新型コロナウイルス流行による緊急事態宣言の間、在宅勤務あるいは自宅待機という方も多かったと思います。時間に余裕ができたことや、株価の調整が進んだこともあって、この機会に初めて証券口座を開設された方もいらっしゃるでしょう。

 昨年に報じられた年金の「2,000万円問題」で投資に関心を持ち、投資を始めたという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は各種の統計から、個人投資家の傾向、癖(くせ)を紹介して、今後の参考にしていただければと思います。

個人と外国人は逆?日本株の売買動向

 まずは日本取引所グループ「株式分布状況調査」で個人投資家の売買動向を確認してみましょう。株式分布状況調査は年度単位の調査なので、現在公表されている資料は2019年3月末までの取引を反映したデータになります。

 購入金額から売却金額を引いたネットの売買動向を見ると、個人の株取引は売り越しが続いています。一方、海外投資家は大きく買い越すこともあれば、売り越すことがあったりと、相場の状況に応じて機動的に売買をしているように見えます。

▼個人、海外投資家の売買動向(単位:億円)

出所:日本取引所グループ「株式分布状況調査」(2018年度)をもとに筆者作成

下げ局面で外国人は売るけど、個人は売らず

 特徴的なのは、アベノミクス、日本銀行による異次元緩和が始まった時期の売買。2012年12月の衆議院選挙で自民党が与党に返り咲き、翌年3月に黒田東彦氏が日本銀行総裁に就任、4月から異次元緩和が始まります。

 年度単位で見ると、2013年度は個人が約7兆円の売り越しになっている一方、海外投資家は約9.5兆円を買い越しています。両者の過去10年間で最大の売り越し、買い越しが同じ年度という真逆の動きをしています。

 また、2015年度は株価の上昇が一服、下げに転じた局面ですが、この時期、個人は売り越し金額が減り、海外投資家は約5兆円を売り越しました。

▼TOPIXの推移

 個人投資家は相場の上昇局面で売り、下降局面で買うという逆張りをする傾向があると言われます。この時期のデータを見ると、そうした傾向が見て取れます。

個人投資家のお気に入りの業種は?

 次に「株式分布状況調査」で個人投資家がどのような業種の株式を保有しているのかを見てみましょう。ここでも比較のため、海外投資家のデータも載せています。年度末のデータなので、2019年3月時点の保有比率です。

▼個人、海外投資家の業種別保有比率(単位:%)

出所:日本取引所グループ「株式分布状況調査」(2018年度)をもとに筆者作成

 業種は個人の保有比率の高い順に並べています。空運業では株式全体の40.1%を個人が保有しています。小売業、電気・ガス業、サービス業など日常生活に近い業種の保有比率が高いという傾向があります。

 株を買う時は、まずは自分が知っている銘柄をいくつかピックアップして、その中から業績などを比較して買うという方や、身近なニュースを参考にするという方も多いかと思います。また、株主優待を重視するという方も増えているようです。

 BtoCの業種が選ばれやすいのはこうした傾向を反映していそうです。一方で、BtoBの業種は不人気。特に、鉱業については、個人の保有比率が3.6%と低い一方、逆に海外投資家は39.7%という高い保有比率です。

コロナ・ショックと業績不安、株主優待どうなる?

 海外投資家の場合、日常生活に近いかどうかや、株主優待などを考慮することもなく、配当や企業業績、今後の成長性などが重要なので、特定の業種に固執することはさほどありません。業種よりも企業を選別する傾向が強くなるので、結果として、個人と比べて、業種間の保有比率のバラつきが小さくなっています。

 過去のデータを見る限り、個人の保有比率は大きくは変わらないので、2020年3月末の保有比率も2019年3月末と似たようなものになる可能性が高いでしょう。

 そこで気になるのが、コロナ・ショックの影響。空運業は、国際便・国内便ともに大幅な減便、乗客数の減少で厳しい業況です。小売業、サービス業には、百貨店、飲食店、ホテル、アミューズメント施設を経営する企業などが含まれていますので、自粛やインバウンド激減によるダメージが大きい企業が多い業種です。

 読売新聞(5月17日付、朝刊)に「株主優待 期限影響相次ぐ コロナ契機 廃止の動きも」という記事が掲載されました。私もコメントを寄せるなど取材に協力しましたが、株主優待の期限が延長されても、店舗削減で株主優待が使いにくくなったりするなど、この2週間でさらに状況が悪化しています。

 記事では、「今後、新型コロナの影響で企業業績がさらに落ち込めば、優待の廃止や縮小を検討する企業が増える可能性もある。」と締めくくられており、個人投資家が購入する銘柄にも影響するかもしれません。

ETFではリスクを好む?

 これまでは個人の株式保有を見てきましたが、個別銘柄よりもETF(上場投資信託)の取引が多いという方もいらっしゃると思います。個人が保有するETFにどのような傾向があるのか、株式と同様、ETFも日本取引所グループの資料で確認できます。

▼個人が保有するETF等の連動対象別保有比率(純資産総額ベース、単位:%)

出所:日本取引所グループ「ETF受益者情報調査」をもとに筆者作成

 日本取引所グループ「ETF受益者情報調査」は7月末のデータで、12月上旬ごろ公表されます。最新のデータは2019年7月31日時点のものです。2012年から始まった調査で、その後の公表項目の変更で長い時系列データがなかったりという使いにくさはありますが、ETFの保有状況を調べる上では重要な資料です。

 個人が保有するETF等の保有比率をみると、全体に占める比率は2.6%と低いですが、連動対象別のバラつきが大きいことが分かります。不人気な連動対象は日本株指数。金融庁のつみたてNISA対象商品をみると、TOPIX、日経平均、JPX日経インデックス400が挙げられているのに、そちらにはあまり関心がないようです。

 むしろ、レバレッジ型・インバース型が人気です。こちらは楽天証券サイトにある売買代金上位ランキングで日経平均レバレッジや日経ダブルインバースが常連であることと整合的です。個人の日々の取引額が大きく、ストックでも個人保有が多いことになります。

 また、外国株指数、コモディティ指数に連動するETFも人気です。外国株指数に連動するETFについてはリスクやコストを勘案したうえで、つみたてNISAの対象商品に挙げられているETFもあります。

 一方、コモディティ指数に連動するETFはリスク要因が複雑な商品で、一般的には難易度が高い商品という位置づけでしょう。

 楽天証券のサイトで確認すると、信用取引でもコモディティ指数に連動するETFは人気です。最近では、とくに原油価格(WTI)に連動するETFやETNの信用買いが膨らんでいることが分かります(ETFやETNの解説はこちらの楽天証券のサイトをご覧ください)。

ホントに保守的?株ではリスクを取る日本人

 一般的には、家計金融資産に占める預貯金の比率が高いのは、日本人は保守的・安定志向が強く、安全資産を好むからと説明されます。

 一方、これまで各種のデータを確認してきましたが、集計された統計の値を見る限り、個人投資家は、株式やETFではリスクを取りにいく姿勢が強いようです。“かなりクセの強い”売買をする傾向があります。個人間でリスクの取り方に極端な差異があるのかもしれません。

 企業業績の悪化やまだまだ予断を許さない新型コロナウイルスの影響により、今後の株価の見通しは難しく、配当や株主優待も、これまでのアベノミクス・異次元緩和の下で行われてきた方針と変わる可能性があります。

 iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAといった優遇制度を使って、リスクのバランスを取りつつ、老後に備えた長期の資産形成が根付くのかも含め、個人投資家の投資傾向に変化があるのか、新しく投資を始めた個人投資家がどのような行動を取るのか、注目です。