世界中の1,300万人のStayHomeを支えた「あつまれ どうぶつの森」

 任天堂のゲーム機ニンテンドースイッチ版のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」(以下、あつ森)はシリーズ最新作で、かつ最大のヒット作になろうかという勢いで売り上げを伸ばしています。

 任天堂の決算報告によれば、発売6週間での売り上げが1,300万本を記録し、そのうちかなりの数はダウンロード販売によって稼いでいるようです。

 この数カ月、世界中でStayHomeが呼びかけられ、かつストレスのある時期を過ごしてきましたが、もしかすると世界中で1,300万人に精神的癒やしと安定をもたらしたのは、このソフトだったのかもしれません。

 何せこのソフト、悪いことができません。同じ島の住民に斧を振るっても友人の家を破壊しようとスコップで突撃しても、武器はかすめるだけで当たることはありません。島内に置かれたアイテムは誰でも持ち放題ですが、室内に保管すれば泥棒することもできません。

 一方で、自由にできることはたくさんあります。虫取り、魚釣りはもちろんですし、自宅のレイアウトデザイン、庭や島内のカスタマイズデザイン、身にまとう服や帽子のオリジナルデザインなど、穏やかな気分で、無限に時間をつぶせる要素が盛りだくさんです。

 それぞれが好きなことをやって満足できるのがこのゲームの奥深いところで、わが家でも7歳になったばかりの長男は虫取りと魚釣りを自宅にいながら楽しんでいます。

 一方で、もうすぐ5歳になる娘は「ANNA SUI」や「MARC JACOBS」のデザイン服、そしてあまたのデザイナーのオリジナル服を入手し(私がサポートしている)、毎日ファッションショーとして着替えては楽しんでいます。ファッションブランドにとっては、知名度アップに役立つビジネスツールにもなっているようです。

 そして、この「あつ森」には「金利」と「株式投資」の要素もあります。

FTも注目!中央銀行の超低金利政策と「あつ森」の関係?

「あつ森」の世界には、あの英経済紙Financial Times(フィナンシャル・タイムズ)も注目しています。4月28日付「Virtual rate cut forces Nintendo gamers into riskier assets」は、たぬき銀行が金利レートを月0.5%から月0.05%に引き下げたことは世界の超低金利政策に連動しており、仏銀行ソシエテジェネラルのストラテジストが「次の論理的なステップは量的緩和策に違いない(もちろんジョーク)」というコメントを紹介しています。

 無人島で暮らしているというのに、この島にはきちんと通信環境が整っていて、スマホも圏外にならない(!)し、ATM(現金自動預払機)が設置され銀行預金をし、資産を増やすことができます。ただし金利は小さなものとなっています。ま、日本の年0.001%よりは高いわけですが(楽天銀行でマネーブリッジ[*]を設定すればこれよりは高い!)。
*マネーブリッジ:楽天証券口座と楽天銀行間の口座連携サービス

 そのため、カブとサソリ(あるいはタランチュラ)という投機にもまた注目が集まっているということも同記事で指摘されています。(サソリやタランチュラは夜中に出没し、うまく捕まえると高値で売れるが、素早く動き、刺されると仮死状態になるハイリスクハイリターンな動物)。

 そう、この穏やかでのんびりとした世界には「カブトレード」の要素があるのです。

4日で半値になることもあれば5倍に上昇することも!カブ価の魅力とリスク

 私もカブ価で「どうぶつの森」内の資産形成をする一人です。最初は子どものゲームプレイをサポートするつもりで、同じ島にアカウントを作ったのですが、むしろ今では私の方が夢中になっては、材木を集め、鉄鉱石を採掘する日々を送っていました。そしてついに、カブにも手を出し始めました。

 このカブ、なかなか投機的です。日曜日の朝にカブ売りがやってきて、そのときが唯一の「買い場」です。その後は月曜から土曜まで午前と午後に値付けが行われ、値下がり局面では4日と待たず半値になるかと思えば、暴騰すると4日ほどで5倍超になります。

 私も102ベル(現地通貨の名称)で購入した900カブを540ベルで売り抜けたときには、子どものアカウントに贈与し住宅ローンを肩代わりしてあげたくらいです(※幸いにして税の概念がないこの島では譲渡益課税も贈与税もかからないのは助かりました。収益から20.315%[復興特別所得税含む]を引かれたり、一定額を超えたら贈与税がかかっていたら大変なことになっていたでしょう。iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)に類する税制優遇口座が求められるところです)。

 しかも、カブ取引はかなりの短期取引を求められます。何せ次の日曜日が到来すると先週仕込んだカブは全部腐って無価値になってしまうからです。このあたりは野菜のカブの性格を残した演出ですが、どうしても短期トレードせざるを得ず、また売買は投機的になりがちです。

カブはリアルの株式投資を学ぶ参考にはならないが、興味を持つきっかけになる

 部屋のレイアウトデザインや島のデザインを自分の好みの美しさでDIYする楽しみは、子どもにとっていい経験となります。子どもには自由に遊ばせてあげてほしいものです。うちの子どもは、初めて到達したエリアには必ず水槽を設定するという謎のミッションを自分に課していますが、楽しそうに遊んでいます。

 そうしたゲーム体験の中で、お金についても少し子どもが学ぶいいチャンスかもしれません。例えば、ローンを組んで家を広げ、借りたお金をきちんと返済するということもお金の勉強の基本として話をしてあげるといいでしょう(金利が0%であるうえ、返済期日がないという甘い借り入れ条件なので、小学校の高学年や中高生ならその話もするといい)。

 カブもまた、子どもにお金を増やす方法として金銭教育のステップにしてみたいところです。ただし、このカブはただのし好品の世界であって、島の経済成長とはまったく結びつきません。せめて、たぬき開発やエイブルシスターズ(ゲーム内に出店するお店の名前)の株式だったらおもしろいのに、と思いますがそこまで期待するのはちょっと高望みでしょう。システムがどんどん複雑になってしまい、子どもが遊べる範囲を超えてしまいます。

 親がもし株式投資をしているのであれば、子どもがやっているカブについて、話をしてみてください。カブ価は、現実の株式投資をモデルにしていることなどを教えてあげ、投資に触れるきっかけとしてみてください。

 そしてできれば、本物の株式投資のおもしろさ、経済成長がそのリターンの源泉となるすばらしさについても、話ができるといいですね。

おまけ:株式投資に学べることがもう一つ

 ところで、このゲームから個人投資家が学べることがもう一つあります。それは「儲(もう)かったときは口をつぐめ」ということです。

 私がゲーム内でカブを5倍の高値で売り抜けた後、島内には奇妙な現象が起きました。なんと、住民全員が「カブで儲けたらしいね」と私に話しかけてきたのです。どうやらこの取引所、顧客の売買履歴が筒抜けになっているという問題があるのです。住民の一人に、儲かったようなら「おごってくれ」とほのめかされたときには、どうしたものかと思いました。

 あなた個人がリアルの株式投資で儲かったときも、仲の良い友人や職場の同僚には話をしないほうが賢明です。たった一人にしか話していないはずが、なぜかみんな知っていたり、飲み会のお会計でおごるようプレッシャーをかけられるリスクがあるからです。ご注意を!