利益が出れば、損失も出る。これが投資の大原則。しかし、ビギナーズラックで成功した後、いい気分で大金をつぎ込み、破綻してしまうケースも少なくありません。初心者にとって、最初の成功体験または失敗体験は、投資を続けるための大事なマイルストーン。最初の一歩をラッキー、アンラッキーで片付けず、そこから学べることをしっかり吸収して二歩目を踏み出すべきです。

 そこで、投資で成功を収めた有名個人投資家6人に「投資初心者にありがちな失敗」と「その失敗を克服する方法」について話を聞きました。全世界株式インデックス・ファンドへの毎月積み立てで成功した資産1億円の井上はじめさん、元証券ウーマンのさぶさん、米国株投資で元手を3倍にしたもみあげさん、運用会社での勤務経験もあり、米国株に精通するたりたり社長さん、日本の割安成長株に投資して17年で資産2億円を築いた弐億貯男さん、さまざまな投資を試し、ビットコインなどで資産1億円に到達しセミリタイアを達成したタクスズキさん。この6賢人も、当然ながら、最初はみんな初心者です。彼らが踏んだ地雷と、そこから学んだこととは?

投資に失敗はつきもの。それをどう処理したかで勝率が変わる!

 積み立て投資で、ある程度の成功を収めた井上はじめさん。次に挑戦したのは株の短期売買です。しかし、利益を求めてのめり込んでしまい、平穏な生活が送れなくなったといいます。

「ブログ、書籍、セミナーなどいろんなところで学び、毎日のように個別株の短期売買をしていたときがあります。それなのに保有していた株が大幅に値下がりし、目に見えた利益は上がりませんでした。毎日チャートを見過ぎたせいで、沖縄旅行中もチャートに夢中で、せっかくの旅行も気持ち的に楽しめずに終わりました。短期売買で利益をガーンと増やそう!と、最初はワクワクして始めましたが、うまくいかなくなると、チャートを見る行為すら苦痛になりました」

 結果、井上さんは短期売買から撤退。以前の楽しく節約&堅実な積み立て投資に戻り、心の平安を取り戻しました。

「資産運用で大きな成果を出すなら、何よりも続けることが大切。そのためには心理的なストレスもなく、どんなに忙しくても、長期的に続けられる投資の方法を模索することが大切です」。

 自分には短期売買は合っていなかった、と振り返る井上さん。自分に合っている投資スタイルは、長期積み立て投資だ、ということを再認識しました。今も「長期積み立て投資」をブレずに続けているのは、この失敗で、自分のスタイルをつかめたことが理由といえます。

仕事中に市場急変!打つ手なしで心がすり減った

 元証券ウーマンのさぶさんの場合、FX(外国為替証拠金取引)や個別株取引で失敗。

「もともとの資金が少なかったため、少額資金でもレバレッジをかけて大きな取引ができるFXの取引を始めました。しかし、急に相場が急変するようなニュースが仕事中に発生してしまい、こつこつ積み上げた利益80万円くらいが一瞬で吹っ飛びました。個別株投資でもTwitterの情報をもとに売買をして、ものすごい額の損切りをしたこともあります」。

 仕事中だったため、何の手も打てず、ただ大事な資金が解けるのを見ているしかなかったさぶさん。そこで学んだのは「仕事で忙しい人に短期売買は向かない」ということだといいます。さぶさんが常日頃、自分に言い聞かせているのは「投資で大切なことは、“心”をすり減らさないこと」。いくら利益を得たとしても、毎日の相場が気になって、本来生きていくために必要な仕事や家庭をおろそかにするのは本末転倒なのです。

知識ナシで成功者のマネをしたら大失敗!

 さまざまな金融商品を試してきたタクスズキさんも、初心者時代、AI関連株やFXで痛い目に合っています。AIに関する知識もなく、急騰しているから手を出しただけ。FXに至っては、成功したトレーダーの本を読んで、その手法をマネして失敗。

「急騰しているから、当たると大きいから、という理由で、よく知らない金融商品を買ってはいけない。分からないままに人のまねをしても成功しない、ということが身に染みました」初心者時代に大切なことは「失敗を通じてしっかり投資や金融商品の勉強をし、自分がどんな投資に向いているかを自己分析すること」だと語ります。

 ここまで3人の失敗は、みな個別株やFXなどの短期売買が原因です。短期売買は少額資金を大きく増やすチャンスもある投資法ですが、資金力も必要ですし、日常生活に負担がかかります。貯金とは違い、株でも為替でも投資の対象となる金融商品は日々、大きく値動きするので、仕事が忙しい人や、心理的なストレスに弱い人は、「簡単にお金持ちになれるような近道はない」(さぶさん)と割り切って、長期投資一本で投資を始めたほうがいいかもしれません。

個別株投資をするなら金融商品の理解、そして損切りが必須

 運用会社での勤務経験もあり、米国株、米国ETFに詳しく、企業分析力もあるたりたり社長さんでさえ、初心者時代、原油ETFで大負けした経験があります。ETFに限らず、原油関連商品は、他のコモディティや地政学的リスクが原因で、ある時突然、予想もつかない動きを見せることがあるため、初心者向きとはいいがたいジャンルです。

「なのに、当初、価格変動の仕組みがよく分からない状態で原油ETFに挑戦し、大きく下落したタイミングですべてのポジションを解約しました。金融商品に投資をする際は、必ず、その金融商品の仕組みや背景について、最低限、理解する必要があることを痛感しました」

 今でもたりたり社長さんはETF投資がメイン。その理由は、セクターETFを購入する際、そのセクターの研究もかねているから。「購入したセクターETFの価格を追ううち、どんどんそのセクターに詳しくなります。その知識は個別株を購入する際の強い武器になります」

 一度は泣いたたりたり社長さんですが、「初心者のうちは失敗も貴重な経験。少額資金なら、損しても金銭的には大きな痛手を負わない中、感情だけが大きく揺れ動くので、ある意味、コストパフォーマンスのいい経験を積むことができます」と、初心者ならではの、少額投資の重要性を語ります。

保有銘柄を増やし過ぎて手が回らず。泣く泣く損切りへ

 2018年9月に米国株投資を始めたもみあげさん。米国株も当初は景気も上向きで、多くの銘柄を購入し、それぞれの上昇具合を確認してはニコニコする、という楽しい毎日を送っていましたが、3ヵ月目に株価急落に見舞われました。

「個別銘柄の株価が下落していくのを見て、頭の中が真っ白に。怖くなり、慌ててたくさんの銘柄を損切りしてしまいました」。

 もみあげさんの敗因の一つは「多くの銘柄に手を出し過ぎたこと」

 初心者のうちから多数の銘柄を保有すると、それぞれの値動きに振り回されて判断が鈍ります。ただ、「損失が拡大したら、いつか戻ると考えるより、スパっと損切りすべき」というポリシーだったもみあげさんは、思い切りよく含み損を損切りし、メンタルもポートフォリオも、すぐに立て直しに成功しました。

損失を相殺することに腐心しすぎて利益を逃す

 割安成長株投資で資産2億円を築いた弐億貯男さんの場合は、「損切りをした際に、利益の出ている銘柄を一緒に売却して、損失と相殺するという行動を取っていた」ことが初心者時代の失敗だと語ります。

「損失は損失で受け入れて、利益の出ている銘柄はなるべく長く保有して利益を伸ばしていかないと資産を増やしていけないのに、とにかく利益と損を相殺したい、という気持ちからの悪手だったといえます」

 損切りだけなく、利益をなるべく伸ばさないことには資産を大きく増やすことはできません。弐億貯男さんのように個別株投資で大成功をしている人はみな、損の処理はそれぞれ異なるとしても、利益を大きく伸ばす能力に長けた人たちです。

 しかし、投資で利益を伸ばすためには「損小利大」(損失は小さく利益は大きく)が必要と頭でわかっていても、なかなか実行できないものです。特に、多くの初心者の方は、損切りが大の苦手です。個別株の場合、持ち株の価値が半分になることも決して珍しくありませんが、初心者は損切りができないまま、膨大な含み損を抱えた株を長期保有(「塩漬け」といいます)するケースも目立ちます。

長期定額積み立て投資なら初心者でも失敗しにくい

 塩漬けを防ぐためには、もみあげさん弐億貯男さんのように、すぱっと損切りできる勇気を持つか、もしくは井上はじめさんのように、投資対象の価格が下がっても、下がった分だけたくさん買えて、その後、値上がりすれば大きな利益になる「長期定額積み立て投資」に投資手法を絞るのが得策といえます。

 まずは少額で投資を始めてみて、自分の性格や、資金力をもとに、自分ならどちらの方法が長く、楽しく、投資を続けられそうかを判断してみるのが、最初の一歩といえます。

有名投資家6人が教える、初心者時代の失敗対処法

 今回、取材した有名投資家6人も「初心者時代に失敗して損するのはある意味、通過儀礼。失敗から学ぶ姿勢こそが大切」という点で共通しています。6人の投資家の失敗の対処法や失敗を克服して成功につながれるための方法を5カ条にまとめてみました。

1.少額資金でいろいろ試して、失敗経験から学ぼう

 1万円投資した金融商品の価格が半分に暴落しても5,000円の損失です。もし100万円投資していたら損失は50万円と大ダメージになります。つまり、少額資金で失敗しても傷が浅いのです。もし投資に興味があるなら、少額資金で失敗を恐れずいろいろな金融商品に投資してみましょう。たくさん失敗しても、その失敗から学び、投資経験を積んで、その後、成功すれば、「安い授業料」と考えることもできます。ただし、同じ失敗を何度も繰り返してはいけません。

2.心理的なストレスを感じるような投資はしない

 投資した金融商品の値動きが気になって、仕事が手につかない、会話も上の空、他のことに集中できない、生活を楽しめない、というのは明らかな危険信号です。本来、投資はあなたの生活を豊かにするために行うもの。投資では金融商品の値動きに付随して必ず心理的ストレスが生まれるので、「自分はどの程度のストレスに耐えられるか」「耐えられないなら、どんな投資方法がいいか」を考えましょう。

3.自分がよく理解していない金融商品には投資しない

2でも見たように、投資に心理的な負荷は付き物ですが、それは利益が出たときも同じ。ビギナーズラックで成功すると、投資が楽しくなってしまい、ついつい自分がよく理解していない金融商品を買ったり、SNSで他人が勧める金融商品に手を出してしまいがちです。自分が理解していないものに投資して失敗しても、なぜ失敗したかも分からないので、その失敗はその後の「経験」や「教訓」につながりません。

4.個別株投資をするなら損切りは必須

 つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)など長期定額積み立て投資はたとえ投資で損失が出ても気にせず続けていくことが大切です。一方、個別株の場合は、投資した金額自体がかなり高額になり、値動き次第では半値以下まで下がってしまう危険性もあるので、損切りは必須。「自分は損切りできそうにもないな」という人に個別株投資はお勧めましせん。さらに、損切りをきちんとするだけでなく、利益をなるべく伸ばす忍耐力も大きな資産を作るためには必要です。

5.少額でも成功体験し、自分に合った投資スタイルを見つける

 初心者卒業に必要なのはやはり「成功体験」です。投資に成功すれば、相場の値動きをもっと理解したい、金融商品についてもっと理解したい、という知識欲や好奇心が生まれ、ますます投資がうまくなります。初心者のうちにきちんとした成功体験を得ることができれば、「自分にはこの投資スタイルがあっている」という自信も生まれます。まずは「これだ!」という成功体験を得るため、失敗を恐れず挑戦を続けることが大切なのかもしれません。

トウシルからアドバイス!失敗経験のない初心者は「XXショック」に備えよう

 つみたてNISAやiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)といった非課税制度の普及もあり、最近は「少額資金を投資信託に毎月定額積み立て投資する」というスタイルで投資生活をスタートする初心者の方が増えました。

 このスタイルなら、ほったらかしでほぼ「貯金」感覚で続けられるので、初心者がおかしやすい失敗からもある程度、無縁でいられます。ただ、相場にはいいときも悪いときもあります。

 つみたてNISAが始まった2018年1月以降の株式市場は世界的に見ても絶好調でした。つまり、今の初心者の方はまだ下げ相場や大暴落をあまり知りません。来るべき暴落やXXショックに備えて、大きな失敗に動じないだけの小さな失敗経験を積んでおくことが大切です。