米国株式市場は量的緩和とコロナ再拡大の狭間で膠着状態

 コロナショック以降、米国株式市場は、FRB(米連邦準備制度理事会)による量的緩和と政府の緊急支援策に支えられ、急速に回復してきました。

 FRBが国債などを買い進めて大量の資金を供給したことにより、株式市場にもお金が流入しました。また、政府の施策も奏功し経済指標の回復傾向が確認できたことも、相場の上昇に寄与しました。

S&P500は米連邦準備銀行のバランスシート拡大と共に上昇
期間:保有証券資産額は2019年1月2日~2020年7月8日、S&P500は2019年1月6日~2020年7月10日

出所:ブルームバーグより楽天証券作成

新規失業保険申請件数は急速に改善
期間:2019年1月4日~2020年7月3日

出所:ブルームバーグより楽天証券作成

 しかし、現在の米国株式市場は、量的緩和と新型コロナ感染拡大の間に挟まれ、膠着状態になっています。新型コロナの感染拡大が進み再びロックダウンとなれば、投資家が描いている2020年第3四半期(3Q、7-9月期)以降の経済回復が見込めなくなります。

最悪のケースと選択銘柄

 こうした中、今後の株式市場で考えられる最悪なシナリオ、最善のシナリオは以下の通りです。

最悪のケース:米国内外でロックダウンが再開する

 世界的にロックダウンの再開が濃厚となれば全面安となるでしょう。

 ただ、2~3月のような暴落には至らないのではないかと考えています。その理由は、当初感染者数が拡大して苦戦していたニューヨーク州で感染者数が落ち着いているなど、適切な対策を取れば感染をコントロールできるという実例が出てきていることです。

 FRBや政府が状況を黙って見過ごすことはないでしょうし、治療薬やワクチンに対する期待が相場を下支えすると考えられます。感染者数をコントロールしながら経済を前に進める道を模索していく方向になるとみられます。

 一度売られた局面では、ロックダウンの影響を受けにくく、「ニューノーマル」の波に乗る大型成長テクノロジー企業を拾いたいところです。最近の時価総額ランキングでは、時代の変化を捉えた企業がランキング上位を占めており、時代をけん引していく主役の交代が起きているように見えます。

米国株式市場の時価総額はテクノロジー企業がけん引

ティッカー 名称 時価総額
(億ドル)
PER
(倍)
年初来トータル
リターン(%)
AAPL アップル 16,553 30.0 30.7
MSFT マイクロソフト 15,703 36.6 32.0
AMZN アマゾン・ドット・コム 15,482 148.3 68.0
GOOGL アルファベット 10,320 31.1 12.9
FB フェイスブック 6,815 29.0 16.4
BABA アリババ・グループ 6,752 43.0 18.7
BRK/A バークシャー・ハサウェイ 4,473 18.5 18.7
JNJ ジョンソン&ジョンソン 3,826 22.3 0.9
V ビザ 3,674 33.8 0.9
WMT ウォルマート 3,668 26.2 10.0
PG P&G 3,071 25.6 0.6
JPM JPモルガン・チェース 2,975 11.5 ▲28.0
MA マスターカード 2,913 37.1 ▲2.4
UNH ユナイテッドヘルス 2,842 21.0 2.8
TSLA テスラ 2,777 9469.4 257.9
SPY SPDR S&P 500 ETF 2,765   ▲1.1
HD ホームデポ 2,685 24.8 15.8
INTC インテル 2,480 11.8 ▲1.1
NVDA エヌビディア 2,473 74.6 71.1
NFLX ネットフリックス 2,311 106.4 62.4
VZ ベライゾン 2,253 10.1 ▲8.4
ADBE アドビ 2,122 58.5 34.2
T AT&T 2,120 13.3 ▲20.1
DIS ウォルトディズニー 2,099 33.3 ▲19.6
BAC バンクオブアメリカ 2,099 9.9 ▲30.4
PYPL ペイパル 2,014 84.2 58.6
IVV ISHARES-C S&P500 1,979   ▲1.2
PFE ファイザー 1,956 15.0 ▲8.3
MRK メルク 1,952 14.1 ▲13.6
KO コカ・コーラ 1,943 20.8 ▲16.8
出所:ブルームバーグより楽天証券作成(2020年7月13日時点)
注:年初来トータルリターンは、配当の再投資も含む

米国トップ企業の「ニューノーマル」銘柄一覧

ティッカー 名称 事業内容
AAPL アップル ウェアラブル端末やアプリなど各種オンラインサービスが成長をけん引へ
MSFT マイクロソフト クラウドサービス「アジュール」が大幅続伸中
AMZN アマゾン・ドット・コム オンラインショッピングの有料会員数拡大、中長期でインドを狙う
GOOGL アルファベット 動画配信のユーチューブやクラウドが拡大。中国アプリを禁じたインドに積極投資発表
FB フェイスブック ユーザー数拡大。ECショッピング強化、ティックトック排除の動きは追い風か。
BABA アリババ・グループ 中国のオンラインショッピング大手
NVDA エヌビディア クラウドを支えるデータセンター向け半導体が成長中
NFLX ネットフリックス 動画サブスクリプションサービス大手
PYPL ペイパル オンラインショッピングで使えるネット決済サービスを提供
出所:各種資料より楽天証券作成

 上記で紹介した銘柄は、足元で起きている中国系オンラインサービス締め出しの動きでも恩恵を受ける可能性があります。米国政府は中国系の短編動画アプリ「Tik Tok(ティックトック)」の締め出しを検討していますが、インドは既に59の中国系モバイルアプリを禁止しています。

 このような動きは、ティックトック類似のアプリを立ち上げているフェイスブック(FB)にとってチャンスですし、アルファベット(GOOGL)はインドに100億ドル(約1兆円)のファンドを設立すると発表しています。

フェイスブックの株価

出所:楽天証券ウェブサイト(2020年7月14日まで)

アルファベットの株価

出所:楽天証券ウェブサイト(2020年7月14日まで)

 楽天証券のランキングを見ると、配当利回りが高いAT&T(T)コカ・コーラ(KO)、高配当株式ETFのSPYDが人気かと思いますが、上記で紹介したテクノロジー企業や、それらを含む、ナスダック100指数銘柄で構成されるETFのパワーシェアーズ QQQ 信託シリーズ1(QQQ)等を保有しておくと、より分散効果が高まるかと思います。

高配当株式ETFのSPYDと、ナスダック100連動型ETFのQQQで広がる格差
2020年初を100とした場合の株価推移
期間:2020年1月2日~7月13日

出所:ブルームバーグより楽天証券作成

最善のケースと選択銘柄

最善のケース:新型コロナウイルスの治療薬やワクチンの実用化が進む

 足元では、ワクチン開発の好材料が出ると市場は即座に反応しています。実際にワクチンが開発、生産され私たちの手に届くのがいつになるのかは分かりませんし、どの企業群がそれを成し遂げるのか不明ですが、治療薬やワクチン開発への期待が高まるほど株式市場は上昇していくでしょう。

 ヘルスケア関連銘柄や航空株等を物色する方法もありますが、出遅れている小型株が買われる可能性もあります。米国小型株ファンドのベンチマークになっているラッセル2000指数は、現在S&P500よりもパフォーマンスが悪いですが、経済の本格回復というシナリオができれば、中小企業の業績にも追い風が吹くでしょう。小型株は事業基盤が不安定な面がありますので、一本釣りも良いですが、分散効果が期待できるETF、例えばiシェアーズ ラッセル 2000 ETF(IWM)に注目しています。

出遅れているラッセル2000指数は、経済の本格回復シナリオで上昇か
2020年初を100とした場合の株価推移
期間:2020年1月2日~7月13日

出所:ブルームバーグより楽天証券作成

 また、出遅れという観点では、インフラ関連セクターにも注目しています。インフラ関連については、コロナ感染の終息後、景気対策として政府がインフラ法案を進める可能性があります。

 その場合には、重機のキャタピラー(CAT)や設備レンタルのユナイテッド・レンタルズ(URI)ハークHD(HRI)に注目が集まるでしょう。

キャタピラーの株価

 出所:楽天証券ウェブサイト(2020年7月13日まで)

ユナイテッド・レンタルズの株価

出所:楽天証券ウェブサイト(2020年7月14日まで)

ハークHDの株価

出所:楽天証券ウェブサイト(2020年7月13日まで)

バイデン氏が大統領選で勝利した場合

 その他、特に注意したいイベントは、

  • 11月の大統領選の行方
  • 足元で始まった2Q(4-6月期)の決算発表

です。

 11月に実施される大統領選については、新型コロナウイルスの感染者数拡大と未曽有の経済後退という中で実施されるため、現職、共和党のトランプ大統領には不利な状況とみられます。

 民主党のバイデン氏が勝利すれば、法人税が引き上げられて企業業績がダメージを受ける可能性がある点に留意する必要があります。そうなった場合、株式市場の上昇は止まるでしょう。

 バイデン氏が勝利した場合に備えて保有しておきたい銘柄は、気候変動に対処する銘柄です。バイデン氏は気候変動問題に対処するため、4年間で2兆ドル(200兆円強)を注ぎ込む方針を発表しました。太陽光発電や風力発電などの設備投資に税制優遇を実施し、電気自動車やエネルギー効率の高い社会インフラの発展に注力すると発言しています。代表的な関連銘柄としては、風力や太陽光発電のネクステラ・エナジー(NEE)、太陽電池モジュール製造のファーストソーラー(FSLR)が挙げられます。

ネクステラ・エナジーの株価

出所:楽天証券ウェブサイト(2020年7月14日まで)

ファーストソーラーの株価

出所:楽天証券ウェブサイト(2020年7月14日まで)

 また、決算発表については、経済指標は改善基調だが、企業のファンダメンタルズはそれに沿っているのか、という点が焦点になります。2Q(4-6月期)の業績着地が1Qよりも悪化する可能性は織り込まれていると思いますが、市場の想定内の落ち込みで済むのか、また、3Q(7-9月期)以降の見通しを会社側がどのように話すかに注目が集まるでしょう。