日経平均2万円超え、ワクチン・経済再開への期待

 先週、GW明けの2日間(5月8・9日)の日経平均株価は、合わせて560円上昇し、2万179円となりました。コロナ感染鈍化を理由に、中国・米国・欧州で徐々に経済を再開しつつあることが好感されています。また、世界中でワクチン・治療薬の開発が予想以上の速さで進み始めていることも、好感されている理由です。

日経平均日足:2020年1月4日~5月9日

 8日に発表された4月の米雇用統計で、非農業部門雇用者数が戦後最大(前月比2,050万人)の減少。失業率が戦後最悪の14.7%まで悪化したことが分かりましたが、それに米国株は、反応しませんでした。NYダウは堅調で、足元の悪化よりも、先行きの回復期待に投資家の目が向いていることが分かります。

NYダウ日足:2020年1月2日~5月9日

 NYダウは、4月30日にトランプ米大統領が、新型コロナウイルスへの初期対応を誤った中国に報復を示唆、制裁関税を課す可能性に言及したことから、米中対立再燃の懸念で下落しました。しかし現在は、5月7日の米中電話協議で、「第1段階合意」維持を確認と伝わると、不安はいったん収まりました。

 米ナスダック総合指数は、もっと勢いよく戻っています。グーグル・アマゾン・フェイスブック・マイクロソフトなど、世界のITインフラを支配するハイテク株の比率が高いからです。

ナスダック総合株価指数日足:2020年1月2日~5月9日

 

 新型コロナウイルス感染防止のため、世界中でリモートワーク、リモート会議、Eコマースの活用が一段と拡大していますが、アフター・コロナ(コロナ終息後)の世界で、ITによる技術革新が一段と進み、米IT大手の支配力、成長性がさらに高まると期待されています。

 一時、史上初のマイナス価格まで落ち込んだWTI原油先物(期近)が、24ドル台まで戻ってきたことも、安心感につながりました。原油急落により「逆オイルショック」が起こる不安が出ていましたが、その不安が低下しました。

WTI原油先物(期近)日次推移:2020年1月2日~5月9日

注:4月20日につけた史上初のマイナス価格は5月限、4月21日以降は6月限

株式市場が注目する強弱材料

世界の株式市場が注視している強弱材料は、以下と考えています。

【強材料】
中国・米国・欧州経済再開への期待、日本は6月以降に期待
治療薬・ワクチンの開発が、世界中で予想以上の速さで進み始める
世界各国が、巨額の財政金融政策を発動

【弱材料】
リーマン・ショックを超えるスピードで世界経済が急激に悪化
米中対立再燃の兆し
経済再開後の感染二次拡大リスク(→株式市場はこの問題は今のところ無視?)

 治療薬・ワクチンおよび、簡単な検査キットの開発が、世界中で予想以上の速さで進んできたことから、人類は1年後には、新型コロナウイルスを克服する術を得ていると考えられるようになってきました。

 ただし、ワクチンが利用可能になるのは、まだ半年~1年先です。その前に、経済を再開して、感染が二次爆発したらどうなるでしょう?そこが投資家にとって最大の不安となっています。

 経済再開後、感染の二次拡大がまったく無いと考えている投資家は、いないと考えられます。問題は、どの程度深刻な二次拡大となるか、再び経済を止める必要があるか、の2点に絞られます。

楽観シナリオと悲観シナリオ

 このまま世界の株式市場は、コロナ・ショック後を見込んで、上昇が続くのでしょうか? あるいは、「不況下の株高」が行き過ぎて、再び、二番底を試しに行くことになるのでしょうか?
 今、考えられる、楽観シナリオと悲観シナリオは以下の通りです。大きな分かれ道が、両シナリオの(4)以降にあります。

<楽観シナリオ>
【1】中国・米国・欧州・日本で新型コロナの感染拡大が鈍化
【2】各国とも、巨額の金融・財政政策で、連鎖破綻、信用危機を回避
【3】中国・米国・欧州・日本で経済活動を徐々に再開
【4】各国で、感染の二次拡大が見られるが、経済を再び止めることは無い
【5】ワクチン開発成功。ワクチン利用で二次感染拡大を抑える。集団免疫を徐々に実現

<悲観シナリオ>
【1】中国・米国・欧州・日本で新型コロナの感染拡大が鈍化
【2】各国とも、巨額の金融・財政政策で、連鎖破綻、信用危機を回避
【3】中国・米国・欧州・日本で経済活動を徐々に再開
【4】各国で、感染の二次爆発起こり、再び、経済を止める
【5】治療薬・ワクチンの開発に手間取り、なかなか成果が出ない
【6】財政政策で支えきれず、企業の連鎖破綻が起こり、信用不安に発展する

 経済再開後、感染の二次拡大はある程度は起こると誰もが考えています。経済再開に積極姿勢のトランプ大統領も、再開すれば、感染の再拡大・死亡者の増加はあり得ると認めています。それでも、「再開しないコスト(さらなる景気悪化)は、経済を再開するコスト(感染の二次拡大)より大きい」と判断しています。
 感染の二次拡大があった時に、経済を止めないで済むためには、以下2つの条件が必要と考えています。

【1】感染の二次爆発と言われるほど深刻な事態とはならない
【2】「経済を止めるコストは、感染再拡大のコストより大きい」という社会的コンセンサスが形成される

 欧米では、まだ社会的コンセンサスとまではなっていませんが、「経済を止めるコストが感染の二次拡大コストより大きい」と考える人が増えつつあると考えられます。

【参考】コロナ克服には、集団免疫かワクチンの開発成功しかない

 人類が最終的に新型コロナを克服する方法は、現時点で2つしかないと思います。集団免疫か、予防用ワクチンの大量普及です。

【1】集団免疫はいつ実現するか?

 一般に、感染症は、一度かかると二度はかからない傾向があります。感染して回復すると、体内に免疫(病原ウイルスを排除する抗体)ができるからです。
 感染症が大流行し、生き残った人が免疫を持つことで感染が終息に向かうことを、「集団免疫」と言います。人口の6~7割が免疫を持てば、感染は終息します。

 医学が未発達だった時代、致死率の高い感染症が大流行して、終息するには長い年月がかかりました。回復して免疫を持つ人が、人口の6-7割を占めるまで、感染に歯止めがかかりませんでした。

 例えば、1918年(第一次世界大戦末期)、世界的に大流行したスペイン風邪(当時は風邪と考えられていたが実際はインフルエンザ)がそうです。世界中で、何百万という死者を出しましたが、生き残った人々が免疫を持つことで、やっと終息に向かいました。

 新型コロナウイルスでも、一度かかって回復したヒトには、抗体ができているので、二度はかからないと考えられています。ただし、これは厳密に証明されたわけでは無いので、現時点ではWHO(世界保健機構)は「免疫の保証なし」と警告しています。それでも、十分な抗体が形成されて免疫を獲得した人が世界中で増えていることは事実と考えられます。

 米国ニューヨーク州のクオモ知事は、無作為に抽出した3,000人を対象とした抗体検査で13.9%が抗体を持っていたと発表しました。州全体の人口(1,950万人)の13.9%が抗体を持っていると仮定すると271万人が既に抗体を持っていることになります。これは、公表されている同州の感染者数(25万人)の10倍を超える人数です。

 感染者の正確な把握は今でもできておらず、実際の感染者数は報告されている数よりも、はるかに多い可能性があります。軽症で、ほとんど自覚症状がないままに回復しているために、感染者に数えられていない人が、たくさんいると考えられます。米国だけでなく、欧州の抗体検査でも、抗体保持者が増えていることが観測されており、実際の感染者数は、報告より10倍以上多いとの予測が出ています。

 ところで、クオモ知事の発表では、ニューヨーク州の中でも感染が深刻だったニューヨーク市だけに絞ると、あくまでも標本調査の結果では、約20%が抗体を持っていたとの結果が出ています。人口の6割以上が免疫を持つ、集団免疫にはまだ遠いものの、少しずつ、免疫保持者が増えてきていることが分かります。

【2】予防ワクチンが利用可能になるのは、いつか?

 集団免疫が自然に実現するには、長い年月が必要です。それよりも早く、予防ワクチンが実現して、たくさんの人が利用可能となることが望まれます。感染して回復するだけでなく、ワクチン投与によって免疫を獲得する人が、早く人口の6割を超える必要があります。

 日本は出遅れていますが、米国・欧州・中国では新型コロナワクチンの開発ラッシュとなっています。通常だと5年以上かかるワクチン開発を、1年~1年半で実現するペースで開発が進んでいます。米国は、来年1月にも、数億人に投与できるワクチンを開発する目標を持っています。

▼著者おすすめのバックナンバー
2020年4月30日:世界株高:コロナ後、織り込み?利回り3-7%!攻めと守りの高配当利回り株2020年4月22日:止まらない原油暴落、世界経済危機の新たな火種に