相続発生により自宅売却を余儀なくされ、住む家を失うことを防止するための権利である「配偶者居住権」が、2020年4月1日に適用開始されました。

 これを用いた節税も可能ですが、注意点もあるので、確認していきましょう。

「配偶者居住権」ってなに

 配偶者居住権は、話題になったのでご存知の方も多いかもしれません。

「配偶者居住権」とは、被相続人が所有していた自宅建物に配偶者が居住していた場合、その建物に配偶者が引き続き無償で居住することができる権利です。

 相続財産の大部分が自宅というような場合、遺産分割を行うために自宅を売却せざるを得ないケースが少なくありませんでした。そのため、配偶者が新たに住む家を見つけないといけないという問題点がありました。これを回避するために設けられたのが「配偶者居住権」です。

配偶者居住権を活用すると節税ができる

 この配偶者居住権を活用すると、相続税を節税することが可能です。

 例えば、夫の相続(一次相続)時、相続財産の中に評価額5,000万円の土地と、評価額500万円の木造建物(築20年)があったとします。

 妻の年齢が70歳とすると、平均余命20年、法定利率3%での複利現価率0.554に基づき配偶者居住権を計算します(計算方法は特に覚えなくても大丈夫です。結果だけ見ておいてください)。

 この場合、

・建物:配偶者居住権:500万円
    居住建物:ゼロ
・土地:配偶者居住権に基づく敷地利用権:2,230万円
    居住建物の敷地の用に供される土地:2,770万円

 に分かれることとなります。

配偶者居住権は二次相続の際に消滅する

配偶者居住権を設定しない場合

 まず、妻が土地5,000万円と建物500万円を相続しました。その後、妻に相続が発生(二次相続)すると、子は土地5,000万円と建物500万円の5,500万円が相続財産となります(小規模宅地の特例は考慮せず。二次相続時も土地と建物の評価額は同額とする)。

配偶者居住権を設定した場合

 一次相続時に妻が配偶者居住権および配偶者居住権に基づく敷地利用権(500万円+2,230万円=2,730万円)を相続し、子が居住建物と居住建物の敷地の用に供される土地(0+2,770万円=2,770万円)を相続するとどうなるでしょうか。

 二次相続時には妻が死亡しているため、配偶者居住権や、配偶者居住権に基づく敷地利用権は消滅し、相続財産から外れます。そのため、子は一次相続時の2,770万円のみが相続財産となるのです。

 このように、配偶者居住権を設定することにより、本ケースであれば配偶者居住権および配偶者居住権に基づく敷地利用権に相当する相続財産(2,730万円)を減らすことができるのです。

節税をしてもよいケースとしない方がよいケースとは

 ただし、何らかの理由で自宅を売却する可能性がある場合は注意が必要です。配偶者居住権を設定することで、弊害が生じてしまう恐れがあります。

 少なくとも配偶者が亡くなるまでは自宅を売却する予定がない場合は、トラブルになる恐れは少ないでしょう。

配偶者居住権の設定後に自宅を売却する場合は?

 もし配偶者居住権を設定した後、配偶者居住権を合意の上解除する場合、敷地所有者(子など)としては、配偶者に対し、配偶者居住権相当額の対価を支払う必要があります。もし対価を支払わない場合は、相当額につき配偶者から子へ贈与があったとされ、子は贈与税を支払う必要が生じます。

 例えば、妻と子の間で不仲になり、妻が自宅を出て行き、子は自宅を売却して現金に換えようとしているようなケースです。

 自宅を売却する際は、配偶者居住権は消滅させておく必要があります。この時に、子から配偶者へ対価の支払いが必要です。対価を支払わなければ、贈与税の課税対象となります。

 また、不仲ではないにせよ、自宅を売却しなければならない事情が生じた場合も同様の扱いになります。

 もちろん、このような課税上の注意点を理解の上、あえて実行するのであればよいのですが、「相続税の節税になる!」というだけの安易な理由で配偶者居住権を設定するのは危険です。専門家にも相談の上、慎重に検討するようにしてください。

 配偶者居住権の規定はまだ開始されたばかりで、まだ実務が積み上がっていません。そのため扱いが不透明な部分もありますが、それについては今後だんだんと明らかになってくると思います。