過去3ヵ月の推移と今回の予想値

※矢印は、前月からの変化

3月雇用統計のレビュー

 先月発表された3月の米雇用統計は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、非農業部門雇用者数は70.1万人減となり、2010年9月以来9年半ぶりに雇用がマイナスに落ち込みました。その一方失業率は4.4%に急上昇。ロックダウンの影響で飲食産業の就業者は一気に41万人も減りました。

4月雇用統計の予想

 米労働省労働統計局(BLS)は、5月8日に4月の雇用統計を発表します。4月の非農業部門雇用者数はさらに悪化して2,100万人減り、失業率は戦後最悪の16.0%に急上昇するというのが市場予想です。アメリカの労働力人口の6人に1人以上が職を失った計算です。

 下のグラフを見ていただくと、米雇用市場の急激な悪化ぶりが視覚的によくわかります。このグラフは、非農業部門雇用者数変化と失業率の推移を示しているものですが、今回のデータがあまりに凄まじいため、もはや推移グラフとしての価値がなくなってしまいました。

 しかも、失業率はまだピークを打ったわけではなく、まだ上昇するおそれが高いのです。カプラン・ダラス連銀総裁は、米国の失業率が第2四半期に「20%になる」可能性があると警告しています。年後半には改善するとの見方もありますが、新型コロナ終息がまだ見えない中で大きな期待を持つことはできません。

 米労働省は、4月19日から25日までの1週間の失業保険の申請件数が383万件にのぼったと発表しました。非常事態宣言の3月中旬以降、およそ1月半の間に申請数は3,000万件を突破しています。

マーケットは、深さよりも早さが大事

 しかし、マーケットでは、雇用統計がどれだけ「悪い」かよりも、どれだけ「早く」回復するか、つまり深さから長さへと焦点が移っています。

 失業が経済に与えるダメージとは、需要ショックがそれだけ長引くリスクがあるということです。経済再起動に向けて動きだすためには、企業や消費者は経済成長を支える状態になっていなくてはいけない。失業率は企業や消費者の準備率を示しているともいえます。低くなるほど、経済再開に向けて準備が整っているといえます。

 その日に向けて米政府は、積極的な経済対策を打ち出しています。全国民を対象に現金給付を実施したほかに、外出禁止で働くことのできない労働者には、有給休暇という形で、1日当たり200ドル未満、または累計で1万ドルを上限に、10週間は3分の2の報酬をもらえる「Emergency Family and Medical Leave Expansion Act (EFMLEA)」、あるいは、1日当たり511ドル未満、または合計で5,110ドル未満を2週間もらえる「Emergency Paid Sick Leave Act(EPSLA)」を選択できるようにしました。さらに失業者に対しては、失業保険を週当たり600ドル、13週間までもらえるよう延長した法律もあります。

景気刺激策が経済再開を遅らせる?

 ところが、アメリカの失業給付金の規模が、経済の再起動をより困難にするかもしれないという新たな問題を生み出しています。州と連邦政府の給付金を合わせると、解雇された労働者に支払われる平均週額は、昨年末に労働局が発表した平均377.97ドルから978ドルに上昇するのです。これは多くの低賃金労働者が稼ぐ給料よりも多くなり、仕事に戻ることに消極的になる人が増えるおそれがあります。

 日本では、10万円の特別定額給付金に対して、少ない遅いと批判が噴出しています。日本政府が給付金を出し渋っていたのは、このような事態を予見していたから、ではもちろんないでしょう…。