社会人になってすぐ投資を始め、33歳の若さで1億円の資産を築いた井上はじめさんのインタビュー、後編をお届けします。投資信託の積み立てを行っている人の多くは、長期保有を前提としていますが、井上さんは、ある条件に達したら売却して再投資するという方法を取っています。その理由、さらには数年前から行っている不動産投資や優待株投資についても聞きました。

軽減税率終了前に売却して現金化した

──前回、リーマン・ショック後、800万円が2,200万円に増えたとお伺いしました。今はどれくらいになっているのですか。

 実は2013年末にいったんすべて売却したんです。当時、軽減税率が適用されていて、2013年中に売却する場合は含み益の約10%の税金を払えばよかったんですね。でも、その年で適用が切れるので、2014年になると20%払わなければいけなくなる。僕は1,400万円の含み益があったので、2014年以降だと100万円以上、損をしてしまう。だったら、利益を確定してしまおうと思ったんです。

──売却したお金はどうしたのですか?

 すべて現金化し、再び積み立てを始めました。ただし、資金的に余裕ができたので、月々の積み立て額を増やしました。また、1種類だけでなく、ほかのファンドも試しました。

──どれも世界経済の成長に連動するものですか。

 ひと口に世界経済に連動するファンドといっても、いろいろなタイプがあります。世界各国のGDP(国内総生産)比率に合わせて投資配分を決めているものもあれば、すべて20%ずつなどと均等に配分しているものもあります。また、株式だけでなく、債券、不動産などにも投資するバランス型も少なくありません。それらをひと通り試してみたわけです。それと、国や地域別のファンドを複数買い、先進国株式ファンド70%、新興国株式ファンド20%、米国株式ファンド10%、などと、自分なりのポートフォリオを組んだこともあります。

──それはもうやめたんですか。

 どれを何%にして、どれを何%にしようなどと考えていると、ワケが分からなくなってくるんです(笑)。それぞれの値は日々変動するので、リバランスも必要ですし。それに何の知識もない僕が頭を悩ませたところで、たいしたポートフォリオができるとは思えない。それなら、元通り、いろんな国や地域に投資するファンドでいいかなと思いました。

含み損でも売らず、上昇するのを待つ

──2013年末に売却し、改めて積み立てを始めてからも、たまに売却したりしていますか?

 僕は売却のタイミングを決めています。積み立てを始めてすぐ含み益が出たときはプラス20%になったら売る。反対に含み損になったら売らずに上昇するのを待ち、プラスマイナス0%(評価損益0%)に戻ったら売るというものです。だから、何度か売却しました。

──インデックスファンドの積み立てを行っている人には、老後資金を貯めるためという人が多いですよね。だから、途中で売却する人は多くありません。井上さんが、途中で売却するのはどんな理由があるのですか。

 含み益が出たらプラス20%で売るというのは「あまり欲張ってもしょうがない、20%増なら十分だろう」という思いがあるからです。もちろん、30%増、40%増になる可能性もあります。でも、景気は循環するというセオリーを考えると、どこかで下落に向かいます。でも、僕にはそれがいつかを予測できない。であるなら、自分なりにルールを決めて、それに従おうということです。

──後々、30%増、40%増になっても後悔しませんか?

 それはまあ…後悔しないことはないですが(笑)、割り切るようにしています。20%でもちゃんと増えてますし利益が確定したら安心もできますしね。

雑音に惑わされず、世界経済の成長を信じて、きっちりと利益確定していくスタイルは一貫していて気持ちいい。ブレない投資哲学はぜひ見習いたい。

──含み損になったら売らない、というのは?

 含み損になるのは基準価額が下がったからじゃないですか。つまり、リーマン・ショックのときと同じで、より多く買えるようになった。当然、積み立てを続けたほうがトクだということです。

──では、いったん減っても、買値水準に戻ったら売るという理由は?

 例えば、今回のコロナ・ショックのような事態に見舞われると、けっこうショックなんですね。大きく増えているわけだから、少し基準価額が下がっただけでも、マイナスが大きくなる。それが何日も続くと、身が引き裂かれるような思いがして、精神的にツライ。それならば、0%=買値水準に戻った時点で利益を確定してしまおうと。

──そのとき下落してもいつかまた上昇する可能性が高いわけですよね。

 それはそうなのですが、場合によっては5、6年待たなければならないかもしれません。僕が積み立てを始めたのはリーマン・ショックの時期で、もしも2007年8月の時点で5,000万円とか積み立てていたら、その後3,000万円くらいまで下がってそれが5年くらい回復しないってことです。結構辛くないですか?

 それと僕の場合は、もう1つ売却する理由があります。10年間投資を続けるうちに、いろいろと興味が広がってきたんですね。優待株投資をやってみたいとか、不動産投資も面白そうだなとか。それらを実行するには資金がいるわけで、だから売却するようになりました。

──もう1つ、質問です。売却にともなう税金のことを考えると、売却→再投資という方法は利益を薄くする可能性がありますよね。その点はどのようにお考えですか。

 それは否定しません。ただ、そこはケースバイケースでしょうね。売却した資金を元手に新しいことを始めて、それが大きな利益を生んだら、税金を払ってでも売ってよかったということになりますし。

──何が正解かは、いちがいに言えない?

 はい、そう思います。だから、結局は自分が納得できる方法を選ぶのがベターではないでしょうか。僕は景気が上がっても下がっても全く気にしなくていいので、今の売却ルールを結構気に入ってます。

不動産投資は安易な気持ちで手を出すのは危険

──今の資産の内訳をお聞かせいただけますか。

 ざっくり言うと、投資信託の運用資産がすべて合わせて3,600万円ほど、数年前に始めた不動産資産が9,500万円ほど、優待株をメインに個別株が500万円ほど、ほかに交通事故のときに支払われた保険金が1,000万円ほどあります。

──全部合わせると1億5,000万円近いですが。

 不動産は現金で購入したわけでなく、借金もあればローンも残っています。それを差し引くとまもなく約1億円ということです。

格安物件を発掘し、リフォーム知識を駆使してステキ物件に再生させた神奈川県の物件。不動産投資の話になるとイキイキ口調も明るくなった井上さん。誰もが借りたくなるような理想の物件を作り上げていく工程がとても楽しいとのこと。

──不動産投資についても少し聞かせて下さい。具体的にはどんな投資なのですか。

 格安な物件を探して購入、できるだけお金をかけずにリフォームし、賃貸物件として貸し出しています。結婚当初、僕ら夫婦は家賃10万円のアパートに住んでいたんですね。転勤による会社の家賃補助が出ていたので3万円程度の負担で住めていたのですが、交通事故にあって会社を辞める時、もちろんその補助もなくなってしまって。それで、住居費を節約する方法はないかといろいろ調べているうちに不動産投資のことを知り、挑戦することにしたんです。

──不動産投資ってお金持ちの投資というイメージがありますよね。

 僕もそう思っていました。でも、必ずしも莫大なお金が必要というわけでもないんです。実際、最初は築43年の4階建て中古マンションの一室を購入したのですが、価格は280万円でした。神奈川県内の、そこそこ大きい町で、最寄りの駅から徒歩5分ですから、とくに不便というわけでもない。探せばそういう物件もあるんです。しかも、リフォーム費用も自分でできることは自分でやったりしたので、150万円程度で済みました。その部屋を家賃6万5,000円で貸し出しました。

──今は何部屋か所有しているのですか。

 マイホーム以外に、マンション3部屋とアパート1棟を所有しています。家賃収入は合計月50万円くらい。運用コストと返済を引いても毎月20万円以上手元に残ります。マイホームも売却したら、売却益が出ると思います。

──そう聞くと、やってみたくなります(笑)。

 でも、安易な気持ちで手を出すのはお勧めできないです。あくまでも僕の感覚ですが、市場に売りに出ている物件のなかで、投資対象として優れているのは10%以下でしょう。それ以外の物件だと失敗に終わる可能性が高い。だからある程度の専門知識が必要です。僕の場合も、かなり本を読んだし、勉強もしました。勉強するのがとても楽しく、知識もどんどん身についていきました。おかげで住居費も0円になりましたし、相当、自分の性格や能力に合っていたんだと思います。

──それから優待株も保有されているんですよね。こちらも楽しいですか?

 はい。とても楽しいです! 僕は吉野家やすかいらーく 、クリエイト・レストランツ、など飲食業界の優待株を多く持っているのですが、食事券などが届くととってもうれしい! 節約がモットーなので、基本、外食はしないのですが、食事券をもらうと必ず行くので、行動範囲が広がります。優待株への投資は、日常にアクセントをもたらしてくれる良さがあると思います。

──最後に、億万長者になりたい! という読者に、アドバイスをいただけますか。

 ここ数年、日本経済は厳しい状況にあるので、収入が増えない、生活が苦しいという人も多いと思います。まして今回のコロナ・ショックで経営が傾いた自営業の方や、給与がカットされた、ボーナスが出ないといった会社員の方もいるでしょう。しかも、コロナ・ショックが落ち着いても、すぐには収入増が期待できそうにない。となれば、やはり自分で防衛策を考えるしかないでしょう。

──まずは節約してお金を貯めるのがおススメですか?

 はい、それができたら、世界経済の成長に連動するファンドの積み立てを始める。それが最も確実な方法だと僕は思います。

──自分にできることを無理なく続けることで1億円も夢じゃないと思えました。知識もセンスもいらないと言っていただけてやる気が湧いてきますね。今日はどうもありがとうございました。

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