再び最高値更新のナスダックとパンデミック

 6月23日(火)の米国株式市場では、新興企業向け株式市場のナスダック総合指数が8日続伸し、連日で過去最高値を更新しました(終値1万131.37ドル)。

 一方で、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は、6月19日、新型コロナウイルスの流行について「世界は危険な新局面に入った」と警鐘を鳴らしました。18日には1日当たりで過去最多となる15万人以上の新規感染者が確認されており、「パンデミックが加速している」と強調しました。世界の累計感染者数は900万人を超え、死者数は46万人と増加。米国とブラジル(108万人)だけで世界全体の感染者数の約4割を占めている状況となっています。

 その先頭を走っている米国の新型コロナウイルス感染者数は約229万人、死者数は12万人を超えました。先週、感染が拡大した州は22州でしたが、今週に入って33州と増えています。早期に経済を再開したフロリダ州では1日の感染者数が過去最大となり、いまや米国は世界最大の感染者数の国であり、いまだに感染者数が増加している国です。

 その米国で株式市場が活況なのは、経済活動が再開され、発表される経済指標も予想よりよい数字が次々と発表されたことから、経済が回復方向にあるとの期待が先行していることが大きいようです。新型コロナウイルス感染第2波も織り込み済みという見方も出てきています。

 しかし、バンク・オブ・アメリカが16日に公表した6月の世界の機関投資家調査(対象200社超、運用資産6,000億ドル[約64兆円])では、8割弱が足元の株は「買われ過ぎ」と答えたそうです。

 ところが、割高と見るプロの投資家が急増している一方で、個人投資家は一段と先高観を強めているようです。個人投資家はネット証券の売買手数料ゼロや政府の給付金を背景に流れに乗っており、このまま株価調整がなければ、株高による資産効果によって米経済の個人消費が増え、実体経済の改善が進む可能性もあります。

 しかし、発表された経済指標が予想よりよい数字とは言え、マイナスはマイナスの数字であり、前年比で落ちています。そして、米国感染者の急増が続けば、再開された経済活動は再び制約を受け、回復期待を後退させることになります。

 また、政府の財政支援や中央銀行の金融支援にも限界があることを考えれば、株の戻りにも限度がありそうです。株価が元の水準近くに戻っても実体経済が戻らなければ、期待や勢いだけでその乖離(かいり)を維持するのは無理があります。そろそろ乖離が縮まるシナリオにも警戒しておく必要がありそうです。

中国とのデカップリング(分断)

 6月22日、ナバロ米大統領補佐官(通商担当)が米FOXテレビのインタビューで、司会者から中国との貿易合意は「終わったか」と聞かれ、ナバロ氏は「終わった」と答えました。この報道を受けて、23日の東京時間、ドル/円は107.10円近辺から106.74円近辺まで急落し、日経平均株価も一時180円下落しました。その後、トランプ米大統領がツイッターで「依然として有効だ」とナバロ氏の発言を打ち消したため、株は戻しましたが、ドル/円は若干戻しただけで、これをきっかけに頭が重たい地合いとなりました。

 株式市場の活況に比べ、先週のドル/円は小動きでした。週間の値動きも50銭強しかなかったことから、エネルギーが溜まっていたようです。ソフトバンクによるTモバイル株売却に関連した思惑(円転、円買い)も加わり、直近安値1ドル=106.60円近辺の重要ポイントを23日の海外市場で抜けました。5月初めは1ドル=106円割れで円高が止まりましたが、今回も106円を完全に割り込まなければ、106~108円のレンジで再び小動きが続くかもしれません。逆に、1ドル=106円台半ばから後半への戻りが鈍いと、本格的に105円台に突入してくるかもしれません。ここ数年の1ドル=105円台は滞空時間が短かったため、106円を挟んだ上げ下げとなるのか、一気に節目である105円の攻防となるのか注目です。

トランプ氏の言動は全て裏目

 中国との貿易合意については、同じ22日にムニューシン米財務長官は、「我々がデカップリング(分断)する時がくるかもしれない」とFOXビジネスに対して語っています。また、「それは大統領が検討する可能性のある問題だ」とも説明しました。

 そのトランプ氏は、18日時点のツイッターで、米国が「中国との完全なデカップリング(分断)という政策オプションを維持している」と述べています。前日にUSTR(米通商代表部)のライトハイザー代表が下院歳出委員会の公聴会で、米中の完全なデカップリングは「現状において合理的な政策オプションとは思わない」と述べたことを打ち消したツイートですが、悪化している中国との関係について、これまでで最も強い言い回しとなっています。

 今後の対中通商問題について側近から両方の意見が出てきましたが、トランプ氏は両方とも否定しています。中国を揺さぶる狙いがあるのかもしれませんが、トランプ氏の頭の中に「デカップリング」の選択肢があるのは間違いなさそうです。

「デカップリング」に対して23日の東京市場では株も為替も売りで反応したため、今後もこの問題については注視しておく必要がありそうです。

 このところトランプ氏の言動は全て裏目に出ており、マーケットにとってトランプリスクはますます高まることが予想されます。