NY原油、1983年の取引開始以来、価格が初のマイナスに

 NY原油先物は、1983年の取引開始以来、はじめて、マイナス圏で取引が成立しました。価格はマイナス37.63ドルでした。

 原油に限らず、どの市場もそうですが、買い手と売り手がいて、それぞれの注文が見合った時に、取引が成立します。マイナスであったとしても、価格がついた、ということは、この価格で売買が行われたことを示しています。

図:NY原油先物価格 単位:ドル/.バレル
 

出所:CME(シカゴ・カーマンタイル取引所)のデータより筆者作成

価格がマイナスでの取引成立は、売り手が買い手にプレミアムと現物を渡すことが決まったということ

 通常の商取引では、買い手は、売り手にお金を渡した上で、売り手からモノを受取ります。これは、価格が通常のプラスの状態です。

 価格がマイナスの場合、買い手は売り手からモノを受取ることは同じですが、売り手にお金を渡すのではなく、逆に売り手が買い手にお金を渡すイメージになります。売り手が、お金を払って、買い手に原油の現物を引き取ってもらうことになると、考えられます。

図:日本時間午前7時過ぎのNY原油先物「期近」の価格と出来高

出所:CME(シカゴ・カーマンタイル取引所)のデータより筆者作成

マイナス価格が起きた背景には、米国国内で原油在庫を保有することが困難になっていた点があげられる

 原油相場がマイナス圏に至ったことについて、まずは前提条件として、米国国内の原油に関わる事情をおさえる必要があります。以下のおおむね3つの要因によって、米国内で原油を在庫として保管することが難しく、もともと、原油在庫をかかえることを避ける動きが目立ちつつあった、ということです。

【1】米国内での貯蔵コストが上昇しているとみられる。
(期先限月のみが大幅上昇中)
【2】米国内の原油在庫が高水準になりつつある。
(*WTIの集積地 オクラホマ州の在庫が高水準)
【3】米国内の石油の消費量が減少している。 
(原油の精製施設への投入量が急減中)

*WTI=West Texas Intermediate。米国南部で産出される軽質で低硫黄な原油の総称

マイナス価格の直接的な原因は、NY原油先物20年5月限が取引最終日を迎えたこと

 昨晩4月20日は、NY原油先物の20年5月限が取引最終日を迎える前日でした。このまま買い建玉を持ち続けると、5月に原油の現物を受取り、保管しなくてはならなくなるため、買い建玉を持っていた業者が反対売買で決済する、売り注文を出しました。

 もともと最終取引日直前ということで、この限月については取引枚数が比較的少なくなっていたこともあり、この売り注文によって価格が急落し、原油の売り手が、お金を払って、買い手に原油の現物を引き取ってもらう事態になったと考えられます。

参照する限月は「期近」ではなく取引が最も活発な「中心限月」の方がよい

一時的に価格がマイナス圏に入ったことで、原油相場を悲観的に見るムードがありますが、それは実態の全てを反映したものではないと思います。取引が最も活発な「中心限月」は、先週16日(木)の時点で、5月限から6月限に切り替わっていました。

図:NY原油先物 20年5月限と同6月限の推移
 

出所:CME(シカゴ・カーマンタイル取引所)のデータより筆者作成

 つまり、先週木曜日から現在もそうですが、参照する原油価格は6限であるべきだったわけです。その時、最も期限が近い「期近」のみを見ていると、今回のように、原油相場が大暴落したように見えますが、実態としては、大暴落は、すでに中心限月ではなくなった、米国特有の事情を反映して取引最終日を迎える5月限で起きたものであり、中心限月でおきたものではない、と言えます。

原油相場は、引き続き、上昇要因と下落要因が存在

 現在、中心限月である20年6月限(4月22日からの期近限月)は、1バレル22ドル弱で推移しています。先週に比べて大きな変動はありません。

 現在の原油市場の材料を整理すると、以下のとおり、上昇・下落、ともに思惑が存在すること、そして下落要因には実態が伴っていることが分かります。

図:足元の原油相場の環境(イメージ)

出所:筆者作成

 来月から、OPECプラス(サウジを筆頭としたOPEC13カ国と、ロシアを筆頭とした非加盟国10カ国の合計23カ国)の減産が始まること、各種統計では、世界の石油消費の最悪期は2020年4月であると見通されていることを考えれば、時間はかかりますが、価格が反発していく可能性はあるとみています。

 長い目で、「中心限月」の価格を、注目することが重要だと思います。