決算内容は意外にしっかり、高配当株として投資価値は高いと評価
大手総合商社5社の前期(2020年3月期)決算が出そろいました。コロナ・ショックで世界景気が急激に悪化し、原油など資源価格が急落している最悪の環境下ですが、丸紅以外は、意外にしっかりした内容だったと言えます。
コロナ・ショックの下、今期(2021年3月期)の業績や配当の予想を出さない企業が多い中、5大商社は、配当予想をすべて開示しました。
5大商社の配当利回り(会社予想ベース)
【金額単位:円】 | ||||
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コード | 銘柄名 | 配当利回り | 5月13日株価 | 2021年3月期 1株当たり 配当金 ※会社予想 |
8058 | 三菱商事 | 5.7% | 2,367.5 | 増配 134 |
8001 | 伊藤忠 | 3.9% | 2,268.5 | 増配 88 |
8031 | 三井物産 | 5.0% | 1,587.0 | 80 |
8053 | 住友商事 | 5.5% | 1,270.0 | 減配 70 |
8002 | 丸 紅 | 3.2% | 474.0 | 減配 15 |
出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成。配当利回りは1株当たり年間配当金(会社予想)を5月13日株価で割って算出 |
三菱商事と伊藤忠は、今年度(2021年3月期)に増配を予想しています。これまで取り組んできた経営改革の成果による、先行きへの自信が感じられます。三井物産は、配当を据え置きましたが、同様に将来への自信を感じる決算でした。高配当利回り株として投資価値が高いと判断しています。
住友商事と丸紅は、三菱商・伊藤忠・三井物産と比べると、収益基盤がやや弱く、今期は減配を予定しています。それでも、高配当利回り株として投資していくには問題ないと考えています。
投資魅力の高い順に、三菱商→伊藤忠→三井物→住友商→丸紅と私は考えています。
5大商社の決算まとめ
今回発表された今期予想も含め、過去6期の純利益推移を以下にまとめました。
5大商社の連結純利益:2015年3月期実績~2021年3月期(会社予想)
三井物産は2012年3月期(連結税前利益は2019年3月期が最高益)に、他の4社は2019年3月期に最高益を更新しました。コロナ・ショックに見舞われた2020年3月期、丸紅を除き、純利益は引き続き高水準でした。伊藤忠は最高益を小幅に更新しました。三菱商事と三井物産は小幅の減益に留まりました。丸紅のみ大幅な赤字に転落しました。
2020年3月期決算と比較されるのは、2016年3月期です。今と同じように原油など資源価格が急落し、大手総合商社は資源権益などで軒並み巨額の減損を計上した時です。三菱商事と三井物産はこの時、大幅な赤字に転落しました。
2016年3月期と比べると、2020年3月期は、丸紅以外は、資源が急落した割には堅調な決算だったと言えます。各社とも、資源への依存を低下させるための構造改革(非資源事業の強化)の成果が出たと言えます。丸紅は、食糧事業で減損(ガビロン社)を出すなど、非資源事業でつまづいたことが、赤字転落の原因となりました。
2021年3月期について、三菱商事と住友商事は業績予想の開示を見送りました。ただし、先行きに、必ずしも悲観的ではありません。それが、配当の予想に表れています。両社とも、配当の予想は開示しています。
5大商社の1株当たり配当金:2015年3月期実績~2021年3月期(会社予想)
増配を発表した三菱商事と伊藤忠、配当据え置きの三井物産は、コロナ・ショックでも、安定的にキャッシュフローを稼ぐ力があることを、示しました。
これだけのショックが起こっても、配当金を維持していく力をつけたことは、ポジティブです。
なぜ商社株は割安に据え置かれるか?
コロナ・ショックの元でも、安定的にキャッシュフローを獲得する力のあることを示した大手商社ですが、株式市場での評価は高いとは言えません。PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)などの株価指標で見て、いつもきわめて割安な水準にとどまっているからです。
投資家に人気がないから、株価指標で割安に据え置かれていると言えます。なぜ、大手総合商社が人気がないのか考えてみましょう。
資源事業の比率が高いことが業績を不安定にする
大手総合商社の利益に占める、資源事業の比率が高いことが、商社株の人気が低い原因の1つと思います。技術革新によって資源の供給が世界的に拡大した影響で、原油・石炭・天然ガスなどのエネルギー資源は、構造的に供給過剰となっています。
世界景気が急激に悪化したため、足元、資源価格は大きく下落しました。資源ビジネスで高い利益を上げていても、株式市場で高く評価されないのは、資源事業は、収益が不安定だと考えられているからです。
世界景気や、世界中の地政学リスクの影響を受けやすい
総合商社が新興国で積極的にビジネス展開していることは、コロナ・ショックで世界経済が分断されるようになった今、業績に逆風です。商社が、世界景気の影響を受けやすい体質であることが、株価評価が高まらない要因となっています。
総合商社はビジネスモデルを改善、リスク管理を高度化させてきた
かつて資源事業に利益構成が偏っていることに危機感を持ち、総合商社各社は、時間をかけて、非資源事業を伸ばしてきました。その成果で、非資源事業の利益が拡大し、高水準の利益を維持しています。
食品や、海外独立電力事業、消費関連ビジネスなど、世界景気変動の影響を受けにくい事業を意識して増やしてきたので、利益構成が改善しています。資源価格急落でも、収益が堅調なのは、その成果です。
カントリー・リスクのとり方も、かなり巧妙になってきました。幅広い種類のリスクをとっていますが、特定のリスクを過度にとり過ぎないようなリスク管理をしています。
三井物産は1970年ころからIJPC(イラン・ジャパン石油化学事業)に巨額の投資を行いました。ところが、1979年のイラン革命、それに続くイラン・イラク戦争の戦禍でIJPCは破たんし、三井物産は財務面で大きなダメージを受けました。このような失敗から学び、投資リスクは分散し、失敗したときの撤退ルールも厳格にしています。
事業拡大に貪欲な総合商社
総合商社の戦略は、資源もなく少子化が進む日本がどう生きていくべきか、まさにその道筋を示していると考えています。政府が成長戦略としてやっていくべきことは、商社がほとんど手をつけています。
商社は、資源のない日本が生きていくのに不可欠な「日の丸資源会社」となっています。それに加え、新興国での社会インフラ整備事業にも注力しています。発電所・鉄道・上下水道などの建設・運営を幅広く手がけています。
総合商社は、IT、バイオ、新エネルギー、ロケットなど、今すぐ花開かなくても、将来いつか大きな成長のタネになりそうなものには、片っ端から手を出しています。その貪欲さこそが、今の日本に欠けている成長力の獲得につながると思います。
大手5社でやっている事業、リスクの取り方は異なりますが、いずれも新興国の成長を取り込みつつ、巧みにリスク管理しています。それが、投資対象として評価できるポイントです。
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