経済再開への期待と、再開後の感染拡大への不安が綱引き

 先週の日経平均株価は、1週間で351円上昇し、2万388円となりました。新型コロナウイルス感染鈍化を理由に、中国、米国、欧州、日本で徐々に経済を再開することに期待が集まっています。また、世界中でワクチン・治療薬の開発が予想以上の速さで進み始めていることも好感されています。

 一方で、急激な世界景気悪化、米中対立再燃、経済再開後の感染二次拡大の不安が上値を抑えています。

日経平均日足:2020年1月4日~5月22日

 私は、本欄で繰り返し述べていますが、日本株は長期的によい買い場を迎えていると考えています。ただし、経済再開後に感染が再び拡大した時、日経平均が一時的に下がる可能性はあると考えています。

外国人投資家の売り越し続く

 日経平均は2月25日から3月19日までコロナ・ショックで急落した後、5月22日まで、じりじりと下値を切り上げてきました。その間、外国人投資家は、一貫して日本株を売り続けています。株式現物だけでなく、日経平均先物も売り続けています。

外国人投資家の日本株、日経平均先物の売買動向:2020年2月25日~5月15日

出所:東京証券取引所データより楽天証券経済研究所が作成

 3月23日以降、日経平均は上昇が続いていますが、その上昇を牽引したのは、外国人投資家ではありません。この間、日本株を大きく買い越したのは、日本銀行だけです。上昇を牽引しているのは、外国人ではなく、日本銀行です。

 これは、珍しいことです。というのは、過去30年、日本株は外国人が買えば上がり、売れば下がる動きが続いてきたからです。外国人が売り続けているのに、これだけ大きく反発しているのは、極めて珍しいことです。

 世界的に株が上昇してきており、外国人投資家は株に徐々に強気に転じつつあります。ただし、日本株に対しては、これまでのところ、弱気姿勢を続けています。

裁定買い残は低水準、投機筋の先物買い建てはほとんど整理された状況

 今日は、上級者向けの話を少しします。日経平均先物でトレーディングする際、裁定買い残高と、裁定売り残高の変化を見ておく必要があります。そこに投機筋の先物ポジションの変化が表れているからです。

 詳しい説明は割愛しますが、裁定買い残の変化に、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「買い建て」の変化が表れています。買い建てが増えると裁定買い残が増え、買い建てが減ると裁定買い残が減ります。

日経平均と裁定買い残の推移:2018年1月4日~2020年5月22日(裁定買い残は2020年5月15日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 上のグラフを見ていただくと分かる通り、裁定買い残高は、2018年初には3.4兆円もありました。この時は、「世界まるごと好景気」と言って良い状況でした。したがって、投機筋は世界景気敏感株である日本株に強気で、日経平均先物の買い建てを大量に保有していたことが分かります。

 ところが、2018年末にかけて、世界景気は急速に悪化しました。投機筋は、日経平均先物を売って、買い建て玉をどんどん減らしていきました。その結果、裁定買い残高は、2018年末には約6,000億円まで低下しました。

 2020年5月15日時点で、裁定買い残は3,427億円まで、減っています。投機筋は、日経平均先物買い建てをほとんど整理してしまったことが分かります。ここまで減るのは、リーマン・ショックのあった2008年、チャイナ・ショックがあった2016年以来のことです。

裁定売り残高が約2.5兆円まで拡大、投機筋の売り建てが積みあがる

 裁定買い残高だけでなく、裁定売り残高の推移も同時に見る必要があります。詳しい説明は割愛しますが、裁定売り残の変化に、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「売り建て」の変化が表れています。売り建てが増えると裁定売り残が増え、売り建てが減ると裁定売り残が減ります。

日経平均と裁定売り残の推移:2018年1月4日~2020年5月22日(裁定売り残は2020年5月15日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 2020年5月15日現在、裁定売り残高は、約2.5兆円まで積み上がっています。投機筋が、日本株に弱気で、日経平均先物の売り建てを積み上げていることが分かります。

 注目すべきは、5月15日時点で裁定買い残高が3,427億円しかないのに、裁定売り残高が、2.5兆億円まで増えていることです。売り残が買い残より2兆円以上、大きくなっています。投機筋が、日本株に弱気で、日経平均先物の空売りを積み上げていることが分かります。

日経平均と裁定買い残・売り残の推移:2018年1月4日~2020年5月22日(裁定売り残・買い残は2020年5月15日まで

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 これはとても珍しいことです。通常は、裁定買い残高が裁定売り残高よりも1兆円以上大きいからです。外国人の投機筋は日本株にかなり弱気であることが分かります。

経験則では、投機筋は日経平均先物の買戻しのタイミングをはかっている

 ここから先は、経験則に基づく、筆者の推測です。弱気筋が相当売りポジションを積み上げている中で、日経平均がじりじり上昇してきているので、ここから先は、外国人による日経平均先物の買い戻しが入りやすいと考えられます。

 日経平均がここから大きく下がる場合は、投機筋は利益確定の先物買戻しを行うと考えられます。逆に、日経平均がさらに上昇する局面でも、投機筋は損失の拡大を抑えるために、損失確定の先物買戻しを行うと考えられます。

 あくまでも筆者私見ですが、裁定残高から読み取れることは、日経平均が上がる場合も、下がる場合も、外国人は日経平均先物を買い戻す可能性があるということです。

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