今日は、「優待タダ取り」と言われる手法について解説します。ネットで「優待タダ取り」と紹介されることが多いですが、正確に言うと、「株主優待を、低コスト・低リスクで得る方法」です。取引手数料・貸株料などのコストがかかります。

株主優待制度とは

 日本には、世界でも珍しい「株主優待」という制度があります。上場企業が株主に感謝して贈り物をする制度です。上場企業が株主に、お中元やお歳暮を贈るようなものです。

 株主への利益還元は、通常、「配当金」の支払いで行います。「株主優待品」は、配当金とは別に、株主に贈られるものです。魅力的な制度なので、積極的に活用したら良いと思います。

「つなぎ売り」とは

「つなぎ売り」を利用して、株価下落リスクを回避しながら、株主優待を獲得する方法

 株主優待に魅力を感じて、株式投資を始める方もいるでしょう。ただし、株式投資である以上、投資した後、株価が下落することもあります。

 優待は欲しいが、株価変動のリスクは負いたくない時、活用したらいいのが「つなぎ売り」です。「つなぎ売り」は信用取引の一種で、信用口座を開設しないとできません。

<優待取り「つなぎ売り」のイメージ図>

【参考1】「つなぎ売り」とは
 株を借りてきて売ることを、「信用売り」と言います。株を持っているが、持っている株を売らず、別途借りてきた株を売ることを「つなぎ売り」と言います。株を保有したまま、株が値下がりするリスクをヘッジする効果があります。この状態で、権利確定日を迎えると、優待をもらう権利が確定します。権利が確定したら、保有している株を、借りてきた株の返済に充てれば、取引が完結します。保有株を、返済に充てることを「現渡(げんわたし)」と言います。

【参考2】「から売り」とは
 保有している株を、借りてきて売るのが「つなぎ売り」でした。それに対し、保有していない株を借りてきて売ることを「から売り」と言います。から売りした株が、値下がりした後に買い戻せば、利益が得られます。たとえば、1,000円でから売りした株が、900円に値下がりしてから買い戻せば、1株につき、100円の利益が得られます。

 ただし、から売りした株が、値上がりしてから買い戻すと、損失が発生します。

「つなぎ売り」のやり方:現物買いと信用売りを同じ株数ずつ行い、優待の権利を得たら、現渡(げんわたし)で決済する

「つなぎ売り」は、信用取引の一種です。以下の方法で、優待取りに使うことができます。

 3月末に100株保有すると、魅力的な株主優待が得られる銘柄を「A社」として、解説します。以下の2ステップで、優待取りが完結します。

<ステップ1>
 A社100株の「買い」と、A社100株の信用取引の「売り」を、両方とも行います。買ってから売っても、売ってから買っても、どちらでも問題ありません。同じ価格で行うのが理想です。

 3月末基準の優待を得るためには、3月27日(権利つき最終売買日)までに、ステップ1を行う必要があります。3月27日までに、ステップ1を行い、3月30日(権利落ち日)までポジションを持つと、3月末基準の優待を得る権利が確定します。

<ステップ2>
 優待の権利を得たら、速やかに(原則3月30日に)、現渡(げんわたし)で決済してください。現渡とは、保有するA社100株を、信用で売建(うりたて)しているA社100株の返済に充てることです。これで、「優待取り」は完結です。

 3月31日に現渡することも返済期限内なので可能ですが、貸株料を払う期間が長くなるので、忘れずに30日に現渡しましょう。

 ステップ1で、A社100株の「買い」と「信用売り」を同じ価格(たとえば1,000円)で行えば、株価が上がっても下がっても、損も得もしません。

 株価が1,000円から900円まで下落すると、買った株に10,000円(値下がり100円×100株)の含み損が発生しますが、同時に、信用で売った100株には10,000円の含み益が発生します。合わせると、損も得もしません(売買手数料は考慮しないベース)。

 逆に、株価が1,000円から1,100円まで上昇すると、買った株に10,000円の含み益が発生しますが、同時に、信用で売った株に10,000円の含み損が発生しますので、合わせると、損も得もしません。

「優待は欲しいが、株価下落リスクは負いたくない」時に、有効な方法です。優待の権利を得たら、速やかに、現渡で決済してください。それで、完結です。

つなぎ売りを行うにあたってのご注意

6月末基準の株主優待をもらうためには

 約定日から受渡日までの日数は、2営業日です。2020年6月末の株主に贈られる株主優待の権利を得るためには、6月末日(30日)の2営業日前である、6月26日(金)までに、株を買わなければなりません

(約定日)=株の売買をする日
(受渡日)=株の買い手が株主になる日、株の売り手が株主でなくなる日
(営業日)=証券取引所が開いている日。土曜日・日曜日・祭日は含まれない。

 株を買ったら、すぐに株主になれると思う方もいるかもしれませんが、そうではありません。株の売買結果に基づいて株主名簿が書き換えられるまでに、2営業日かかります。

 2020年6月末に優待の権利が確定する銘柄の、権利付き最終売買日は、以下の通りとなります。

<2020年6月末基準の優待取りの権利付き最終売買日>

注:楽天証券が作成

 2020年6月末(6月30日)に配当金や優待の権利を得る銘柄を例に、上の表を説明します。6月30日に株主名簿に掲載されていないと、6月末基準の配当金や優待を得る権利は得られません。

 6月30日に株主名簿に掲載されるためには、その2営業日前の6月26日(金)までに株を買う必要があります。そうすると、6月末の株主に与えられる配当金や株主優待を得る権利が得られます。

 したがって、6月末基準の優待を得るための、株の買いとつなぎ売りは、6月26日までにやる必要があります。

つなぎ売りを使った優待取りにかかるコストが、優待で得られるメリットよりも、大きくならないように注意

 最初に、お伝えしたように、「優待タダ取り」はできません。売買手数料や、貸株料などのコストがかかります。優待取りにかかるコストが、優待で得られるメリットより大きくならないように、注意する必要があります。

<A社100株のつなぎ売りにかかる主なコスト>
・A社100株の買い付けにかかる手数料
・A社100株の信用売りにかかる信用取引手数料
・信用売りするA社100株を借りるための貸株料

 その他、制度信用で信用売りした場合、まれに「逆日歩(ぎゃくひぶ)」と言われるコストがかかることもあります。楽天証券の一般信用・短期を使う場合は、逆日歩は発生しません。

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