なぜ長期投資は個人投資家に受け入れられるのか

 株式投資は長期投資が基本、とアドバイスする専門家やアドバイザーは結構多いと感じるのは私だけでしょうか。そして、それを実践する個人投資家も数多くいるように思います。では、なぜ長期投資が個人投資家に受け入れられやすいのでしょうか?いろいろ理由はあると思いますが、筆者は以下の2点が大きいと思います。

 1つには、長期投資の投資哲学に共感を覚えやすい、という点があります。
「投資家が企業の株を買って長期投資すれば、企業を応援することにつながり、その行動が経済の発展にも役立つ。しかし短期売買は利益だけを追い求めた単なるマネーゲームであり、ギャンブルと変わらない。」と個人投資家に説く専門家やアドバイザー。この考え方に賛同する個人投資家も多いようです。

 2つには、根強い「右肩上がり信仰」があります。
専門家だけでなく、個人投資家の多く、特に中高年以上の方にはその人生経験に基づき、株価は長期的に右肩上がりに上昇するもの、という先入観があるようです。

 実際、戦後数多くの暴落を乗り越え日経平均株価は上がり続けました。それは平成バブル崩壊以前まで続きました。したがって、短期間の投資では大きく損をすることもあるが、長期投資をして長期間株を持ち続ければ最終的には報われる、という心理が根底にあるようです。

長期投資が大失敗を誘発する?

 しかし、いくら投資哲学として長期投資が素晴らしいとしても、過去の傾向が右肩上がりだったとしても、実際に利益を得ることができなければまったく意味がありません。平成バブル崩壊から30年経った今も日経平均株価はピークの半分程度です。

 筆者は、長期投資という考え方こそが、多くの個人投資家が株式投資で大失敗をしてしまう原因になっていると考えています。個人投資家は、このことに早く気付く必要があるのです。

 なぜならば、株式投資では絶対に大失敗を避けなければなりません。個人投資家にとって株式投資での大失敗といえば、買った株が買値より大きく値下がりし、多額の含み損をかかえた塩漬け株が発生してしまうことに他なりません。筆者はそう強く考えています。

 逆に言えば、塩漬け株の発生を防ぐことができれば大失敗を避けることができるわけです。塩漬け株防止に最も効果的なのは、何といっても早めの損切りです。
 ところが、筆者は、長期投資が塩漬け株の発生を助長していると考えます。

長期投資が損切りをしない言い訳になる

 投資家は、株価が買値より値下がりしたとき、損切りするかどうかの判断に迫られます。

 しかしながら、投資家の多くは、株価が買値より値下がりしてもそれは一時的なものであり、長期的に保有し続ければ値下がりが解消されて値上がりに転じる、としてなかなか損切りを実行しません。また、本当は損切りすべきと頭の中では分かっていても自身のプライドと実現損に強い抵抗があるために、そのまま持ち続け、損切りから逃げています。その際、長期投資を自らに対する損切り忌避のありがたい理由にしている投資家は多いと筆者は思います。

 株価が買値から下がったということは見込み違いだったことを表しています。ですから、早めの対応が必要になります。結論を先延ばしにした結果さらに株価が下落して含み損が大きく拡大してしまえばなす術がなくなってしまいます。10年、20年と長期投資を続けても買値を上回るどころかずるずると下げ続けてしまうケースが圧倒的に多いことは、平成バブル崩壊後の日本株の動きをみれば明らかです。傷口が浅いうちに適切な対処をしておく、これが特に日本株の個別銘柄に投資する際には非常に重要です。

「損切り付の長期投資」であればOK

 筆者は頭ごなしに長期投資を否定しているわけではありません。しかし、長期投資が大失敗を生み出す大きな要因となっていることはまぎれもない事実です。したがって、大失敗をしないような長期投資を心がけるべきです。それは、「損切り付の長期投資」です。

 いくら長期的に有望な会社を見つけたからと言って、その会社の株価が右肩上がりに上昇を続けるとは限りません。隠れた悪材料が露呈して株価が大きく下がってしまう可能性も十分にありますし、高い将来性を信じていても、突然業績が急激に失速してしまうことも珍しくありません。

 そのため、将来有望な会社に長期投資すると決めても、「25日移動平均線を割り込んだら取りあえず損切りする」「買値から10%下がったら取りあえず損切りする」「直近の安値を下回ったら取りあえず損切りする」といった損切りのルールもしっかり決めておくべきです。そうすれば思惑どおり株価が右肩上がりに上昇すればそのまま持ち続ければよいですし、期待に反し株価が値下がりしても損切りの実行によって損失を最小限に抑えられます。

 そして状況が好転すればまた同じ銘柄を買えばよいのです。長期投資であっても放っておいてよい時代ではありません。選んだ銘柄と自らのルールや市場動向との関係を定期的に確認することは必要です。

 バブル崩壊後の日本株の値動きをみても分かるとおり、すでに右肩上がりの相場は終焉しています。「バイアンドホールド」で報われる時代はとっくに終わったのです。確かに右肩上がりに上昇する銘柄も数多くあるでしょう。しかし、事前にそうした銘柄を個人投資家が100%に近い確率で見つけ出すのは非常に困難と言わざるを得ません。

 そんな相場環境だからこそ投資の原点に立ち返り、「できるだけ安く買って高く売る」「株価が下降トレンドにある株は持たない、買わない」ことが重要です。

 損切りさえ確実に実行していれば大失敗は防げます。「長期投資で持ち続ければ最後には報われる」という甘い誘惑に負けず、損切りの重要性を理解し、たとえ長期投資目的で買った銘柄であったとしても確実に損切りを実行するようにしましょう。