先週の為替相場振り返り

 先週6月5日(金)の米雇用統計を受けて、ドル/円は一気に109円台後半まで上昇しました。

 それまで終値は106円台、107円台が1カ月半続いた後、先週2日(火)に1ドル=108円台に上方ブレイク。この日は1カ月半ぶりに108円台の引けとなりました。

 この1ドル=108円台への上方ブレイクで一気に噴き出した上昇圧力はしばらく弱まるかと思っていたところ、翌3日(水)は弱まったものの、4日(木)、5日(金)には2段ロケット、3段ロケットが待ち構えていました。そのロケットエンジンとは、4日のECB(欧州中央銀行)理事会と5日の米雇用統計でした。

 4日のECB理事会では、PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)の6,000億ユーロ増額を決定しました。予想の5,000億ユーロを上回ったことから、ポジティブサプライズとなり、ユーロは150ポイント以上上昇。ユーロ/円も2円近く上昇しました。このユーロ/円の動きに引っ張られたドル/円は109円台に乗せました。

 そして5日の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が予想の▲750万人に対して+250万人、失業率も前月(14.7%)より悪化の予想(19.0%)に対して、13.3%に改善されました。

 マイナス予想の雇用者数がプラスになり、そして失業率も改善されたためポジティブサプライズとなりました。NYダウは一時1,000ドル近く上昇し、金利も上昇。ドル/円は109円台後半まで上昇したのです。

 先週のNYダウ平均株価は経済回復期待によって、週間で1,700ドル以上上昇し、金利も上昇したこともドル/円、クロス円の追い風となりました。

クロス円の際立った上昇

 このように第3ロケットエンジンに点火してドル/円は107円台から109円台に上昇しましたが、この為替相場を引っ張ったのはクロス円(*)の上昇でした。

*クロス円:ドル以外の通貨との対円レートのこと。ユーロ/円やポンド/円などの総称。クロス円の上昇は、ドル以外の通貨高(ドル安)と円安の組み合わせのため、「ドル安・円安」地合いではクロス円は上昇しやすくなる。逆に「ドル高・円高」の地合いではクロス円は下落しやすくなる。

 先週5日はドル高となりましたが、それまでの相場の地合いは株価上昇に支えられた「ドル安・円安」の地合いが続いていました。ここでは、ドル/円はドル安によるドル売りと、クロス円の買いとの綱引きによって主体性のない動きをしていました。しかし、結果的にクロス円の買い圧力に引っ張られ、下値を切り上げ1ドル=109円台後半まで上昇を続けたという構図になりました。

 先週のユーロ/円は週間値幅で約5円、終値ベースでも前週比約4円の円安で、5月後半にEU(欧州連合)復興基金創設の話が出てからユーロは動意付き、ユーロ/円も上昇し始めています。上昇する前は1ユーロ=115円台でしたから、先週の124円台まで約9円近く上昇したことになります。

 その他のクロス円も先週は際立って上昇しています。原油上昇に支えられた資源国通貨である豪ドル/円は5円超の週間値幅、EUとの離脱交渉進展期待が高まったポンド/円に至っては7円超の週間値幅となっています。

 これらクロス円の上昇に比べると、先週のドル/円の週間値幅は約2円50銭と、クロス円の値幅の半分以下でした。クロス円に焦点を当てると、3週連続の「円」全面安となっていました。

FOMCの金融緩和姿勢に注目

 今週に入ると、ドル/円もクロス円も利食いや、10日のFOMC(米連邦公開市場委員会)を控えたポジション調整によって下落しています。9日のドル/円は再び107円台での引けとなりましたが、クロス円は第2エンジンの水準です。今週は利食い調整後、再び先週の高値に向けて上昇していくのかどうか、あるいは調整が続くのかどうかに注目です。

 まずは引き続きクロス円に注目です。クロス円の上昇要因であった、それぞれの個別要因の期待がはく落すると逆の動きとなるため注意が必要です。

 例えば、期待が高まっているEU復興基金も、ドイツの経済相が難航を警告するなど加盟各国の調整困難が予想され、18~19日のEU首脳会議での加盟27カ国の全会一致での承認に向けて、11日のユーロ圏財務相会合ではどのような議論が出るのか注目です。

 ポンドも同じです。EUとの交渉進展期待が高まりましたが、まだ具体的な動きは見られません。交渉進展が見られないと、ポンドは伸び悩み調整が続くことになりそうです。

 そして、10日にはFOMCがあります。今週に入り、FOMCでYCC(イールド・カーブ・コントロール:長期金利操作)が導入されるとの見方が浮上したため金利が下がり、ドル/円を107円台に押し下げました。YCCが導入された場合、米10年債利回りが低い水準で固定されて上昇が見込めなくなるため、ドル安要因となるからです。

 FOMCでは政策変更はないとの見方が大勢ですが、どのような議論がされるのか、FOMC後のパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の記者会見には注目です。

 先週5日にFRBは、今週の国債買入れ額を1日当たり45億ドルから40億ドルへと、5億ドル減らすと発表しました。4月の国債を無制限に買い取る姿勢から、経済の活動再開や株価上昇を背景に徐々にブレーキを踏み続け、購入額を減らしてきましたが、このまま金利上昇を容認する姿勢を示すのかどうか。経済回復が後退すれば、いつでも購入額を増やすと言及すればマーケットは安心し、株価は再び上昇軌道に入るかもしれませんが、もし、金融緩和に強い姿勢で臨むことを示さなければ、株価にとってはマイナス材料となります。

 為替にとっても株価上昇に支えられたドル安・円安でしたので、株価が調整されると逆の動きとなるため注意が必要です。

 久々に吹き荒れた先週の為替相場でしたが、第4ロケットエンジンに点火するまでに、クロス円が失速するのかどうか注目です。