悪い経済指標に反応しないコロナ相場

 先週17日(金)のNY株式市場は、「レムデシビル(Remdesivir)」一色となりました。

 米ギリアド・サイエンシズ社の新型コロナウイルス治療薬「レムデシビル」の投与によって重症者が改善したとの報告で、同社株は10%弱急騰し、NYダウ平均株価も上昇しました。

 ただ、ドル/円は107.30円近辺まで売られた後、107.60円近辺まで戻しただけで上値をさらに進む力はなく、107円台を往来している相場となっています。

 先週は、14日にIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しが大幅な下方修正で発表され、17日には中国の1-3月期GDP(国内総生産)がマイナス成長(▲6.8%)と発表されましたが、経済指標の悪化に対して、株も為替も相場は反応していない状況となっています。各国の個々の経済指標が発表されても「悪いのは織り込み済み」というよりも、「悪いのは当然」という反応のように見えます。それよりも新型コロナウイルス治療薬やワクチン開発のニュース、感染者拡大のスピードに対して反応する、コロナ相場となっています。

勇み足になるか?米国の規制解除

 新型コロナウイルス関連のニュースによって相場が動く状況はしばらく続きそうですが、その中で各国の規制解除のニュースに対しては、相場は慎重な反応を示しています。

 規制解除のタイミングが早過ぎると、感染が再び拡大する恐れがあり、その結果、経済の全面再開が一段と遅れる可能性があるため、マーケットは規制解除を手放しで喜んでいいのかと疑念を持ちながら反応しているように見えます。

 米国の段階的規制解除や規制に対するデモを容認するような米政府の対応を見ていると、早晩、第2波に見舞われるのではないかと危惧します。

 各国のリーダーの対応によって、新型コロナウイルス感染者数や死者数の違いが鮮明になってきていることが話題になっています。トランプ米大統領の対応が米大統領選挙をにらんだ勇み足になると墓穴を掘ることにもなりかねず、米国の動きが懸念されます。

 反対に、ニュージーランドは死亡者が1人もいない3月25日の時点からロックダウンを決定し、新型コロナウイルス感染拡大を抑え込んだことで、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相のリーダーシップは、非常に高い評価を受けています。

 アーダーン首相は4月20日の記者会見でロックダウンを27日に一部解除する方針を表明しました。建設業や製造業など経済活動の一部再開が認められ、約50万人が職場復帰する見通しとのことです。また、レストランでは持ち帰りのみの営業再開が認められ、結婚式や葬儀も出席者が10人超にならなければ行えるとのことです。規制解除後の感染者数がどのように推移するのか注目です。規制解除後も新型コロナウイルス感染拡大を抑制していけるのならば、今後、規制解除を目指している他国の模範となります。

NY原油、衝撃のマイナス価格

 20日のニューヨーク原油先物市場で代表的な指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)の価格が史上初めてマイナス価格となりました。

 5月物(期日4月21日)の終値が1バレル=▲37.63ドル(前週末比▲55.90ドル)と、売り手が買い手にお金を支払って原油を引き取ってもらう異例の事態になりました。需要の大幅な減少によって在庫が増え、その保管スペースが枯渇するという懸念から、ファンドなどが投げ売りしたとの話ですが、パニック的なプライスアクションとはいえ、原油先物価格がマイナスになるとは衝撃的な出来事です。

 この異常事態は5月物だけで、20日の6月物の終値は20.43ドル(▲4.60ドル)、12月物は32.41ドル(▲1.41ドル)にとどまっています。今年の後半に原油需要が回復するとの見方や、産油国の更なる減産の期待があるためとのことですが、果たして5月物だけに見られた異常現象だったのでしょうか。

 IEA(国際エネルギー機関)によると、「4-6月期の需要減は日量2,310万バレル」と予想しています。4月12日にOPEC(石油輸出国機構)プラスで決定した協調減産は日量970万バレルでした。この減産合意では供給過剰は解消されず、在庫は積み上がっていくことになります。

 また、EIA(米エネルギー情報局)によると、4月第2週の米国の原油在庫は前週比約2,000万バレル増え、約5億バレルになったとのことです。米国の貯蔵能力は約6億5,000万バレルとされ、このままでは8週間で保管スペースがなくなることになるため、保管余力不足の不安は続きそうです。

 このように原油の供給過剰、保管余力と在庫積み上げペースを見ていると、5月物だけの異常事態とみるのは早計かもしれません。

 21日が最終取引日の5月物は、結局10.01ドルとプラスで終えました。前日の▲37.63ドルから47.64ドル反発しましたが、22日から期近となる6月物の21日終値は8.86ドル安の11.57ドルと下落は続いています。OPECはこのような事態を受け、5月10日のOPEC開催を調整し始めていますが、それまでは不安定な動きになりそうです。

低金利時代の経済の体温計は?

 経済の体温計といわれている金利ですが、各国の中央銀行の政策金利がゼロ金利やマイナス金利、また、米長期金利も1%未満の低い金利で動いている状況の中では、経済の体温を表しているのは、ヒトやモノの動きによって需要が大きく左右される原油価格かもしれません。そうだとすると、20日の原油先物市場で起こったことは、この先の経済状況を示しているのかもしれません。

 20日のNYダウは、原油マイナスを受けてエネルギー株を中心に売られ、592ドル安となりましたが、まだそこまで経済の先行きを読んだ動きを反映していないのかもしれません。

 今後も非常に気になる原油の動きです。原油が反発するのか、長引く経済悪化を嫌気し、原油は続落し株が二番底を探りにいくのか注目していく必要があります。

 原油が下がり続け、株が二番底を目指すシナリオとなれば、ドル/円は円高方向のシナリオとなりそうです。