勢いが止まらない新型コロナウイルス・ショック後の株価反発。銘柄によっては上場来高値更新も達成しています。でもその一方で、株価上昇の中、損失が拡大して苦しんでいる投資家がいます。なぜでしょうか。

利益が出た人・上昇に乗れなかった人

 世界的な株高が止まりません。米国ではナスダック指数が史上最高値を更新しそうな勢いです。日本でもマザーズ指数が2018年以来の高値、日経平均株価も3月の安値から40%ほどの急上昇となっています。

 一部の個人投資家は下落時に株を買って今回の上昇に乗り、利益を出すことができました。しかし、多くの個人投資家は上昇に乗ることができず、株価上昇を眺めているだけのようです。

 眺めているだけなら、利益を取り損ねるだけで済みますが、日経平均先物や指数連動型ETF(上場投資信託)を空売りしたり、日経ダブルインバース上場投信(1357)を買い、損失が積み上がっている投資家もいます。

個人投資家に人気のETFとは?その理由は?

 日経ダブルインバース上場投信は、個人投資家に非常に人気が高いETFで、日々の売買高・売買代金ともに常に上位に位置しています。

 今後株価が下がる、と予想した場合、下げを利益につなげるためには通常日経平均先物、株価指数連動型のETFや個別銘柄を空売りすることになります。

 しかし日経平均先物を空売りする場合は先物の口座を開設する必要がありますし、ETFや個別銘柄を空売りするには信用取引口座の開設が必要となります。

 しかし、日経ダブルインバース上場投信は、日経平均株価の逆の値動きをするよう設計されているため、日経平均株価が上昇すれば下落し、日経平均株価が下落すれば上昇します。

 そのため、先行きの株価が値下がりすると読んだ場合、この日経ダブルインバース上場投信を買えば、先物口座や信用取引口座を作らなくとも、空売りと同じ効果を得ることができるのです。

値下がりを続ける中の買いで個人投資家が撃沈

 しかし、コロナ・ショック後の上昇で、日経ダブルインバース上場投信の株は、大きく下落しました。

 今でも日経ダブルインバース上場投信に買い向かっている投資家がいますが、損失が膨らみ続けていると思います。

 添付の株価チャートをみると、4月初旬に25日移動平均線を割り込み、下降トレンドに転じたあとは、ずっと下降トレンドが続いています。筆者であれば、絶対に買わないチャートの形です。しかしこんな中をナンピン買いで買い向かっている個人投資家が相当数いるのです。

NF日経ダブルインバース上場投信 (1357) 2020年1月~6月10日

 投資スタイルや投資手法は人により異なりますので、筆者の考え方が正解というわけではありません。でもやはり、いくら今後の日本株は下がると予想したとしても、下降トレンドにあるうちは買いを入れない、というのが重要だと思います。それだけで、損失の拡大を避けることができます。

 もし日本株が本格的なバブル相場となれば、日経ダブルインバース上場投信は今後も下がり続けることになります。もし保有していれば、さらに損失が膨らんでしまいます。

 そうならないためには、下降トレンドの間は手を出さず、上昇トレンドになったら買うようにすればよいのです。

 確かにファンダメンタルの面でみれば、株価がここまで上昇するのはおかしいと思うのが自然です。筆者だってそう思います。

 でも、現に株価は大きく上昇しているのです。急落相場やバブル相場では、ファンダメンタルを軸に考えると、逆に大失敗してしまうことを肝に銘じておいてください。

保有株のヘッジとして使うのはアリか

 中には、日経ダブルインバース上場投信を、純粋な日経平均株価値下がりを狙っての買いというよりは、保有株のヘッジの意味合いで買っている方もいるでしょう。

 しかし、筆者は個人的にはあまりお勧めはしません。なぜなら、保有する個別株と日経平均株価が異なる動きをすることが多々あるからです。

 よくあるのが、保有する個別株はそれほど上昇していない一方、日経平均株価が大きく上昇しているため、日経ダブルインバース上場投信は大きな値下がりとなり、トータルでみてマイナスになってしまっているというケースです。

 時には、保有株は値下がり、日経平均株価は値上がりという「股裂き状態」に陥ってしまうこともあります。

 また、日経ダブルインバース上場投信は、以前のコラムでご説明した「先物型ETF」に該当します。そのため、長期間保有を続けると減価していきます。現に、日経平均株価は今年の高値にまだ到達していないにもかかわらず、日経ダブルインバース上場投信はすでに年初来安値を更新してしまっているのです。

参考:先物型ETFの説明(日本取引所グループHP)

 したがって、筆者は保有株のヘッジに日経ダブルインバース上場投信を使うよりは、保有株そのものが下降トレンドになったら売却する、という方が確実だと思います。その上で、日本株の突然の急落に備えて必要であればプットオプションを買っておけばよいでしょう。

 2・3月のコロナ・ショックの急落時は「さすがに売られすぎ」「そろそろ下げ止まる」として株価の動きに逆らって買い向かった投資家が撃沈しました。

 そして今、「さすがに上がり過ぎ」「そろそろ下がるはず」として株価の動きに逆らって空売りしたり、日経ダブルインバース上場投信を買った投資家が苦しんでいます。

 これらは全て株価のトレンドに逆らった投資行動をしたことによって引き起こされています。

 将来を予想して決めつけるのではなく、株価のトレンドに沿って自然体で動くだけで、大失敗を防ぐことができます。コロナ・ショックの急落やその後の急騰に適切な対処ができなかった…という方は、ぜひ今後試してみてはいかがでしょうか。