しつこく広がる感染とともに生きる。
米国では新型コロナウイルスの「しつこい感染」と今後も長く同居せざるを得ないという諦観が広がっています。
いま米国では1日2万~3万人の陽性患者が発生。そして1日1,000~3,000人の死者が出ています。これが「ニュー・ノーマル」なのです。
当初、米国での感染者数は「数日で2倍」になっていました。それが外出禁止令の効果で、今では「25日間で2倍」というペースまで鈍化してきています。つまり爆発的感染は何とか抑えることができたのです。
しかし、増加をストップし、新型コロナウイルスを根絶させることには失敗しています。重篤な患者数、そして死者数を抑えることに失敗しているのです。ロックダウンの効果を検証した場合、もっともガッカリさせられた部分と言えるでしょう。
さらにこの調子だと、6月までに10万人から24万人の死者が出ると予想されます。
6月までのシナリオは大体予想できるのですが、秋以降には学校も再開され、ビジネスも再開されると考えられるため、新型コロナウイルスがどのように拡散するか予想を立てることは極めて難しくなります。ひょっとすると「第2波」到来となるかもしれません。
米国の場合、実際の患者数は検査で陽性となった人の10倍前後だと言われています。つまり、実際には毎日30万人が新型コロナウイルスに感染している計算になります。
つまり、我々は今後も「不安」とともに生きることを余儀なくされるわけです。
バイオテクノロジーだけが頼みの綱
不安を除去する方法はただ一つ。それはバイオテクノロジーの力に頼るということです。
治療薬では、米バイオ医薬品メーカーのギリアド・サイエンシズ(GILD)の抗ウイルス薬レムデシビルが先日、FDA(米食品医薬品局)からEUA(緊急使用承認)を獲得しました。新型コロナウイルスの第1報が米国にもたらされてから3カ月で承認となったので、これは極めて速いスピードでしょう。
そして、供給される最初の150万瓶はギリアドからの「寄付」になります。つまり無料です。その配分に関しては、政府が100%の発言権を持っています。
レムデシビルは「1日1瓶、10日間にわたり点滴で投与」という処方です。つまり15万人分だけが無料ということです。いまニューヨークだけで7万人が新型コロナウイルスで入院しているわけですから、全米に入院している新型コロナウイルス患者に処方すると、もう残らない計算になります。
ところが、レムデシビルは10日間ではなく、5日間の投与でも効果は十分かもしれないことが、ギリアド社が新型コロナウイルス患者に行った臨床試験で明らかになったと発表されました。そこで「1日1瓶、5日間にわたり点滴で投与」という処方に改めれば、30万人にレムデシビルが処方される計算になるわけです。ただし、臨床試験の段階であるため、まだ流動的です。
さて、最初の150万瓶は無料ですが、その後、レムデシビルは有料になることが予想されます。米国の独立コンサルタントは「たぶん患者当たり45万円前後になるだろう」と試算しています。つまり、ギリアドは全くのタダ働きではなく、レムデシビルから売り上げを出すことも可能というわけです。ただし、それは来年以降も新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)が続けば…という話です。新型コロナウイルスは少なくとも2~3年くらい蔓延すると予想するのが、現状では自然でしょう。
爆速計画!でもワクチン開発は失敗も多い
次にワクチンの話題に移ります。トランプ米大統領は「オペレーション・ワープ・スピード(爆速計画)」で、2020年の秋までに3億回分のワクチンを用意すると言っています。これは楽観的な予想です。
ただ、新型コロナウイルス患者のケアの最前線で、リスクにさらされている医師や看護師に対し、秋までに百万回分の未承認のワクチンを用意し、試験的にワクチンを投与することは可能かもしれません。その場合、ワクチンの生産キャパシティーなどから考えて、少なくとも2社以上のワクチン・メーカーがこの試みに参加することが必要になると思います。
しかし、ワクチンの成功確率は極めて低く、とりわけmRNA(メッセンジャーRNA)技術に依拠したワクチンは安全性こそ高いものの、効果は薄いという可能性もあります。そのため、mRNAベースのワクチン候補が「全滅」するシナリオも考えておく必要があるのです。
米国の新型コロナウイルスワクチン開発
臨床 試験 開始日 |
企業名 | タイプ |
---|---|---|
3月上旬 | モデルナ(MRNA) | mRNA |
4月上旬 | バイオンテック(BNTX)/ファイザー(PFE) | mRNA |
4月上旬 | イノヴィオ(INO) | mRNA |
4月上旬 | シノヴァック | mRNA |
4月上旬 | ウーハン・インスティチュート/シノファーム | 非RNA |
4月下旬 | オックスフォード大学 | mRNA |
5月上旬 | インペリアル・カレッジ | mRNA |
5月中旬 | ノヴァヴァックス(NVAX) | 非RNA |
6月上旬 | キュアヴァック | mRNA |
7月上旬 | サノフィ/グラクソスミスクライン | 非RNA |
7月上旬 | ヴァックスアート(VXRT) | 非RNA |
8月上旬 | アルティミューン | 非RNA |
9月上旬 | ジョンソン&ジョンソン(JNJ) | mRNA |
なおワクチンを大量に製造できるキャパシティーは払底しており、米国では片手で数えられるほどしか工場は存在しません。
そこで製造下請けの存在が重要になります。エマージェント・バイオソリューションズ(EBS)はノヴァヴァックス、ヴァックスアート、ジョンソン&ジョンソンの臨床試験向けのワクチン製造を担当する契約を獲得しています。
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