例えば、有事のムードだけ、株との逆相関だけ、ドルとの逆相関だけなど、何か1つの材料だけに注目して金相場の動向を考えようとする見方は、特に“コロナ禍”では通用しないことに、注意が必要です。

目先、高い相関関係に逆らわず、短期的な “株買い・金買い”、“株売り・金売り”が有効?

 具体的な売買戦略を考えるにあたり、前提条件を確認します。日経225先物miniも、大阪金ミニ先物も、ともに“先物取引”です。つまり、ともに、同じポジションを持ち続ける上で、期限(スケジュール的な制限)があります(1)。

 また、先物取引は、証拠金取引という、本来動かしている資金の額よりも少ない額で取引に参加できる、てこの原理が働いている取引であるため、短時間に大きな損益が発生する場合があります(2)。

(1)期限がある、(2)てこの原理が働いている、という2点から考えれば、おのずと、中長期的な売買戦略ではなく、数分間から長くても数日間の短期的な売買を想定することになるでしょう。

 また、これらの銘柄を、一定の根拠を持ってワンセットとみなして発注する場合、証拠金の金額を基準にすれば、日経225mini先物を1枚(8万7,000円)、大阪金ミニ先物を4枚(2万3,400円×4枚→9万3,600円)となるでしょう(証拠金の額は2020年7月17日時点)。

 期限が到来した場合、次の限月(げんげつ)に乗り換える“ロールオーバー”をしながら、疑似的に長期投資をすることも可能ですが、この場合、必ずしも同日ではない日経225先物miniと大阪金ミニ先物の取引最終日※を把握して、決済する日を自分で決めて実行(決済)する手間と、新規・決済の注文の都度発生する手数料などのコストをかけることになります。

※大阪金ミニ先物の納会日は、取引業者が定める場合があります。

 先述のとおり、3月2日(月)から7月17日(金)までの95営業日の、日経225mini先物と東京金ミニ先物(7月27日から大阪金ミニ先物)の15分足の終値の相関係数は、+0.82、と比較的強い連動性を示すものでした。

 以下は、これらの1日あたりと時間帯別の相関係数です。アジア時間は8時45分から15時15分、欧州時間は16時30分から20時45分、米国時間は21時から翌5時30分としています(いずれも日本時間)。

図:日経225mini先物と東京金ミニ先物の、相関係数+0.7以上と-0.7以下の時間帯別日数

出所:ブルームバーグより筆者作成
※15分足の終値を参照
※2020年3月2日から7月17日まで。
※3月2日から6日(サマータイム以外)は、欧州、米国時間を1時間後ろ倒し。

 この期間は、特にアジア時間で、日経225miniと東京金ミニ先物の連動性の高さが目立ちました。5日に1回程度、+0.7以上の比較的高い連動性が見られました。

 これらの情報をもとにした、具体的な戦略としては、欧米での大規模な金融緩和や、実態がない可能性がある株高への警戒感が続き、株高・金高も続く可能性があるのであれば、株が高い時に金を買う、一時的に株が調整して下落した時に金を売る、その時間帯は、できればアジア時間でアジア時間中に取引を終える、となると思います。

※売買は、ご自身の判断で行ってください。売買の際は、日経225mini先物、大阪金ミニ先物、それぞれの商品設計と手数料などのコストを必ずご確認ください。

将来的には、株と金の“逆相関”が定着!?大阪市場特有の事象が生まれる可能性も!?

 例えば、テクニカル分析指標をもとにした分析がぴったりとあてはまるケースがあります。テクニカル分析指標が出したシグナルが結果的に当たったケースにおいて、そのうちのいくつかは、多くの投資家がそのシグナルに注目し、その多くの投資家がそのシグナルに従って買ったから(売ったから)、価格が上昇した(下落した)、つまり、多くの投資家の思惑が一致したために、それらの投資家の売買によって価格が動いたケースがあると考えられます。

 この点を、株と金の値動きにあてはめて考えれば、“株と金は逆相関の関係だ”と従来通りの主張を強く踏襲する投資家が大多数を占め、かつ株価が下落した場合、そのような投資家の買いが優勢になり、金価格が上昇する可能性があります。

 たとえ、世界の指標であるドル建て指標で、“株安・金安”が見られても、大阪市場の円建ての株価指数先物と金先物においては、“株が下がっている時は、金は上がるものだ”と強く思い込んでいる投資家が大多数を占めれば、円建て市場では、“株安・金高”が起きる可能性があります。

 また、以下のとおり、時間帯別の日経225mini先物と東京金ミニ先物の出来高※を見ると、アジア時間は同じ山と谷を描いているものの、米国時間は様子が異なります。東京金ミニ先物は、米国時間の方が、取引が多いことがわかります。

※売買の結果で、市場の規模を計る目安の一つ。1枚の買い注文に1枚の売り注文が見合って、出来高1枚。

 総合取引所化し、格段に利便性が高まった環境で、多数の株式投資家が、大阪金が米国時間をメインとする米国の金先物市場の値動きを映す傾向があることに気づいたとします。

 この気づきが、多数の株式投資家の間に広がり、この時間帯に株と金の売買のチャンスを見出す投資家が増えれば、大阪金の存在をきっかけに、(大阪金そのものもさることながら)日経225先物の夜間の売買が増加する可能性も出てきます。

図:日経225mini先物と東京金ミニ先物の時間別の平均出来高 単位:枚

出所:ブルームバーグより筆者作成
※期間は2020年3月2日から7月17日まで

 総合取引所化は、投資家、取引所、証券会社などの業者などの多数の関係者にとって、非常に大きな節目です。株価指数先物と商品先物の売買が、相乗効果で、ともに飛躍的に活発化することが望まれます。筆者としても、今回の総合取引所化で、レポートするテーマが広がりました。株とコモディティの関係について、これまで以上に情報を発信していきたいと思います。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金、ミニ金、ゴールド100(プラチナ、銀、パラジウムもあり)

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)