4月9日、FRB(米連邦準備制度理事会)は中小企業の資金繰り支援として2.3兆ドル(約250兆円)の追加資金を供給すると発表しました。この発表を受けて、NYダウは前日比285.80ドル高となり、2万3,719.37ドルで取引を終えました。

 NYダウは、2月の2万9,000ドル台から3月の1万8,000ドル台まで急落しましたが、これでほぼ半値を戻したことになります。米国政府とFRBによる矢継ぎ早の思い切った政策と産油国の減産合意をマーケットは好感しました。

 半値戻しの理由は、新型コロナウイルスの感染者拡大スピードが鈍化していることで、経済活動再開への期待が高まってきていることも背景にあります。

 ニューヨーク州のクオモ知事らが打ち出す経済再開計画に投資家の関心が集まっています。さらに、カリフォルニア州やワシントン州なども経済再開で協議を始めると公表しました。トランプ米政権も医療専門家と経済界の代表で構成する「米国再開委員会」を開くとの話や国民の行動自粛要請を5月にも解除したい意向を示唆しています。欧州でも経済再開の議論が活発になってきています。14日、オーストリアは、制限措置の一部を解除しました。

感染症専門家の厳しい見方

 このように経済再開への期待が先行し、NYダウは半値を戻しましたが、現実的には経済再開は感染拡大の速さを見ながら段階的に進むと思われます。FRBの当局者は米経済再開と新型コロナウイルス感染の再流行阻止を切り離すことはできないと主張し、両立に向けた方法が必要との見解を示しています。

 感染症の専門家達はもっと厳しい見方をしています。

 感染症の専門家達は、新型コロナウイルスが1年後に地球上から完全になくなっているとは考えにくいとみているようです。ウイルスが地球上から完全になくなる世界ではなく、人が新型コロナウイルスと共存する世界になるとみているようです。そのためには、(1)ワクチン開発、(2)人口の相当数が感染し集団免疫を持つこと、(3)人々の行動様式や社会の在り方を変えることが条件となり、それによってはじめて人は新型コロナウイルスと共存できると考えているようです。感染症の専門家達の方がエコノミストやマーケット参加者よりも先行きのリスクに関して楽観的ではないということがよく分かります。

 4月14日、WHO(世界保健機関)は「ワクチン開発が少なくとも12カ月程度で実現すると予想すべきではない」と厳しい見方を示しました。また、WHOは集団免疫についても、「感染者が回復後に再び陽性になる患者が出ていることから、回復後に免疫がつくかどうかは不明」との見解を示しています。

 もし、そうだとすれば、半年や1年で新たな世界に達するとは考えにくいかもしれません。経済活動は再開されてもコロナ前の状態を下回り、これまでの生産活動や消費スタイルが元に戻るには相当時間がかかるかもしれません。

 モルガン・スタンレーのアナリストは、コロナ感染の大流行が終わるのはワクチンが開発されてからで、早くても2021年の春だとし、そして、米国経済が新型コロナウイルスの感染拡大前の状態に戻るのは2021年10-12月期だと予測しています。来年の終わりには元の経済水準に回復するとの予想ですが、感染拡大のピークは過ぎても、ワクチン開発が遅れると回復はもっと遅れるということになります。

 半値まで戻したNYダウですが、経済再開計画が発表された後、更に期待は高まり「半値戻しは全値戻し」の格言のように2万9,000ドルに向けて上昇を続けていくのでしょうか。米経済が落ち込むことは株式市場では織り込み済みとの見方もありますが、経済再開計画の発表によって人々が楽観的になり、気が緩むと第2波が襲ってくるリスクは残っています。感染の第2波、第3波が襲ってくれば、経済回復はつまずいてしまう可能性が高まります。

大恐慌以来、最悪の不況の可能性

 IMF(国際通貨基金)は14日、世界経済見通しを発表しました。新型コロナウイルスの感染拡大による影響を踏まえ、2020年の世界の成長率は前年比▲3.0%と、前回1月時点の予測(+3.3%)から6.3ポイント下方修正しました。マイナス成長だったリーマン・ショック後の2009年(▲0.1%)を大幅に下回る景気悪化となっています。

 IMFは2020年の世界のGDP(国内総生産)は90兆ドルと見込んでいましたので、6.3ポイントの落ち込みは単純計算で約5.7兆ドル(約612兆円)の経済損失となります。日本一国のGDPが吹っ飛ぶ計算となります。IMFは「大恐慌以来、最悪の不況を経験する可能性が高い」と危機感を示しています。大恐慌時の1929~1932年に世界のGDPは10%縮小したそうです。

 2021年の世界の成長率については、今年後半に感染が収束に向かうことを前提に+5.8%と急回復すると予測していますが、感染症の専門家達との見方とは異なる楽観的な前提となっており、果たしてV時回復が期待できるのか注目です。
(経済見通し 世界2020年▲3.0→2021年+5.8% 米国同▲5.9→同+4.7% 日本同▲5.2→同+3.0%)

全値戻しのドル/円は半値戻しの水準を模索

 NYダウの半値戻しに対してドル/円は既に3月後半にほぼ全値戻しをしています。ドル/円は2月後半の112円台前半から、新型コロナウイルスの感染拡大による経済悪化懸念によって101円台前半に急落しましたが、3月後半に向けてドル資金需要が高まり、ドル全面高の中で111円台後半まで戻しました。ほぼ全値を戻した動きです。しかし、期末・四半期末のドル資金手当てが一巡するとドル/円は下落し、112円台と101円台の半値である106円台後半に収束していくような動きをみせています。

 4月に入ると1,000ドル単位で動いていたNYダウも激しい動きが落ち着いてきました。これを受けてドル/円も50銭~1円の値幅で動くようになってきました。ドル/円は現時点では半値以上戻していますが、上値が徐々に重くなってきています。FRBのあれだけの資金供給が出れば、早晩、ドル/円は半値以下の水準へレンジが切り下がってくるかもしれません。