成長期に入りつつあるビットコイン市場。他の商品と比較すれば格段に理解が深まる

 本コンテンツは、ビットコインとはどのような投資・保有対象なのかを、さまざまな角度からデータに基づきながら比較します。「ビットコインとはそもそもどんなものなのか?」「ビットコインを買う場合、何を目安にすればよいのか?」という疑問に、データを追いながら一定の答えを出すことを目指します。

 以下の5つの点で、ビットコイン(円建て)を比較します。

1.価格の変動率(他の主要銘柄とビットコインの値幅の大きさ)
2.相関関係(他の主要銘柄とビットコインの一定期間における価格推移)
3.投機筋の物色動向(他の主要銘柄とビットコインの投機筋の買い残高・買売倍率)
4.テクニカル分析(ビットコイン価格の過去と現在)
5.ドル建てと円建ての値動き(異なる通貨建てのビットコインの比価)

 1.価格の変動率、2.相関関係、3.投機筋の物色動向については、株価指数や通貨、商品(コモディティ)などの複数の主要銘柄との比較です。

 4.テクニカル分析は、過去のビットコイン自身の価格推移と直近の価格の比較、5.ドル建てと円建ての値動きは、異なる通貨建てのビットコインの値動きの比較です。

 全体としては、1.2.3でビットコインと他の主要銘柄との相対比較、4.5でビットコインにのみ注目する絶対比較、という構成です。

 この相対比較と絶対比較を組み合わせることで、格段にビットコインへの理解が深まります。その結果、おのずと、ビットコインが自分にとって有用な資産かどうか、買うならば何を目安にすればよいか、が見えてくると思います。

 まずは足元のビットコイン(円建て)価格の推移を確認します。

図:ビットコイン(円建て)の価格推移(2019年12月1日から2020年4月12日)(日足 終値) 単位:万円

出所:楽天ウォレット(楽天グループの仮想通貨取引所)のデータをもとに筆者作成

 2月後半から3月半ばに発生した“新型コロナショック”でビットコイン価格は急落しましたが、その後、世界の株価指数やさまざまなコモディティ(商品)銘柄と同様、数週間単位で見れば、価格が反発しています。ビットコインの価格推移については後ほど「4.テクニカル分析」の箇所で、詳細を書きます。

価格の変動率:先週は1.1%上昇。上昇率はマザーズ指数に次ぐ

 数週間単位で上昇しているものの、先週だけで見れば、ビットコインの上昇率は1.1%にとどまりました。原油をはじめ、貴金属、穀物などのコモディティ(商品)などが総じて下落したことから考えれば、ビットコインは比較的、堅調だったと言えます。

図:ビットコインと各種銘柄の変動率 (4月14日から21日)
※いずれも円建て 先物銘柄は中心限月を参照

出所:マーケットスピードⅡおよび同CX、楽天ウォレットのデータをもとに筆者作成

相関関係:この1週間、比較的ドル/円に近い値動きだった

 この1週間(4月14日から21日)、ビットコインは、比較的ドル/円に近い値動きでした。ビットコインとドル/円間の、関係性の緊密さの目安となる相関係数(※)は、+0.63と、他の主要銘柄に比べて高い値でした。

※相関係数は、対象物との関係性を数値化したもので、相関係数は+1と-1の間で決まります。+1に近ければ、対象物との関係は正(2つの銘柄の価格推移であれば、連動するように動いていること。相関)、-1に近ければ、対象物との価格の関係は負(2つの価格の関係であれば、正反対に動いていること。逆相関)、0に近ければ対象物と関りがないこと(無相関)を示します。

 具体的には、次の通りです。

0~0.3(-0.3):ほぼ無関係、
0.3~0.5(-0.3~-0.5):非常に弱い相関(非常に弱い逆相関)、
0.5~0.7(-0.5~-0.7):相関あり(逆相関あり)、
0.7~0.9(-0.7~-0.9):強い相関(強い逆相関)、
0.9以上(-0.9以下):非常に強い相関(非常に強い逆相関)   

図:ビットコインと各種銘柄の相関係数(4月14日から21日)

出所:マーケットスピードⅡおよび同CX、楽天ウォレットのデータをもとに筆者作成

 以下の図のとおり、4月上旬ごろから、ビットコインは堅調さを維持しながら、ドル/円に近い値動きとなっています。直近1週間もこの傾向が続いたため、相関係数が比較的高い値となりました。

 2月下旬から3月中旬にかけて発生した“コロナ・ショック”の影響で、通貨、株式、コモディティ(商品)、暗号資産、ジャンルを問わず下落しましたが、このような総悲観が一巡したことで、ドルやビットコインを含んだ“広い意味のお金”の値動きも、安定したと考えられます。

図:ビットコインとドル/円の値動き

出所:マーケットスピードⅡおよび同CX、楽天ウォレットのデータをもとに筆者作成

投機筋の物色動向:米国のビットコイン先物の市場、投機筋はやや売り優勢

 投機筋の動向は、株価指数、通貨、コモディティ(商品)など、各種市場の将来の価格動向の先行きを考える上で重要視されています。ここでは、米国の先物市場における投機筋の動向に注目します。ビットコイン(ドル建て)も米国の先物市場で取引されています。

 原油や金に比べれば、ビットコイン先物の売買はまだ多いとは言えません。しかし、米国の先物市場で取引されているさまざまな銘柄の市場分析においては、投機筋の動向のデータは日常的に使われているため、ビットコイン先物の投機筋の動向についても、将来の売買増加を見据えて、毎週その動向を追い、傾向を知っておくことは、有用だと筆者は考えています。

 米国の先物市場における、投機筋のデータは、毎週金曜日(日本時間土曜日未明)に公表されます。このデータは当該週の火曜日時点のデータであるため、直近の営業日のデータではない点に留意が必要です。

図:米国先物市場の投機筋の買い越し残高(4月14日時点) 単位:枚

出所:マーケットスピードCXおよびCFTC(米商品先物取引委員会)のデータより筆者作成

 4月14日(火)時点で、米国のビットコイン先物市場における、投機筋の買い越し枚数は-1,506枚です(同枚数の売り越し)。また、買い枚数と売り枚数の比率を示す買売倍率(買い枚数÷売り枚数。1以上で買い枚数が売り枚数よりも多いことを示す)は、0.69で買い枚数が売り枚数のおよそ3分の2であることがわかります。

 また、米国のビットコイン先物の買売比率は、前回比、マイナス幅を拡大させていることから、この期間は、どちらかと言えば、投機側からの売り圧力が続いたと言えます。

テクニカル分析:5日・20日移動平均線いずれも価格は右上がり。反発局面到来か?

図:ビットコイン(円建て)の価格推移と移動平均線 単位:万円

出所:楽天ウォレットのデータをもとに筆者作成

 足元、ビットコイン価格、数日単位の短期的な価格のトレンドの目安となる5日移動平均線、数週間単位の中期的な価格のトレンドの目安となる20日移動平均線の形状は、いずれも“右上がり”です。

 ビットコイン価格は2つの移動平均価格を下回っているものの右上がりで、かつ20日移動平均線を下抜ける懸念があった5日移動平均線は、下抜けずに右上がりに転換したことで、短期的な価格下落を暗示するデッドクロス(※)が形成されることが回避されました。

 目先、2つの移動平均線の“右上がり”が続けば、価格は短期的に、反発局面に入る可能性があります。

※デッドクロスは、短期移動平均線が中期移動平均線を下抜け、下落トレンドが本格的に始まる可能性が生じたことを示すサインです。2つの移動平均線が交差(クロス)する、下落トレンド(デッド)が始まる可能性が生じるため、このように呼ばれています。逆に、短期移動平均線が中期移動平均線を上抜け、上昇トレンドが本格的に始まる可能性が生じたことを示す“ゴールデンクロス”もあります。

ドル建てと円建ての値動き:比価がドル/円から5円離れれば割高・割安感が強まる?

 ビットコインと一口に言っても、価格の単位が“円”のビットコインもあれば“ドル”の単位のビットコインもあります。その他、多数の通貨のビットコインがあるわけですが、価格が円の単位のビットコインを“円建てのビットコイン”、ドルの単位のビットコインを“ドル建てのビットコイン”と呼びます。ここでは簡単に“円建て”“ドル建て”とします。

 円建てもドル建ても、価格は同じ“1ビットコイン”あたりです。4月21日時点で円建ては1ビットコインあたりおよそ74万円、ドル建ては1ビットコインあたりおよそ6,800ドルです。

 同じ1ビットコインあたりの価格であるため、単純に、円建て価格をドル建て価格で割ると、理論的には“ドル/円レート”が出てくるはずです。

 以下は、円建て価格をドル建て価格で割った、円建てビットコインとドル建てビットコインの比価と、その時のドル/円レートです。

図:円建てビットコインとドル建てビットコインの比価とドル/円レート(日足 終値)
単位:円 ※ビットコイン価格は土日も含む

出所:楽天ウォレットのデータなどをもとに筆者作成

 おおむね、比価の変動幅はドル/円の変動幅を上回っています。つまり、本来収まるべきドル/円レートの変動以上に、円建てとドル建ての価格の関係が“ブレている”わけです。

 以下は、比価からドル/円を引いた値です。この値が大きければ大きいだけ(比価がドル/円よりも大きければ大きいだけ)、円建てがドル建てよりも割高である、逆にこの値が小さければ小さいだけ(比価がドル/円よりも小さければ小さいだけ)、円建てがドル建てよりも割安であることを意味します。

図:円建てビットコインとドル建てビットコインの比価とドル/円の差 単位:円
※土日含まず

出所:楽天ウォレットのデータなどをもとに筆者作成

 お互い、どの時間帯の価格を参照するかで様子が異なる可能性はありますが、目安として、比価が5円程度、その時のドル/円よりも離れた場合、割高感・割安感が強まっているとみられます。この点は、円建てのビットコインを購入する際の目安になる可能性があります。

足元のトピック「半減期」とは?価格はどうなる?

 5月中旬と言われている、ビットコインの“半減期”について述べます。さまざまな報道で、過去、起きた2度の半減期では、一定の価格上昇要因になったのではないか? と言われています。

図:ビットコイン(ドル建て)の値動き 単位:ドル/ビットコイン

出所:Investing.comより筆者作成

図:半減期1回目前後のビットコイン価格 単位:ドル/ビットコイン

出所:Investing.comより筆者作成

図:半減期2回目前後のビットコイン価格 単位:ドル/ビットコイン

出所:Investing.comより筆者作成

図:半減期3回目前後のビットコイン価格 単位:ドル/ビットコイン

出所:Investing.comより筆者作成

 また、以下は、マイナー(ビットコイン取引を台帳に追記作業を行う人)が、マイニング(台帳にビットコイン取引の追記作業を成功させること。膨大な計算が必要)によって得られる報酬の額をシミュレーションしたものです。

 “半減期”とは、マイナーがマイニングをすることで得られる報酬が半減するタイミングのことで、過去2度、2012年11月、2016年7月におとずれました。

 ビットコインが生まれたとされる2008年10月を起点に、およそ4年(回を重ねるごとに短くなっている傾向あり)ごとに、高価で高スペックなパソコンをはじめとしたインフラを擁する、大規模で、電力を多用するマイナー達の報酬は半分になってきています。

図:ビットコインマイナーのマイニングによる報酬 単位:ビットコイン

出所:各種資料をもとに筆者作成

 報酬の低下は、高コスト体質のマイナーを排除するきっかけになります。半減期がおとずれればおとずれるほど、マイナーの数は減り、競争力があって体力があるマイナーが残るわけです。半減期をきっかけに参入するマイナーもいるとの報道もありますが、退場を余儀なくされるマイナーに取って代わり、シェアを確保する意図があると考えられます。

 半減期とビットコイン価格の関係については、報じられているような短期的な急騰を期待させる面もあると思いますが、この件に関し、筆者は長期的な視点で見て、ビットコイン価格を安定化させる作用があると考えています。

 半減期を境に、高コストマイナーが退出し、少数の体力のあるマイナーが残留することで、ビットコインのマイニング社会で寡占化(ガリバー化)が進むと考えられます。多くの業界でその傾向があるとおり、寡占化は、価格やルールにガリバー企業が強く関わることを意味しますので、これらの企業の思惑で、これらの企業にとって不利なことが起きにくくなると思います。

 残ったマイナーにとって不利なこととは、彼らの資産の額に直接的に関わるビットコイン価格の急落です。寡占化がすすめば、彼らが不利益を被るビットコイン価格の急落や低迷が、起きにくくなると思います。

 むしろ、“半減期”でマイニングによる報酬が半分になるため、彼らの“ビットコイン価格の維持・上昇”への思惑が強まると考えられます。

 その意味では、半減期のおとずれは、長期的な視点で、ビットコイン価格を底堅くするきっかけになると筆者は考えています。

 寡占化と言うと、否定的な響きがありますが、現段階で、ビットコインがさらに一般化するために必要なプロセスだと思います。高コストで利益獲得を重んじるマイナーが退出し、体力がある(社会的地位がある)マイナー達がマイニングを行う環境になっていけば、ビットコインそのものの、社会的地位が上がるとみられます。

 半減期を繰り返すことで、ビットコインはどんどんと一般化していくのだと思います。まずは、5月の半減期を、ビットコイン市場がどのように受け止めるのか(価格がどのように動くのか)に注目したいと思います。